傘寿になって、まだまだ長生きしそうなミック・ジャガー
ローリング・ストーンズの不動のメンバーだったドラムのチャーリー・ワッツは、2年前の2021年の8月24日に亡くなっているが、ヴォーカルのミック・ジャガーは、今年の7月26日に、80歳になったんだそうだ。
2019年に心臓を手術したというニュースがあったが、それ以降は、ますます健康的な暮らしをしているようだ。運動をして、食事にも気をつけて、メンタルも改造して、みたいに、やれることは全部やっているような感じだ。
日本的な言い方だと、80歳は「傘寿」になる。「傘寿」と書くと、ものすごく年寄りな感じがして来る。ジャガーと同じ1943年生まれの有名人は、日本人だと、故・樹木希林、故・アントニオ猪木、加藤茶、加賀まりこ、加藤登紀子、小室等なんかがいる。
こうして並べてみると、ミック・ジャガーだけ、ずば抜けて若い印象を受ける。加藤茶などは「傘寿」でぴったりな感じがするが、ミック・ジャガーではまるでしっくりこない。
ロックミュージック関係の人と比べてみると、日本では今年の1月に高橋幸宏が70歳で亡くなり、鮎川誠が74歳で亡くなっている。3月には坂本龍一が71歳で、7月にはパンタまでが、73歳で亡くなっている。みんな80歳まで生きられなかった。彼等と比べると、ミック・ジャガーはとても元気だ。
その昔は、ギタリストのキース・リチャードと一緒に、セックス・ドラッグ&ロックンロールを体現する不健康の象徴だった人だ。初代リーダーのブラアン・ジョーンズも死んでいるし、誰もがミック・ジャガーも早死にするんだろうなと思っていたはずだ。
ところがどうしたことか、ミック・ジャガーは、1980年代になると急にジョギングをする人に変貌してしまう。毎日10キロくらい走っているという情報が流れてきて、インタビューでは、ドラッグはやめたとか、煙草を吸う奴はバカだとか、そんな発言ばかりになっていく。
一方でセックスに関しては相変わらず旺盛で、浮名も多かったし、パートナーもジェリー・ホールと別れて以降は、とっかえひっかえの印象を受ける。
現在のパートナーは、40歳以上年下の30代のバレエダンサーで、ジャガーとの間には子供も生まれている。ジャガーにとっては8人目の子供なんだそうだ。確か、この一番最近の子供は、孫よりも年下に当たる。
複雑な人間関係だけど、当人たちにはなんでもないことなのだろう。
現在のミック・ジャガーは、運動をして、食事もコントロールして、メンタルも最強にして、完璧な健康管理の人になっている印象を受ける。
1日に3時間の運動が日課だと言う。ストレッチや筋トレはもとより、有酸素運動もやって、その他に、ピラティスだかヨガもやっていると言う。
食事も、カロリー計算をして、糖質を制限して、代謝を上げるメニューにして、3食きちんと食べているのだと言う。精神面も、メンタルタフネスだか、マインドフルネスだかで、最強に整えているのだそうだ。
YouTubeに、日々に行っている運動動画がアップされている。
これを見ると、ほとんどアスリートみたいなことをやっている。考えてみたら、ローリング・ストーンズのミック・ジャガーという立場は、アスリート中のアスリートに違いない。
こんなことを毎日やるのは、ものすごく大変に見えるが、本人は素っ気なく、楽しくはないけど、やるべきことだからやっていると答えている。
ストーンズは、去年の2022年もツアーをやっている。YouTubeには、観客が撮った動画が大量にアップされている。
これらを見ると、ジャガーは、相変わらず激しく動きまわっているし、体型は若い頃と大差ないように見える。とにかく太っていないところがすごい。年齢相応の歌い方なんかするつもりはさらさらないようで、死ぬまでパワフルなミック・ジャガーをやると決めているのだろう。
ただ、声の衰えは、否めない。ミックの声の衰えがあらわになってきたのは、10年くらい前からだろうか。2008年の映画『シャインライト』の頃までは揺るぎなかったが、2010年代になると確実に衰えが感じられるようになってきた。
これは1歳年上のポール・マッカートニーにも言えることだが、二人とも70代に入って、さすがに声が衰えてきた。といっても、二人ともまだ現役でステージに立っているし、年齢を考えると、十分に声が出ている方だろう。
まあ、とにかくそんなミック・ジャガーだから、80代になっても、より一層元気で、この先まだまだ長生きしそうに見える。
ミック・ジャガーの何がすごいのかというと、実は若さとか体型維持なんかとは違って、結局は声なのだと思う。
歌が上手いのかといったら、よくわからない。初期のブルースナンバーやロックンロールのカヴァー以外、ほとんど他人の曲を歌わないので、比べようがないのだが、何でも歌いこなせるような歌唱力がある人ではないと思う。
そのかわり、何を歌っても、ミック・ジャガーの歌になってしまうのだろう。
歌唱力以前に、とにかく声が独特なのだ。ワンフレーズ聴いただけで、誰が歌っているかわかるし、妙に粘っこくて耳に残るのだ。加齢によって、声は確かに衰えてきている。しかし、逆に声の特徴は際立ってきている気がする。
いい声なのか、いやな声なのかわからないが、聞き手の好き嫌いに関係なく、聞こえてくる声なのだ。大勢の声に交じっても、一人だけ、抜けて聞こえてくるのだ。
つまり、届く声なのだ。
この届く声というのが、ロックには重要なのだ。歌詞の中身にメッセージがあってもなくても、聞き手にコトバが届いた時点で、それが、衝動を突き動かすメッセージになる。それがロックなのだ。
たいていのボーカリストは、声の質によって分類出来る。ああ、あの人はあの系統の声だね、って、普通は分けたり、連ねたり出来るものだ。ところがミック・ジャガーの声は、誰にも似ていないから、分類も出来ない。
歌唱法も独特だ。歌うとか歌い上げるというより、声を押し出す感じだ。高さの別はあるが、常に直線的に押し出すような歌い方だ。バラードも情緒たっぷりに歌うなんてことはしない。感情を込めて歌うというよりは、攻撃的に歌うのだ。
こういう歌い手は、他にいないと思う。
そして、ロック・ミュージックがなかったら、この声の「使い道」はなかったように思う。
たとえば、ロッド・スチュアートは、ロックじゃなくても、歌手として大成しただろうし、フレディ・マーキュリーは、なんならオペラやミュージカルでも通用したと思う。
でも、ミック・ジャガーの声は、ロック以外には使えないのだ。その意味でミック・ジャガーは、唯一無二の、最適最強のロック・ヴォーカリストなのだろう。困るのはその先だ。ミック・ジャガーが死んじゃったら、ロックは完全に終わってしまう気がする……。
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