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自転車を手放して大泣きした話

こんなに大きなものを手放したら一皮むけるかなと思った。
ぼろチャリと普段から罵った。
昨日から落ちてきたストッパーがガタガタなるようになってもう限界だなって思った。

ほしいチャリに目星をつけており、
希望のサイズが色違いであったのでそれに決めることにした。
その日に持って帰れるように調整してもらった。

サービス券を取りに帰るために、うちまで最後のサイクリングをした。
手放すか直前まで悩んだ。
持っていても古くなり、そのうち捨てるなら。
大事にお別れをするのもいい。
踏み切りで止まったときに、自転車の写真を撮った。

あと40分で店がしまる。

家で10分悩んで手放すことを決めた。

ウエットティッシュで全身拭いてやった。
撫でながら、『ありがとう。ごめんね。』と声を掛けた。
『最後だから信号一個分待てるといいね。』と言ったけど、どの信号も止まらなかった。

乗りながら写真を撮った。店の前で写真を撮った。
店のなかに持ち込んでからも写真を撮った。
また違うアングルで取った。

処分代金570円を払った。

新しいチャリを持って帰って、
パートナーだった緑の彼は並べられた。

ライトは新しいチャリに付け替えられた。
鍵は忘れられてて、わたしが付け替えた。
遺品だね。

離れがたくて、新チャリのサドルの高さを調整してもらった。
かごの相談や、カバーの相談をした。
もう一度遠くから写真を撮った。
いよいよ閉店間際。

さようなら。無力な君を手放して本当にごめん。
たくさん、ありがとう。

新しいチャリは色が派手で、君みたいに適応がよくない。
別れたあとに乗って気付いたんだけど泥よけもついてない。かごもついてない。大丈夫かな。
軽くておもちゃみたいで頼りないよ。

君が恋しい。大好きだった。
よくこんなわたしに11年も黙ってついてきてくれたね。

まだ涙が出る。

横浜にも往復で60キロを一緒にいったね。
海にはいけなかったね。ごめん、病んじゃったんだ。

心を病んで職場まで抵抗しながら運転した日も一緒だったね。

地元まで三度もいったね。
なかなか遠かったけど、達成感があったよね。
リュック重かったな。
ライトで暗い道を照らしてくれてありがとう。
真っ暗な道は、ドキドキしたね。

大通りを通って渋谷や原宿、新宿や五反田に。
都会にもいっぱい行ったね。
風を切ってビュンビュン君と走るのが本当に好きだった。

目黒の坂はきつかったよね。

何より、毎日通勤では重い荷物を持ってくれたね。
一リットルの水と、重めの水筒と、リンゴとおにぎりを入れた鞄はちょっと重かったでしょう。
書類、資料、ノートと手提げの紐もいつも苦しそうだったのに、全部受け止めさせられて、大変だったね。

ガタゴトの道も、車のすぐ横も、息を合わせて工夫して通り抜けたね。
別々のわたしたちだったけど、のっているときは体の一部だったよ。
君の幅はしっかり把握していた。
身体を木に突っ込んでも、君が車に当たらないように気を付けたよ。

君がボロボロになったように、私も年を取った。
君は買い換えられるけど、私はまだこのままいくよ。
裏切って本当にごめん。

もっと大事にすればよかった。
もっと早く拭いてあげればよかった。
左側からの写真もとってあげればよかった。
まだ君は頑張りたかった?

今日は前も後ろもタイヤがすれた音がしてたよ。
ワイヤーがいつもベロンって、ももをいったり来てたりしてたよ。
かごもちょっと前からぐらぐらし始めてたね。

ストッパーに止めを差したのはわたしだったのかな。いつからかうまく止まらなくなって、無理に重みをかけて直したことがあったよね。

そのあとになるのかな。だんだん上でとどまらなくなって、先週自転車やさんにいったね。
『変えるしかない。3000円。ついてないからまだいいんじゃない。』
いったん様子を見ることにしたんだけど、予言通りここ二、三日はだいぶおちてきてたよね。
不意打ちでとんとんって音をたてて地面にすれるから、ドキドキしたよ。
(限界かな。)って思っちゃったよ。

不調な君を私は、おもしろおかしくいろんな人に伝えたんだ。
そんな自転車に乗ってる自分が好きだったんだな。

そうね。
いま思うとこんなにも君が好きだったなんて驚いているよ。

最後に甘えてたってそんな表現は悲しすぎるね。


君とはもう二度と会えない。
触れることもできない。

明日はいちよう店の前を見ながらいくけどね。

君は私といてどうだった?
これからのことは不安だよね。
最後まで一緒にいてやりたかったのに、ごめんね。

明日から新しいパートナーと、君のライトと鍵を引き継いで走っていくよ。
調子のよさを感じちゃうかもしれないけど、でも11年乗った君の乗り心地を私は、覚えていたいな。

君には伝わらないんだろうけど、人生でこんなに泣いたのはおじいちゃんのお葬式以来かな。
最初は鼻の奥がツンとするくらいだったんだ。
でもお母さんの声を聞いたら急に話せなくなって驚いたよ。

母親との電話でないて、親友との電話で泣いて、スピッツの曲を歌って泣いて、君との思い出を綴りながら泣いて、君を想ってずっと泣いてるよ。
自分でも驚いちゃうな。

どうか少しでも居心地のいい場所で静かに過ごせますように。
絶対忘れないよ。これまでずっと、ありがとう。



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