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春の終わり、夏の始まり 30

義之がイタリアへ出張に行ってから、3日が経った。
唯史は広いリビングのソファに一人で座り、テレビをつけてみる。
だが、その音は心に何も響かない。

部屋全体が静寂に包まれ、義之がいる時のにぎやかさや安心感が恋しく感じられる。
画面に映るバラエティ番組の笑い声さえ、今の唯史には遠い世界のように思えた。

「たった3日やん」
かつては一人になりたいと思い、人との接触を避けたこともあった。
孤独に慣れきっていた時期もあったというのに。

一人分だと食事を作る気にもなれず、仕事帰りにコンビニの弁当を買ってあった。
レンジで温めながら、ため息がもれる。
とりあえず食べてみるも、味がしない。

「いやちょっと待て、俺、どんだけ義之に依存してるねん」
心の中で自分にツッコミを入れながら、空いた容器をゴミ箱に捨てる。
冷蔵庫から缶ビールを取り出し、タバコに火をつけてから唯史はリビングのソファに腰を下ろした。

一人で夜を過ごすのは久しぶりである。
東京から帰郷して2か月半、唯史の傍らにはつねに義之がいた。
缶ビールをあおって、これまでの生活を思い返す。

義之と過ごした毎日、二人で出かけた公園、そして先日の那智勝浦旅行。
義之の笑顔、いつも支えてくれた優しさ、そして……
「あれはちょっとヤバかった」
旅館で、義之に抱き着いたまま迎えた朝を思い出し、顔に血が上る。

あの時に感じた義之の体温を、鮮明に覚えている。
がっしりとした義之の腕に抱かれていた時の安心感。
義之の優しさを、全身で感じていた朝。
思い返すと、心がじんわり温まるような気がする。

だが。
「いや待て。俺も義之も男やん?」
唯史は、自問自答する。
友情からくる義之の優しさに甘えてしまっただけだ、と唯史は思うことにした。

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