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映画日記『東京2020 オリンピック SIDE:B』全編予告映像みたいな疾走する125分!

立川のキノシネマという映画館で、河瀨直美の『東京2020 オリンピック SIDE:B』を観てきた。ここの映画館で観るのは『スパークス・ブラザース』以来、2回目だった。

キノシネマ立川は、高島屋の8Fにあって、スクリーンが3つある。スクリーンの1と2は、87席あるが、スクリーン3は25席しかなかった。座席は5列あって、1列目は3席、2列・3列は各6席、4列5列は、各5席だ。

2列目と3列目は電動リクライニングになっていて、別料金700円がかかる。残りも3列も、リクライニングシートで、ひじ掛けも太いし、右側にはテーブルもついている豪華な座席だ。

私は結局、最後列の5列目で見た。スクリーンが小さいので、ずいぶんと遠かった。視力が悪いので、字幕が見えるか見えないかくらいの感じだった。次回、ここで見るときは、最前列にしようと思った。最前列は、3席の両側にスペースがあって、車いすの場所だそうだ。


1 裏方さんは、とくに出てこない映画だった


東京オリンピックには興味がなかったが、河瀨直美の撮った記録映画がとんでもないと、一部で話題になっていたので、観に行ってきた。ボロクソな言われようだったので、つい見たくなってしまったのだ。ちなみに河瀨のせの漢字は「瀨」なのだと、初めて自覚した。今まで「瀬」だとばっかり思っていた。

私は河瀨直美とも相性が悪い。これまでに観た河瀨作品は、『萌の朱雀』と『七夜待』『あん』の3つくらいしかないが、どれも面白いと思ったことはない。そのほかに、何作かレンタルで借りたが、早回しして、途中で止めている。

『東京2020 オリンピック SIDE:B』は、2021年に開催された東京オリンピックの公式記録映画だ。河瀨直美が総監督だ。アスリートや競技を中心に描いた「SIDE:A」と、裏方などの非アスリートを描いた「SIDE:B」との2部構成になっている。

私が今日、観てきたのは、SIDE:Bだ。審判や競技場のスタッフ、ボランティアや、選手村の食堂の人や、競技場の建設現場の人などが出てくる映画だと思ったら、そういう裏方さんはほとんど出てこなくて、オリンピックの大会組織員会が主役の映画だった。

森喜朗とか、バッハ会長とか、橋本聖子なんかが、主人公だ。彼らはアスリートではないが、裏方さんでもないと思うのだが……。オリンピック限定で、パラリンピック関係者ほぼ出てこなかった。ちょっと詐欺に遭ったような気持ちになった。

2 魑魅魍魎が跋扈する権力闘争を外側からさしさわりなくなぞる映画だった


しかし、映画自体は面白かった。あんまり見たことのないタイプの映画だったからだ。125分くらいの映画なのだが、全編が予告映像みたいだった。コマ切れな断片の積み重ねで、そのうちに本編が始まるのだろうなと思っていたら、まるまるそんな映像で125分やり切って、本編なんかなかった。

出てくる人は、全員、顔面のアップで、上下か左右か、どっちかが画面から切れていて、短い人で0・何秒、長くても10秒もない断片で、一言二言発言しているのだが、コトバが終わらないうちに別の人の顔面にかぶさったり、これはつまりそのコトバを聞いている時の顔なのだろうけれど、前後の流れとか、背景の説明もないし、まして、時系列で編集しているわけでもないから、事実関係を把握することがまったく出来ないのだった。

もしかして、非公開の会議にカメラを持ち込んでの映像なのかもれないが、そういった情報は一切示されない。まったく日にちもメンバーも別のものが、編集されて、繋げられているかもしれないが、観ている方には確かめようがない。しかもテンポがはやくて、一つ一つを考える余裕がないから、観客に思考停止を要求する映画と言える。

途中、5歳くらいの少女が何度も出てくる。男の子も出てくる。大概、木漏れ日があって、草木の緑があるシーンだ。8ミリ映像みたいな懐かしいトーンの映像だ。プロモーション映像に、自主制作映画の映像が挿入されているような、違和感がある。子供は、無垢なものの象徴なのだろうか。時々、大人の女性の声と会話をしている。母親と話しているのだろうか、それとも河瀨監督本人がインタビューアーになっているのだろうか、とか、映画を観ていて気が散った。

一応、推進派、反対派の両方に気を使っていますよというアピールはしているが、実態は、公式記録映画なのだから、推進派べったりでしかないと思う。オリンピック開催に対する反対意見やデモ隊を映したりしているが、取材しているわけではない。逆に森喜朗や橋本聖子には、じっくりと取材しているのがわかる。

3 全く出てこない安倍晋三と、聞きづらい素人女性の歌がエンディングの映画だった


それにしても、こんなすごい映画は観たことがないなと思った。こんな映画、よく作ったなという意味での、ものすごい、だ。東京オリンピックというよりも、人間・森喜朗や人間・橋本聖子に迫った映画だと言えないこともない。

コロナが起こって、開催を一年延期して、組織委員会の会長の森喜朗がやめて橋本聖子に交代したりして、といった数々の障害を乗り越えて、なんとか開催にこぎつけて、前代未聞の無観客のオリンピックだけど、見事に成功させた、みたいな、オリンピック組織委員会の物語だ。

なぜか安倍晋三は、一瞬も登場しないし、誰も安倍の名前を口にもしない。意図的に排除されているとしか思えない。これは排除なのか、忖度なのか?猪瀬直樹も出てこなかったか……。

記録映画としての体はなしていない。データや数字が一切出てこない。後で検証なんかされてたまるか、という気概に満ちた?映画だと思う。公式映画だけど、記録映画ではない、なんてことかもしれない。

エンディングの曲もすごかった。女性が歌っているのだけれど、やけに素人っぽい。下手だし、歌詞も中途半端というか、妙に個人的なコトバだったし……。SIDE:Aで話題になった藤井風の曲を使わなかったのは、なんでなのだろうか。最後の最後で、これが私の作った映画よ、と監督がマーキングしているような気がした。

とにかく、すごい映画ではあった。

追記

エンディングの歌は、河瀨直美監督本人が、作詞作曲して歌っているという情報がある。そう言われれば、そんな曲だったような気がする。そうならそれで、やっぱりすごい映画だったと思う。もしかしたら、途中にたびたび漏れ聞こえてきた、お母さんのような、うん、うん、と相槌を打つ女の人の声も、監督の声だったかもしれない。最後の最後で、公式プライベート映画になってしまったのか、それはそれですごい。

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