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読書メモ:安斎勇樹・塩瀬隆之『問のデザイン』

問いのデザイン

感想

著者らは、認識の固定化(暗黙のうちに形成された認識="当たり前") や、関係性の固定化(当事者間の認識に断絶があるまま形成された関係性)が、創造的な発想やコミュニケーションを阻害していると捉えています。本書は、それらを乗り越えて課題を解決するための考え方を、問題の本質を捉えて対話の場を作るための「問いのデザイン」として紹介してくれます。

著者らは、ワークショップという装置を通して、多様な問題の課題解決に対してワークショップをデザインしています。本書の考え方、特にどのような課題を解決するのか、やプロセスのデザインにおいてどのような経験が必要なのかを考えることは、ワークショップに留まらず社内の打ち合わせ等でも、あてはめることが可能であるように思います。

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私は自分の業務に関連して、本書内でも時々触れられている以下のシチュエーションで適用できるのではないか、と考えました。
例えば、
・新規のプロダクトの開発やその方向性の決断
・社内での業務フローの構築・変更
といったことをやらなければならない状況だとします。それらにおいて、
・何がどのような状態になっているのが関係者それぞれにとって本当に望ましいのか、
・そのために今すでに進めていることは何であって、それ以外に何が欠けているのか、

を明らかにし、
自分のチームや、他の開発チーム、管理部門、社のトップマネジメントなど、関係者・決裁者間で問題の認識を揃えてとその打開のためにとっていくアクションを決めていく、ということがあります。
それを主導する人(=私)にとっては、誰かに何かを決めてほしい、誰かとアクションの具体的な内容について合意したい、ということが目の前のゴール(=より大きな視点でのプロジェクトの中のマイルストーン)と設定されます。
ワークショップでは対話のための場を作りますが、私が想定しているのは議論のも含みます。その過程で、理解を深めるための対話も必要になってきます。
「参加者、特定の関係者に対してどのような問いかけを行うのか」が
・「スタート地点として認識の齟齬を埋められるのか
・「ゴールにたどりつけるか」
を左右し、さらにたどり着いたとして
・「社としてよりよい結果に結びつくであろう理解・結論が得られたのか
につながってくる点において、問いをデザインすることが私に重要であり、悩ましい点でした。

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また、「〇〇さん、は私がこのことを話すときっとこういう感じだろうな」という関係性からくる思い込みからなかなか適切な行動に移れないこともあります。
具体的には、関係者その人、あるいは私自身が一方的にコミュニケーションに問題を抱えているというより、いままでの経験や形成された関係性から、特定の人が特定の考え方を持ってるだろうと決めつけたり、話を穿って捉えたり、必要以上に行間を読んで想像を膨らませたり、と他者との関係性が自分にとってゴールにたどりにつくため阻害要因であると自分自身が捉えることがあります。

このような状況において、今の自分の考え方の枠を超え、どのように対話・議論をデザインすればよさそうなのか、そのために課題を設定するためのプロセスはどうすればいいのか、に関して本書はヒントを与えてくれました。
続きに、本書で私がヒントだと思った部分の抜粋・要約をまとめました。

問いのデザイン

問いと答えは対になっている。問いが変われば答えも変わリ得る。対にはなっているが、答えに辿りつかないこともある。新たに問いを生み出すこともある。
問いは、思考と感情を刺激する。感情をも刺激することが、固定化された認識を打破することにつながる。

集団のコミュニケーション:討論(どちらが正しいか)、議論(合意形成、意思決定=結論を決める)、対話(自由な雰囲気・新たな意味付け=理解を深める)、雑談(自由な雰囲気・挨拶や情報のやりとり)。

対話を通して個人認識の差が浮き彫りになり、自分とは異なる前提を持つ他者への理解、自分自身のもつ前提が意識・再構成される。
この過程で、新たな共通認識が作り出される、それはすなわち集団の関係性が再構築されるということ。

意味:具体的なもの・ことに対する抽象的な解釈。抽象と具体を繰り返し往復することで認識の差を浮かび上がらせ共通認識を作り上げる。

問いのデザイン:課題のデザイン(解くべき課題を定める)→プロセスのデザイン(問いによって創造的対話を促進)

課題のデザイン

問題と課題:
問題は何かしらの目標に対して到達の方法・道筋がわからない状況。前提、認識や解釈が人によって変わりうる。
課題は、関係者の間で「解決すべきだ」と前向きに合意された問題=関係者間でのズレはないように捉えられた問題

課題設定の良くないパターン:
・自分本位→他の人からみて解決すべき、となっていない→利他的
・自己目的化→流行りに追従→大義
・ネガティブ・他責→前向きに取り組みたいと思えない、特定の関係者に責任が押し付けられている→建設的
・優等生→表面的に良いだけで浅い→規範外にはみ出す
・壮大→自分ごとしにくく、具体的・現実的な話が進めにくい→分割

目標の精緻化:
・期間(短・中・長期)で分ける
・優先順位で段階的整理・分割
・成果目標、プロセス目標、ビジョンに分類
到達点としての成果目標だけでなく、プロセス目標を設定することで創造的な対話は引き起こされる。ビジョンを設定することで、成果目標・プロセス目標の意義、目指す方向性を言語化でき、自己目的化も防ぐことができる。
当事者にとって納得行く目標は必ずしも最初に決められるものではなく、理解が深まることで目標が変化することもある。最初は曖昧でも、仮設的に課題を定義することは可能であり、決められる程度に決めることが鉄則。

第三の道を探る
二項対立に陥っている際に、それらを両立させる第三の道を目標に設定する。構造化すると二項対立のジレンマのなかで問題が生まれている場合があるが、あえて両立させる方法を探る。

プロセスのデザイン

ワークショップ:普段と異なる視点から発想する対話による学びと創造の手法。参加者が場を共有しながら、問題の当事者として「何を感じ」「何を求めているのか」を言葉に変える。権力を持つ誰から答えを押し付けられるのではなく、対話を通して新しい意味を問い直し、見出す。
ワークショップのデザインは、経験のプロセスをデザインすること。どんな参加者が、どこで、何を使って、どんな経験をするのか、その経験を支える環境とはどういうものかをデザインする。

なぜブレスト(ブレインストーミング)でアイディアが生まれないか?発想してみましょう、と投げかけるだけであり、問いかけや問いかけ方が思考、対話を深めるものではないから。
参加者への最初の問いかけが重要。参加者を当事者にできるか。
どのように思考が深まり、アイディア同士が合わさって創造性に結びついていくのか過程に対する配慮があってこそ、「問い」が個人・集団それぞれを刺激する。

設定した課題を解決するために、どのような経験を創り出す必要があるかを分割・細分化し、それに対応する問いのセットを作成する。問いは、探索の対象(俯瞰or個人, 過去or未来)と制約(価値基準、時間・期間、アウトプット形式など)に分解して検討し、最後に表現が適切か、意図は明確に伝えられるか、参加者が問いを投げかかけられたときにどのような思考・感情を想起するか、さらに考え調整する。

「足場の問い」(問いを活かすための問い、具体と抽象を行き来きできるための問い)を組み合わせて、プログラムを構成する。

問いの深さを決めるのは、「問うためにどれだけの視点が関わるか」「人によって出す答えがどれだけ多様になるか」「仮の答えを出すためにどれだけ時間が必要か」。深さを見誤ると答えに窮し話が進まなくなる。

アイスブレイクは、緊張をほぐしてテーマと接続する以外に、固定観念とを揺さぶる、集団の関係性を揺さぶることが重要である。

ファシリテーション

ワークショップのファシリテーションは、プログラムと補完関係。ファシリテーターがファシリテーションがうまくいかないとき、必ずしもファシリテーターの力量不足とはいえず、問いのデザイン、課題のデザインに大きく影響を受ける。一方、プログラムデザインのときには参加者がどういう考えをもって参加するかが見えないので仮定ができず、複数のプランを用意してその場の観察と判断でやり方を変える。

ファシリテーターの役割は、
・デザインした問いを適切な伝え型で参加者に届けること→全員がテーマを自分ごととして捉えられるように
・参加者の思考・対話のプロセスを丁寧に見守ること
状況に応じて用意していた問いを修正したり、問いを深めるための時間調整をしたり、その場で新たな問いを作成し投げかけたりする。

社会構成主義:現実はコミュニケーションから生まれる。問題は関係性の中にある。

イントロダクションでは、多様な参加者の「なぜ参加するのか」の目線を揃える。

まとめでは、問いから立ち上がった「意味」が場に現れてくる。問いに対する答えはファシリテーターももっていないので、一人の学習者として受け止める。無理に良いコメントはしない。

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