「公務員離れ」は時代の潮流 新たなコンセプトづくりを!

 国家公務員だけではなく、地方公務員も含め・公務員の離職が顕著に増加している。かつては想像できなかった現象である。

 背景にあるものは何か?

 財政難による長期的な給与水準の低下、福利厚生のカットや天下りの廃止、それに公務員に対する世間の目が厳しくなってきたこと、一部の「ミニ大統領型」首長によるポピュリズム型政治の影響など、いろいろな理由が考えられる。

 ただ、いちばん大きな原因は、職業生活において承認欲求を十分に満たせなくなったところにあるのではなかろうか。「官尊民卑」の戦前はもちろん、戦後の民主主義社会においても官僚は優秀である、偉いという見方が社会に浸透していた。彼らが実際に政治を動かしていることも広く知られていた。

 ところが先に述べたような社会的背景から、官僚に対する社会的な地位や尊敬がだんだん弱くなっていった。それに追い打ちをかけたのがいわゆる「政治主導」であり、彼らの実質的な権限や影響力も奪われ、多くの官僚が無力感を味わうようになった。

 一方で「優秀」さの基準も変化している。デジタル化やグローバル化によってアイデアや発想力こそが重要になり、知識量や正解の決まった問題を解く力といった受験秀才型能力の価値が低下した。前者に秀でた人材がIT関連や外資系企業で若くして活躍し、高額の収入を得ているのを目にすると、自分の「優秀」さを証明し、承認欲求を満たすためにも、その世界で勝負したいと思うようになるのは当然である。

 けれども役所としては、ただ手をこまぬいているわけにはいかない。依然として社会の重要な部分が公務員に支えられている現実に照らせば、やはり優秀な人材を確保し、活躍してもらわなければならない。

 しかし、だからといって今さら彼らに社会的な地位を無条件で提供しようと思っても無理な話だ。

 そこで必要になるのが、公務員のコンセプトを変えて承認欲求を満たす機会を与えることである。とりあえず、それは「行政のプロ」としての公務員像である。

 私は「行政のプロ」を、専門的知識を応用し、行政課題を解決する能力を備えた人材と定義している。プロである以上、当然ながらその能力は組織の外でも通用する外部汎用性を備えていなければならない。欧米などのように公務員が役所間で転職するのが当たり前になれば、「行政のプロ」は社会的に認知され、組織内外での発言力や影響力も自ずと強くなるだろう。

 ただ、わが国の現状を考えた場合、たとえ国・地方で役所間における人材の流動性が多少高まったとしても、彼らが活躍できるフィールドはまだかぎられていて、承認欲求を高い水準で満たせるところまではいきそうにない。

 そこで「行政のプロ」より範囲を拡大し、「社会づくりのプロ」を目指すようにさせたほうがよい。具体的には、公務員のほか、NPO、NGO、社会起業家、社会貢献を視野に入れたビジネスなどを含めた活躍のフィールドを想定し、そこで活躍できるような人材を目指すのである。

 そうすると当然、中途で退職する職員は出てくる。しかし、将来のキャリアアップを目標にして在職中に貢献してくれれば、組織として必ずしも損にはならない。少なくとも夢がなくモチベーションが低い人たちに定年まで働き続けてもらうより、貢献度は大きいだろう。また現在のように、予告なしでいきなり辞められるより、計画的なキャリアのビジョンを組織と個人が共有したうえで離職していくほうが、組織にも個人にもハッピーであることは間違いない。そして将来のキャリア、夢の実現に有利だと思えるような職場をつくれば、優秀で意欲的な人材がたくさん集まってくるはずだ。

 これからの組織、とりわけ行政組織の場合、個人のキャリアを一組織の中で完結させることを前提にしていては、優秀な人材を獲得し、能力を十分に発揮させることは困難だと理解しておいたほうがよい。社会全体を視野に入れたうえで、個人のキャリア形成も、自組織のマネジメントも行うべき時代になっている。


#COMEMO #NIKKEI

「個人」の視点から組織、社会などについて感じたことを記しています。