見出し画像

箱根暮らしのススメ その4

2018年12月発行
「まいにち箱根暮らし。」Vol.04に掲載したコラムを
Web用に加筆修正して掲載しています。


箱根暮らしのススメ その4

ちょっと変わった夫婦の箱根移住ものがたり。

2016年11月、1組の夫婦が箱根に移住してきた。

それから1年。

プロデュースする写真展も無事に開催に漕ぎ着け町内のイベントにも参加し、
順調に箱根ライフを満喫する日々。

そんな2人に新たな転機が訪れる。

箱根での生活がスタートし、色々な人に会い、
繋がりが広がっていく中で徐々に
「自分たちも箱根で何かをやりたい」という気持ちが強くなってきた。

とはいえ、自分達のお店を出したいとかそういうのとはちょっと違う。

自分達にしかできない何か。
きっかけは意外なところに転がっていた。

箱根のとある飲食店に置いてあった、フリーマガジン。

パラパラとめくっていた嫁が
「ねぇ、こういうのって作れるの?」
「んー、たぶん。」

この頃すでにフードフォトグラファーとして日常的に料理写真を撮り、
ネットなどで記 事を書いていた嫁。

旦那は以前フリーランスで活動していた頃に、
インディーズミュージシャンのファンクラブの
会報誌なんかを作っていたことがある。

かなり昔のバージョンだが、 その手のソフトもそれなりに使っていた。

細かい問題は後から考えるとして、
「作れるかどうか」であれば「Yes」である。

そうと決まればこの夫婦の動きは早い。

フリーマガジンのコンセプトもほぼ同時に決まった。

箱根移住者と地域住民、移住者と移住者、
そして箱根への移住を希望している人たちをつなぐような、
地域密着型のフリーマガジン。

観光地箱根で、観光客向けではなく地元住民に向けた情報発信。

フリーマガジン「まいにち箱根暮らし。」の骨格ともいえる部分は、
ほぼその日のうちに決まっていた。


調べてみると地域密着型のフリーマガジンというのは意外と多い。

インターネットに情報が溢れている現代で、
あえて手に取っても らう紙の媒体での情報配信が見直されている。

リトルプレスとして静かなムーブメントになっており、
おかげでフリーマガジンの制作から配布まで
色々な情報を簡単に手に入れることができた。

ただし、箱根ならではの大きな誤算もあった。

通常、個人で作る規模のフリーマガジンだと数百部程度の発行部数で創刊し、
商店などにお願いしてその部数を置かせてもらうのが大変、
ということだったのだが。 

箱根ではほとんどのお店が
既に観光系のフリーマガジンやパンプレットを複数置いている。 

電話でお願いするとあっさりと許可がもらえてしまうのだ。

そして、1店舗ごとの置いてもらえる部数も予定していたよりもかなり多い。
 当初予定していた500部では全く足りず、
創刊号は予定の10倍の5000部でスタートすることになった。

箱根おそるべし、である。


翌2018年3月、「まいにち箱根暮らし。」創刊号を発行。

地元住民向け、地域密着、移住促進、
箱根好きの移住者夫婦が取材も制作も配布も全部2人でやっている、
といったコ ンセンプトも興味を持ってもらえ、
暖かく受け入れてもらうことができた。

ここまで約1年間活動してきたが、
取材の依頼も設置のお願いも断られたことが一度もない。

移住してきて1年と少し。

お店をやっているわけでも、特別な経歴があるわけでも、
何かのコネがあるわけでもない。

そんなどこの馬の骨ともわからないような夫婦が始めたフリーマガジンが、
すんなりと、暖かく迎え入れてもらえた。

「まいにち箱根暮らし。」のコンセプトに
共感してもらえたというのはもちろんだが、
箱根という町自体にそういう外から来た新しいものを
受け入れる土壌が出来上がっているのだと感じる。


もちろん歴史のある土地特有の、
排他的な部分もある。

コンビニなどのチェーン店の新設が
地元住民の強い反対にあうこともあるようだ。

それでもこうして、
箱根に移り住み何か新しいことを始めようとする人に対して
温かく受け入れてくれる土壌がある。

街全体として少子高齢化や働き手世代の流出などが問題となっているが、
多くの過疎地と違ってそれを解決する手がかりとなる経済の柱、
そして町の活気は残っている。

多くの人が町が変わる必要性を感じ、
そのきっかけを待ち望んでいる。

「まいにち箱根暮らし。」という媒体の運営を通して、
町全体のそういうエネルギ ーのようなものを感じることができた。

この記事が参加している募集

自己紹介

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?