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「ラオス産バナナ、日本のスーパーで見たことありますか?」のつづき(もう少し掘り下げてみた)

ラオス産バナナ、日本のスーパーで見たことありますか?」を書いた後、知り合いの方が、日本のスーパーで売られているラオス産のバナナの写真を送ってくださった。

saekiのセレクトバナナ
日本のスーパーで売られていたラオス産のバナナ

関東の方にある「さえき(saeki)」というスーパーで売られていたバナナで「原産国:ラオス」と表示されており、「さえきセルバホールディングス共同開発」とも書いてある。知らせて下さった方によると、1年ほど前から売られており、この写真のバナナは「199円」。バナナの味としては「普通のバナナ」だそう。
ちなみに、スーパーの売り場には「標高900mで育った さえきセレクトバナナ」と書いてあったらしい。

ということで、ラオス産バナナについては割と反響もあって、ラオス産のバナナが日本に輸入されているという情報が、個人的にも、なんとなく気になったので、深堀してみた。

1.ネタ元と思われる記事

ネットで検索してみると、すぐに日本経済新聞の下記の記事がヒット。

有料会員限定記事なので、会員じゃない場合は、最初の少ししか読めません。すみません… 無料会員でも月に1本だけは、有料会員限定記事を読めるので、気になる方は無料会員になって、読んでみてください。

記事の内容は、「ラオス産バナナ、日本のスーパーで見たことありますか?」で書いたラジオ番組の内容と、かなりリンクしている。

例えば、

全日空商事グループで輸入食品を扱うANAフーズ(東京・港)は、高地栽培したラオス産バナナの調達に力を入れる。2022年から取り組み始め、全国の食品スーパーに展開している。23年3月までに月2万ケース(1ケースは13〜15キログラム)を販売した。

日本経済新聞電子版

ラオス産の輸入にはフィリピン産と違って関税がかからない。輸入商社や流通業者などで組織する日本バナナ輸入組合(東京・千代田)の明石英次事務局長は「地理的に近く関税面で有利なアジアの国は、今後の有力産地になる可能性がある」と指摘する。

日本経済新聞電子版

など。

ラジオ番組では、『これまでも、バナナ関連のトピックを何度も取り上げてきた』と言っていたので、この記事が目に付いて、今回も、このトピックを取り上げたのかも。

ただ、新聞記事では、記事の最後に、生食用ではなく、調理して食べるタイプのバナナについて触れられているが、ラジオでは、その点には触れていない。
逆に、ラジオでは、ベトナム産のバナナについての具体的な話があったが、新聞記事では、タイトルの通り、主にラオスについて詳しく述べている。さらに、新聞記事ではサラっと言及されていた内容を、(新聞記事では「フィリピン以外の東南アジアの国」という言い方になっているが)『なぜ、今、東南アジア産なのか?理由は大きく3つある』ということで、新たな情報も加えて、詳しく掘り下げて説明ているし、新聞記事には載っていない内容である、ラオスでバナナの商業生産が始まった経緯などにも触れている。

とうことで、元ネタは日経新聞の記事で、その中から気になる部分をさらに深堀して、ラジオではお伝えしているということのかもしれない。


2.ラオス産に関税がかからない理由

ちなみに、上記の新聞記事の内容にも出てきていて、ラジオでの話にも出てきた「ラオス産には関税がかからない」というのは、特恵関税というもので、途上国からの輸入品に対して、一般的な関税より低い関税を設定して、途上国の経済発展を支援するという制度によるもの。

ちなみに、ラオスは「後発開発途上国」という、最も開発が遅れている国に分類されているので、最も関税が低く設定されている。ただし、なんでも無税という訳ではなくて、工業製品、農産物など「HSコード(関税分類番号)」によって、商品ごとに、かなり細かく決められている。

輸出入に関わっている人にとっては、割と一般的な情報だとは思うが、関わっていない人からすると「なんで、ラオス産には関税かからないの?」と思われるかもしれないので、少し補足。

なので、日本や海外の企業や工場が「安い人権費を求めて、途上国に生産拠点を移す」というのは、よく聞く話だと思うが、実は、この「特恵関税を利用できる」というのも、大きなメリットの1つ。
工業製品の場合、製造や加工する製品や原材料をどこで調達するか、それから、どの程度の加工を加えるかによっても、色々条件が変わってくるが、農産品の一次産品の場合、基本的には100%自国生産ということになるので、特恵関税を受けやすい。

ただ、ラオスの場合、内陸国ということで海がない。つまり、自国に港がないので、輸出する場合、割高の空路を利用するか、隣国のタイやベトナムまで陸路で運び、他国の港から日本などの海外に船で運搬する必要がある。
そのため、港を持つタイやベトナムに比べると、港までの輸送コストが余分にかかってしまう。その点が、ラオスから輸出するときの不利な点なのだけれど、それらの国に比べて、まだ人件費が割安ではあるので、それを差し引いてでも、ラオスから輸入した方が割安な製品については、ラオスで生産することのメリットがある。

ということで、バナナは、その割高な輸送コストを勘定に入れても、人件費を含む生産にかかるコストや関税が無税というメリットが勝ったケースなのかもしれない。


3.ラオス産のバナナの栽培地

それから、ラオス産のバナナについて、記事では、

ラオスのバナナは昼夜の寒暖差が大きい、標高の高い土地で栽培する。低地の園地よりも収穫までの生育期間が数週間長い。でんぷん質を多く蓄えており、甘みが強い。店頭では1パック250円程度と、フィリピン産よりも手ごろな価格で並んでいる。

日本経済新聞電子版

と書かれているし、ラジオでも『ラオスのバナナ農園は標高の高いところにあり、昼と夜の寒暖差が大きくて、甘く育つ』と言っていた。
冒頭で紹介した日本のスーパーで売られていたバナナについても「標高900mで育った」という説明書きがあったということで、日本に輸入されているバナナは、基本的に高地で栽培されているとみて、間違いなさそう。

ちなみに、バナナと言っても種類がたくさんあって、普通に平地で育つバナナもたくさんある。うちの家の周りにもバナナの木があるし、普通に甘くなる種類もある。
ただ、高地で栽培すると、平地より気温も低いので育成期間が長いけど、寒暖差もあり、より甘くなるということなのだろう。

日本に輸入されているバナナは標高の高いところで栽培されていると言うことで、ラオスで標高が高いところでバナナ、と言われると、おそらく、北部の山岳地域か、南部のボラヴェン高原か、と予想されるのだけれど、今のところ、どちらで栽培されたものかは情報を得られていない。

この南部のボラヴェン高原というのは、私の住んでいるパクセーの近くで、コーヒーの名産地として有名な場所だが、お茶や高原野菜なども栽培されており、もちろんバナナも栽培されていて、隣国タイに輸出もされている。
私も仕事柄、ボラヴェン高原の方にもよく行くし、それなりにネットワークもあるのだが、今のところ、日本へバナナを輸出したという話は聞いていない。(もちろん、私が知らないだけという可能性もある)

ちなみに、最近のトピックとして、このボラヴェン高原の一部であるチャンパサック県のパクソン郡では、土壌の劣化を招く作物の栽培が禁止されたのだけれど、その禁止作物の中に「クアイホム」というバナナも含まれている。その禁止の理由は「環境や人体に有害な農薬を大量に必要とするため」ということだ。

次に、北部の山岳地である可能性を考えた時に、ラジオでの話では、以下のように紹介されていた。

東南アジアが注目されているが、生産の歴史は浅く、ラオスの場合、商業生産が始まったのは2005年。きっかけは、中国から来たバナナ投資家たち。土地を買って、農園を作って、あっという間に生産国にしていった。
もともとラオスは農業国なので、田んぼや畑がある。
中国は、もともとフィリピンからバナナを輸入していたが、約10年前に領土問題で揉めた。その報復で、一時期、フィリピンからのバナナの輸入を停止。そこで、狙いを定めたのが、バナナの生産に適した気候の隣国のラオス。しかも、甘い。

「安住紳一郎の日曜天国」2023年4月23日の放送内容

「隣国のラオス」というだけあって、ラオスと中国は、ラオス北部の国境で接している。
もともと、ラオスでは、日常的に色々な種類のバナナを食べるし、バナナの実だけではなく花も食べるし、バナナの葉も料理や装飾品など色々な用途に使うので、バナナの栽培自体は普通にされていたのだが、いわゆる「プランテーション」のような大規模な農園で栽培され始めたのが、この中国資本の北部の農園だったというのは、ラオスでは有名な話で、みんな知っていること。
ネットなどで検索すれば色々出てくると思うので、ここでの詳しい話は割愛するが、ラオス北部での中国資本のバナナ農園については、農薬の問題、土地の権利の問題など、様々な問題が発生しており、2010年頃からは、ラオス国内のみならず、日本のメディアなどでも取り上げられたりして、2016年にはラオス政府がバナナ農園の新設を禁止したこともあった。
最近は、それほど話題に上らなくなったので、現在、どのような状況なのか詳細は分からないが、少なくとも、ラオス人やラオスに住む外国人にとって、このラオス北部の中国資本のバナナ農園については、あまりいいイメージを持っていないことは確かだ。

ANAフーズの担当者は、ラオス産のメリットについて「フィリピン産の高地栽培バナナより調達コストを下げられ、値ごろ感を打ち出せる。品質管理や包装の技術も、産地との連携によって水準を高めてきた」と話す。現在の販売量は全体の3%程度というが、今後さらに増やしていく考えだ。

日本経済新聞電子版

日本に輸入されているバナナが、この北部で栽培されたものなのか分からないけれど、新聞の上記の内容を見ると、バナナを輸入しているANAフーズは、品質管理にも気を使っているようだし、自社栽培とまではいかずとも、提携農園があるのだろう。

現在、ラオス北部に、中国資本以外のバナナのプランテーションがあるのかどうか分からないのだが、今でも多くは中国資本だと思われる。

さらに、ラジオでの話の流れからすると、南部よりは北部で栽培されている可能性が高いように思われるが、どうだろうか?

ちなみに、細かい話なのだけれど、ラジオでの話の中に『土地を買って、農園を作って、あっという間に生産国にしていった』という部分があるのだが、ラオスでは、外国人や外国資本の法人がラオスの土地を買うことが出来ない。なので、ラオスで土地を使いたい場合は、ラオス人やラオスの法人から借りる、もしくは、ラオス人の名義を借りるかラオス資本100%の法人を作って土地を買うしか、方法はない。
たまに「ラオスで土地は買えますか?」という質問をされるので、念のため、補足。


4.日本でのラオス産バナナの流通

ネットで少し調べてみると、確かに、日本のスーパーでラオス産のバナナを見付けて買ってみた人や、フルーツを販売しているネットショップでも、ラオス産のバナナを販売しているのを発見した。

新聞の記事によると、『ラオス産の輸入量は22年に約3200トンと21年の4.6倍に達した』ということで、ANAフーズは『2022年から取り組み始め、全国の食品スーパーに展開している。23年3月までに月2万ケース(1ケースは13〜15キログラム)を販売した』らしいので、量だけ見ると、思ったより多い感じがする。

とはいえ、ANAフーズが扱うラオス産のバナナについては『現在の販売量は全体の3%程度というが、今後さらに増やしていく考えだ』ということで、月に2万ケースでも、全体の3%。
「日本人、どんだけバナナ食べるねん」と思いつつ、現時点で3%ということは、将来的な伸びは十分期待できそうだ。

同社のラオス産バナナを扱うスーパーの仕入れ担当者は「食味や外観はフィリピン産と遜色ない。産地バリエーションの柱のひとつになりそう」と期待する。

日本経済新聞電子版

スーパーの仕入れ担当者の感触も悪くないようだし、他国の状況にもよるのだろうが、日本のスーパーの店頭でラオス産バナナを日常的に見るようになる日が来るかもしれない。

私は、個人的には、ラオス政府は工業化を推し進めているものの、やはり、持続可能な発展、そして長期的な展望からすると、農業国として発展していくのがラオスにとってはいいのではないか、と思っているので、ラオスから輸出できる農産物が増えることは非常にいいことだと、素直に思う。
さらには、ラオスから日本への農産物の輸出については、これまでに色々な農産物について検討されたけれど、コスト面や鮮度、物流などの問題で、なかなか実現しなかったということもあるので、バナナの輸出が成功例となって、他の農産物の輸出にもつながることにも期待したい。


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