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スパークスのこと 3 ブームの後に

1 スパークスのインフレ


ネットの中でのスパークスのブームも、とっくに一段落した感じだ。3月に『アネット』というレオス・カラックス監督の映画が公開されて、その少し後に『スパークス・ブラザース』というスパークスのドキュメンタリー映画が公開されて、それで、急にスパークスに関する記事や感想が増えていたのだ。

そういった記事や文章を見て、2000年代に入ってから、スパークスが数回来日していたことを知った。私は、コンサートに、もう20年くらい行かない人間になっていたので、まるでチェックしていなかった。一回くらい行っておけばよかったと思ったが、この先、来日が実現しても、多分、行かないと思う。

私はコンサートは嫌いなのだ。ある時期から、観客の集団の中にいるのがいたたまれなくなって、コンサートは避けるようになっている。

ところで、スパークスに関する記事や文章の中で圧倒的に多かったのが、全然知らなかったけど、良いバンドだ、みたいな反応で、私の知らないことを教えてくれるものは、ほとんどなかった。スパークスの記事が増えるのは良かったが、中身はあんまりよくなかった。

2 映画『アネット』感想文


4月4日に書いた映画感想文。レオス・カラックス監督 『アネット』

スパークスが音楽を担当しているのは知っていたが、原案もだと知って、早速、観に行った。アップリンク吉祥寺、公開初日の3回目の上映は、58席ある会場が満席だった。満席だったのは、スパークスというより、監督のレオス・カラックスの人気なのだろう。

私は、カラックスの映画は、以前に『ポンヌフの恋人』を、レンタルで借りて、早回しをしながら見ただけで、あまり印象に残っていない。一部には熱狂的なファンがいる監督らしいが、私は苦手かな、と思っていた。私は断然、スパークス贔屓なのだ。

さて、この映画のハナシは、こんな感じだ。毒舌コメディアンの男が、オペラ歌手の大スターの女と結婚して、女の子が生まれる。アネットと名付けられたのだが、アネットは、人間が演じないで、人形で出てくる。

操り人形のような時もあるが、人形作家が作った木製の人形のような、妙なリアルさのある人形だ。時々、ちゃんとした赤ん坊のような仕草で動くので、かなり不思議な印象を受ける。でもすごくかわいい。

父親は落ち目になり、母親のオペラ歌手も亡くなる。すると、まだ赤ん坊のアネットが母親のような美声で歌い出す。父親は、アネットを連れて、ツアーに出る。

ベイビー・アネットは、大人気になるが、事情があって、引退することになる。ベイビー・アネットの最後のステージは、なんとスーパー・ボウルのショーだ。そこで…。

という、奇想天外なお話だ。

起承転結とか伏線とか、そういった約束事とあまり関係のない、自由に作られた映画で、気持ちがよかったし、スタンドアップコメディアンとか、オペラ歌手で大スターとか、全然ピンとこないが、あまり気にならなかった。

水原希子とか、古館なんとかさんとか、日本人俳優が、3、4人、ちょい役だけど出て来たので驚いた。あとでチラシを見たら、フランス・ドイツ・ベルギー・日本・メキシコ合作とあった。

監督はフランス人で、映画の舞台はアメリカで、英語が話される映画だった。監督にとっては、初めての英語の映画なのだそうだ。

そして、英語の曲が歌われるミュージカルだった。曲は、もちろんスパークスだ。そもそも、企画原案がスパークスで、それを知った監督が映画化したいと申し出て実現した、とチラシなどにあった。

この映画の持つ不思議な感覚は、監督の味なのかスパークスの味なのか、私にはよくわからなかったが、スパークスの持つ違和感ポップな味わいは、映画の至る所にあって、個人的に私は楽しんで観ることが出来た。

しかし、この映画で聴こえてくるスパークスの音楽は、スパークスの音楽の中では、少し地味な感じがした。それはスパークスの曲を登場している役者が歌っているからだ。

それもソロで歌っていて、多重録音のコーラスもない。ラッセル・メイルが歌えばいいのにと思った。どうせなら、スパークスの70年代や80年代の曲も取り入れても、ガンガンやれば良かったと思う。そうすれば、音楽映画として、もっともっとポップになったのではないか、と、スパークスファンの私は思うのだ。

スパークスの兄弟は、オープニングとエンドロールの時に、出てくる。特に兄のロン・メイルがとても楽しそうで、それがよかった。

さて、今度は、スパークスのドキュメンタリー映画、『スパークスブラザース』だ。4月8日から立川で公開だ。

3 映画『スパークス・ブラザース』感想文


4月23日に書いた映画感想文。『スパークス・ブラザース』 エドガー・ライト監督作品

先日、立川のキノシネマという高島屋の中にある映画館で『スパークス・ブラザース』というスパークスのドキュメンタリー映画を観てきた。すごく面白くて、楽しかった。

映画の中で、スパークスは、音楽スタイルがコロコロと変わって、一つ所にとどまっていない、などと語られていて、言われてみて、そういえばそうだなと、初めて思った。

40年以上、スパークスのファンをやって、アルバムを聴き続けているが、私はそんな風には認識していなかったことに気が付いた。

私にとってスパークスは、ロン・メイルの顔があって、ラッセル・メイルの声があって、それがあればスパークスだったので、常に一貫しているという認識なのだ。ま、いいか。

映画は、ドキュメンタリーなのだけど、スパークスの裏側とか、兄弟の私生活とかは、ほぼ触れず、スタッフも家族も出てこなくて、バンドメンバーだった人たちがちょこっと出てくるくらいだった。あとは、ファンや共演したミュージシャンたちの証言だ。

よくあるロックドキュメントとは違って、映画がそのままディスコグラフィになっていた。年代順に全アルバムを取り上げて、その時代背景と、スパークスの歩みと共に、作品の中身に触れて、位置づけをしていくのだ。そういう画期的なロックドキュメンタリーになっていた。なにより、インタビューを受けている楽しそうな二人が良かった。


季節も夏になって、スパークスに関して文章を書く人もいなくなった。ちょっと寂しい。その後、吉祥寺からは、タワーレコードが撤退してしまったし、吉祥のディスクユニオンのスパークス・コーナーが充実した、なんてこともなく、私の周囲にはやっぱりスパークス・ファンはおらず、また昔の日常に戻ってしまった。そんなもんか。

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