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二郎から始まる人生ゲーム 第5章

 カツオ船に乗っていた和夫はゴツンと頭を壁にぶつけて目を覚ました。
(あぁ寝てたんだ…リアルな夢だったなぁ…)
 カツオ船に乗る前の夢を見ていたのだろう。今日は波も穏やかで、船を色々な所に動かしているがナブラが全然見つからないらしく、船長が夕方までナブラ見つからなかったら今日は上陸して美味い店に行ってご飯を食べようと言われ、仕事のない船員はそれぞれ昼寝したり、本を読んだりと自由に過ごしていた。
 和夫は日頃の疲れからか、本を読んでいつの間にか寝ていたようだ。
「和夫君!髪切ったるわー!」
松のおっちゃんの声が聞こえる。
「今行くわー!」
和夫は坊主頭が伸びてどうしようも無くなっていたので、やっと自分の散髪の順番が回って来たので、喜んで甲板に上がって行った。
 甲板では椅子が用意されており、松のおっちゃんがバリカンとハサミをブラシで手入れしていた。
「おっちゃん!ありがとう。この写真の髪形にしてくれる?」
松は
「おっしゃ!まだ短い所があるけど、この髪形になるように頑張るわ!」
松は、和夫に理容院で使うのと全く同じカバーをふわっと身体にかけてくれた。もうここは船ではない理容店など和夫は錯覚してしまう程、松は順序良く散髪へと導いてくれた。
「後ろと横がようけ伸びとるから、そこから切ってくわ!」
チョキチョキとハサミを素早く動かす音が聞こえる。和夫は目をつぶってどんな髪形になるのか想像しながら切ってもらう事にした。
松が和夫に話しかける。
「和夫君、髪の毛切るの遅くなってしもうてすまんなぁ。最近は大漁が続いたもんなぁ。やっと切れるわ思うてな。和夫君は頭の形が綺麗やから坊主でもよう似合おうてるけどなぁ」
和夫は、
「中学生になったら坊主にしないとあかんもんでやっとっただけで、あんまり坊主好きやないんよ。」 
松が、
「そうやなぁ、何で中学校になったら坊主にならんといかんのやろうな?」
和夫は自分の考えを松に聞いてもらった。
「中学校に入る頃は成長期やって友達が教えてくれたんや、変な色気出して勉強に害が出るとあかんやろ?せやから髪形を坊主にして坊さんみたいに勉学に集中せいっていう事やなんかなと思うてな。」
松は聞きながらも、ハサミをチョキチョキ動かしながら髪を切ってくれている。
「おっちゃんらは小学生の頃から坊主やで、ごっついバリカン持っとる和尚さんおってな、田舎の子供は日曜日に和尚さんに切ってもらえるように、親が頼んできてくれるんや。俺らはそれを知らんから日曜の朝になると、今日散髪の日やでって教えてくれて、お寺に行って坊主にしてもろうてたわ。」
和夫の故郷でも一応床屋さんはあったので、不思議そうに和夫は聞いた。
「床屋さんは、おっちゃんらが小さい頃はなかったの?」
松は
「あったよ!床屋さんは大人が行くとこで子供らは、朝お寺で和尚さんに頭刈ってもろて、それから日曜日は遊びに行くんや。女の子も髪の毛切ってくれるおばちゃんがおったからな、床屋いかんとそこで切ってもろうてたわ。」
和夫は
(昔は床屋行くのも、お金ようけいって大変やったやなぁ…確かに顔も剃ってくれるし大人が行く所やなぁ)
と考えていると、
「おっちゃんも、戦争中はずーっと坊主やったやろ?あれが嫌いでなぁ。せやから戦争終わってから専門学校行って、髪の毛切る理容師の資格とってきたんや。」
和夫は思い出した。おっちゃんはなんで床屋さんやのにカツオ船乗っとるのか聞きたかったんだと思い出して、
「床屋さん辞めて、カツオ船乗ったの?」
松は、
「床屋さんはおっちゃんの店出しとる町では流行らんかったんや。値段もそれなりにするし、安くしてしまうと生活も出来へんやろ?店出した頃は沢山、町の人らが髪切りに来てくれたりしたんやけどな、みんな造船所と家の往復でたまに飲み屋に酒飲みに行くくらいが贅沢な街やから、男の人はみんんなバリカンを貸し借りしとってな、坊主にしたるんや。結婚式があったりすると来てくれるんやけどな。儲からへんくなって、嫁と娘を嫁の実家に帰したんや。お金貯めて今の店売っといて、違う町に店出そうと思てな。」
和夫はあまりの気持ち良さに、うとうとしながら聞いていた。
「ほんなら、この船1年乗ったら店出すん?」
松は、バツが悪そうな顔をして答える。
「もう2年位乗らへんと、新しい店は出せへんなぁ。色々お金がかかるんや、椅子やら、鏡やら、俺の嫁も今年のカツオ船乗ったお金で、美容師の免許取る言うて専門学校に行ってるんや。そうしたらパーマもおばちゃんらに出来るやろ?パーマはもうかるねん!」
和夫は、娘はどうしてるんやろうと思い松に聞いた。
「娘は中学卒業してから美容の専門学校行きたい言うてな、化粧品を百貨店で売りたいんやて、そうすれば社員割引言うのがあって化粧品も安く買えるから、一石二鳥やろって。がめついやろ?ハハハハハ」
和夫は、
「ほうしたら、今のおっちゃんの店はどないなったん?」
松は、
「もう売ってしもうた。せやけどこのカツオ船に乗る時に、船員の髪の毛を切らせてもらうよってに、頼むに乗せてくださいって頼んでな。」
和夫は、
「そうか僕も同じような理由やわ。先にお給金もらえるやろ、そうしたら家族も楽になる思うてカツオ船乗ったんや。飯炊きの見習いやけど。おっちゃんみたいに夢があってな、カツオ船の船長さんになりたいんや。大人になったら自分の船も欲しいなぁ。せやもんでカツオ船乗って稼いでお金貯めるんや」
和夫は初めてカツオ船の船員に自分の気持ちを伝えた。
松は、
「和夫君はえらいなぁ。俺はカツオ船に乗りたい言うよりも、お金の方が先に来とるわ。乗ってしもたら、何とかなるやろ思うて今も怒られるけどまだあと10か月以上乗っとらなあかんからなぁ。そのうちに上手に釣れるようになるんかなぁ?」
和夫は松を励ますように、
「おっちゃんみんなが言うてたで、上陸する時におっちゃんが髪の毛上手に切ってくれるよってに今年は女の子にモテてしゃぁないって喜んでんで!」
松は、
「そうなんや!それは嬉しいな。漁の時になるとカツオは引っ掛かるんやけど、力が弱いから上にあげられへんもで、機関長に怒られるんや…それが情けのうてな。」
和夫が
「コック長も僕に言うてたけど、仕事をしていきながら覚えて言けば良いって言ってくれたよ。飯いっぱい食べて、身体に筋肉付いてきたらカツオ何本でも上げられるよ!」
髪を切る手を止めずに松は、
「中学生卒業したばっかりの子に慰めてもろて…ありがとうな。」
仕上げに入っているのか、色々な角度から和夫の頭を見てはハサミを動かしている。
「そういえばおっちゃん、散髪のハサミとか潮風で錆びてしまわへんの?」
和夫が聞くと、
「これは牛の革の袋にしまってあって、使うたびに研いだり、手入れするから錆びへんようにしてるんや。宝物やからな。親から高いこのハサミとカミソリ買うてもろてん。師匠に聞いたら大事に使えば何十年も使える聞いてな。これ20年使こうてるんやで。」
和夫はびっくりして、
「そんなにピカピカやのに、20年も使ってるんや。すごいなぁ。僕はまだ何年も使ってる持ち物はないなぁ。」
松は笑いながら、
「まだ15歳やからなぁ。せやから、これから物は大切に使うって考えながら買うと良いよ。自分に必要な物を長く大切に使うていくと段々と宝物になってくるんや。」
和夫は嬉しそうに、
「おっちゃんも散髪のハサミ達が宝物やもんなぁ。そうやって考えて物買うた事なかったわ。ありがとう。物買う時は自分に必要か考えて、買うたら長く大切に使うようにすれば宝物も増えるね。」
松は和夫の肩を小さなほうきで髪の毛を床に落としながら、
「そうやで、何でも大切に使えば宝物だらけや!終わったよ!」
鏡を見せてくれた。思っていた以上に素敵になっていた。
「おっちゃん、ありがとう。これで上陸も楽しみになるわ!」
松は、
「風呂浴びて、くしでセットしてみるといいよ!」
 和夫は船の風呂に入っていった。
風呂場と言っても船に風呂桶と薪を燃やして暖める風呂なので、海水をくみ上げるポンプのスイッチを押すと勢いよく海水が出てくる。水は冷たいが石鹸で髪の毛を洗って船のガラス窓を鏡替わりにして、オールバックや七三に分けて見た。15歳の和夫にしてはまだ大人びた髪形だったが、船長や機関長が、
「和夫!立派になったやんけぇ!上陸が楽しみやのぉ!」
と新しい髪形を誉めてくれて兄やん達も、
「和夫!酒は飲ましたらへんけど、一緒に上陸したらバーに行こうやね!」
とみんなが誉めてくれる。

 和夫は家族と離れて暮らすのは初めての経験だが、礼儀正しく挨拶も毎日一番に起きて船の掃除をしながら、起きてきた船員から順番にしっかり挨拶をするので、船員からは可愛い後輩ができたと評判で可愛がられていた。
 和夫は一生懸命にやらなければいけない事を終わらせるので、来る日も来る日もがむしゃらに働いた。力のいる仕事や、ひもやロープを結ぶのも、状況によっては色々あるんだと沢山の結び方を教えてもらった。日々知らず知らずのうちに成長していったのだった。
 次の上陸日が決まった。もうすぐメインの漁場となる、アフリカのエチオピアまであと少しの所まで来ていた。そういえば家族にも朋輩にも手紙を出していない事に気づいた和夫は次の上陸先で絵葉書を買って送ろうと決めた。
 そうしている内に、上陸日になった。上陸用の服を着て兄やん達と市場を見て歩いた。アフリカ大陸に上陸したんだと教えてくれた。まだ戦争の影響があるのか、銃を持った兵隊が歩き回っていた。和夫は心配になって兄やん達に聞いてみた。
「なんで、あんなに兵隊さんがおるの?」
兄やんは、
「俺らがおっていいのはこの市場だけや、外に出たら盗人がいっぱいおるからな、去年も来たけどやっぱり市場に降ろしてもらうだけでも嬉しいわな。まだ、ちょっとしたもめ事があるんや。念のために銃は持ってるだけやろ。」
兄やん達は、どこにどの店があるのかを把握しており、バーへもすんなり入っていけた。
「和夫、おまえはコーラでええか?食い物の金は自分で払って、今日は俺がジュースおごったる。」
と兄やんが言ってくれた。
「ありがとうございます。鶏肉の何かあれば…」
メニューを見ているが何が書いてあるのかさっぱり分からない。兄やんが店員の女性を呼んで、流暢な英語で話しているのを見て
(かっこいいな。英語も話せるように勉強しようかな)
と考えていると、用事を聞きに来た褐色の肌の女性の店員さんが和夫に向かって、片目を閉じて、唇の横に少し下を出して、不二家のペコちゃん見たいなポーズをしてくれた。兄やん達はうらやましそうに、
「和夫!お前、あの店員の子がウインクしてくれたなぁ。歳も近そうやなぁ。マスターに話してくるよってに待っとけ。」
和夫は何が何だか分からないまま、兄やん達が話をしてきてくれたみたいで、
「和夫!あの子マスターの娘なんやって、なんやったら隅のカウンターで話でもするか?って言うとるぞ!行ってこい!」
和夫は兄やんに手を引っ張られ、カウンターの隅に座らされた。マスターが口笛を吹いて、店員の娘を呼んだ。
 娘はマスターとひとしきり何かを言い合いした後、和夫の所にコーラを二つ持ってやってきた。
「hellow!!」
と娘がコーラを渡してくれた、和夫は緊張でガチガチになりながらも、
「ヘローウ」
と返した。
娘は笑いながら、
「English、ok?」
と、聞いてきたので首を振って、出来ないと答えた。
見かねた兄やんがやってきて通訳をしてくれる事になった。
「私はマリーって呼んで、何て呼べばいい?」
和夫はボソッと
「マイネイムイズ、カズオ」
と中学校で習った自己紹介をした。兄やんが娘から話を聞いてくれた。
「何歳なのって?まだ子供に見えるけどカツオの船に乗ってるのは何で?って言うとるわ。」
和夫は
「今年15歳になって、カツオ船の船長になりたいから若いうちから乗らせてもらえた。」
と言うとマリーは、
「この市場でも時々もめ事があると色々と危険だから、あんまり酔わない方が良いってよ!」
「僕はお酒を飲めないから、大丈夫だよ!」
と言うと不思議そうな顔をして、
「みんなここでは15歳の子供でもお酒を飲んでる。一回飲んでみれば?ってマスターに頼んであげるって。」
和夫は、父がお酒を飲めないのを知っているので自分もお酒なんか飲めないだろうと思ったが、瓶ビールをマスターが持ってきてくれて栓を抜いてくれた。
「チィース!」
と言いながら親指を上げて、今さっき話していたお客さんの所に戻っていった。兄やんが、
「船長には内緒にしといたるから、飲んでみ?」
と言われ、一口一気に飲んでみた。
コーラのような炭酸は感じるが喉が異常に熱い、そして苦い、甘みも何も感じない。和夫は一気にむせこんだ。
「なんじゃこれ?喉が熱いわー!!」
兄やんとマリーが大笑いしてる。
「和夫コーラと同じや!甘みはないけど、つまみを食べながら飲むと美味しいんぞ。」
兄やんが何粒かナッツを渡してくれた。
それを食べてもう一回飲んでみた。
ナッツが口の中で甘く感じて、さっきみたいに喉も痛くない、コーラと一緒で喉が気持ち良い。
だが、後からくる胸がカーっとなる感触に慣れることができず、残りを兄やんに渡した。
「マリーちゃんが、お前の事を気に入ったみたいや手紙をやり取りしたいんやて、船に届くようにしてもらおうか?字は俺が教えたる。マスターも良いよって言ってくれてるし、どうや?」
とにかくこの場を切り抜けたかった和夫は、
「兄やんに任せる。酒飲んだら頭が痛いわ。」
兄やんとマリーは笑いながら、
「マリーちゃんがみんなのいるテーブルに戻って、食事摂ってきなって。」
和夫は初めて飲んだビールですっかり酔ってしまい、コーラを飲むのが精一杯でご飯はは食べられなかった。
「兄やん、俺は酒今度からもやめとくよ。まだ早いわ…」
兄やん達は
「俺達もはじめは、和夫みたいにしとったなぁ。それでも店のマスターの娘がお前の事、気に入ったって、凄いな。俺らナンパしても全敗やのに…」

 この日を境にマリーから1週間に一度封書が届くようになり、兄さんに通訳料を10円渡して日本語に直してもらっていた。

 私、マリーはイギリスからあの港町に移住してきて、父が戦争の時に軍の基地でシェフをしていて、まとまったお金が入ったから暖かいこの土地で暮らして行くと言われついてきたの。だけど治安も歩く街を歩いてはいけないと父に言われて、移住してから2年ずっと家と市場を行ったり来たりして、毎日つまらなかった。勇気を出して和夫に気づいてもらえるようにサインを送って良かった。これからもよろしくね。日本の事色々と教えて。

このように手紙の内容を訳してくれた。
兄やんは
「和夫、楽しみができたなぁ、船長も外国の友達ができたのかって喜んでたわ!返事書いたら俺が英語に直したるから、遠慮せんと渡してこいよ。」
兄やんは自分の事のように言ってくれた。
 だが和夫はまだ、家族にも手紙を出していないし、朋輩にも手紙を出してない。今度上陸した時に絵葉書買うて家族と朋輩に出そう。そう決めて日々の仕事を一生懸命にこなした。

 コック長も湯水を吸い込むかのように仕事の仕方を覚えていく和夫をみて感心していた。基本的にカレーの毎日なのだが、牛を首から尻尾まで縦に真っ二つに切ってある肉を仕入れて、船の中で熟成させてカレーの材料の一つにしていたのだが、和夫も肉のさばき方を覚えてきたので、コック長はひらめいた。
(毎日カレーじゃさすがに飽きるだろう、中に入れる野菜や肉類は変えているけど、今度は牛丼みたいな物を和夫に教えてメニューを増やそうか)
コック長は船長に相談しにいくと、
「そうですね。毎日さすがにカレーやと食欲が無くなってきますからね…ご飯あんまり食べへん子も出てきましたからね。船長に任せます。今度冷凍船が来たら醤油頼んどきます。」
と船長はあっさりと承諾してくれた。毎日のメニューがカレーだったのは、操業して日が浅く、船員の食事を最低限のカロリーを取らせるのが目いっぱいだった会社の資金の事情によるものだった。
 昔からの船は食事も豪華だし、船もある程度住みやすい。しかし自分達が出世をしていくとなると古い船はもう出世を考えるのはあきらめないといけない程に、先輩達でいっぱいなのである。なので中堅どころの5年位のキャリアを持つカツオ船の船員は新しいカツオ船が出来ると聞くと、我先にと一旗揚げたい若者が集うのであった。
 新しいカツオ船の親会社が資金を潤沢に持っていないのは承知の上で、自分達の釣果によって船の拍を上げていく事を目標にしているので、食事も大切だけど、上陸した時に美味いもんは食えば良い。船での食事は仕事をするためのエネルギー補給だと割り切ってカレーを日々食べている船員がほとんどなのだ。ハングリー精神とはこういう事を言うのだろう。
 コック長は色々な船を渡り歩き、現船長と親会社の社長の引き抜きに合い一緒にこの船に変わってきた。地元の船から地元の船に変わるので道徳上、若い者達に示しを付けなくてはいけない。なので新しい船に乗る場合は、昔から操業しているカツオ船のオーナーや親会社に、新しく迎え入れる側の社長と共に一緒にあいさつに回る。耳の痛い事も言われる事もあるが、海の上で何かあった時は同業者同士助け合わなくてはいけないのでしっかりと筋を通して、新しい船に移る時は動かないといけない。

 和夫が吊るした牛肉のさばき方も部位も覚えてきたから、この際自分が知っているメニューを少しずつ教えていこうと船長は考えたのだった。
 一つ問題があった。包丁を握らせると言っても和夫は左利きで今は厨房にある右利き用の包丁を無理矢理、左手で使うように教えているが今後の事も考えると左利き用の包丁が必要になってくる。
 (まずは出刃包丁、牛刀、ペティナイフがあれば良いな。若いうちに変な癖を付けさせてしまっては、和夫の両親に申し訳ない事をしてしまう。俺が一揃え用意してプレゼントするか。)
船長は和夫を本格的なカツオ船のコックにする事を決意したのであった。
 
 和夫はそんな事も知らずに、家族に手紙を書いていた。

毎日覚える事が多くて大変ですが船に乗ってる皆さんが優しく教えてくれますので心配しないでください。
お父さん、お母さん身体の調子が良い日が長く続きますように祈っています。
まだまだ書きたい事はありますが、帰った時の土産話にしたいので日記にしたためています。
それではまた手紙を出します。
アフリカの海の上より 和夫

と書き封筒に入れて、初めて買っておいた切手を貼り上陸用のカバンにいれておいた。冷凍船が来た時に出そう。
 
 和夫は今度は朋輩に手紙を書いた。あのクリスマス会の後、朋輩がルミ子ちゃんの友達がどうやら和夫の事を狙っていると教えてくれた。しかし、カツオ船があと2ヶ月後に出る事を考えると恋愛よりも、船に乗るための準備やパスポートも用意しなくてはいけないので和夫は朋輩に
「代表してお前に手紙出すから、みんなで回し読みしてくれへんか?」
朋輩は、
「俺、東京の高校に行っとるかも知れへんから、ウチから東京に送ってもろて、ルミ子ちゃんの友達に手紙送るわ。」
なんだか、ややこしいが朋輩に手紙を送ればとりあえず良いって事かと和夫は理解した。ルミ子ちゃんには別に手紙を書いて送っておこう。
和夫は早速朋輩に向けて書き出した。

ギフトのメンバーの皆さん、お元気ですか?僕は今アフリカにいます。もう日本を離れて2ヶ月が経ちました。凄く暑いですが仕事にも段々と慣れてきました。早く皆とまた会って話をしたいです。アフリカでイギリス出身の食堂の子供と友達になりました。僕らより2歳年上です。言葉は船に乗っている兄さん達に教えてもらいながら話せるようにしていきます。4月も過ぎて新しい生活には慣れましたか?みんなが元気でありますように祈っています。 和夫

切手を貼り大切に封筒に入れた。
これも今度の冷凍船が来た時に出そう。
(もう夕方か…食堂に行って仕事の準備するかな)
和夫は食堂に向かった。

次回は、和夫のアフリカ滞在記から帰国すると…を書きます。
乞うご期待!!


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