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春の終わり、夏の始まり 27

夜明けの薄明かりが部屋に差し込む頃、唯史は心地よい温もりの中で目を覚ました。
「あれ……?」
数秒経って、自分が義之の体に抱きついていることに気づく。
さらに義之の手が、自分の背中に回されている。
「いやちょっと待て、どういう状況やねん」
驚きと恥ずかしさが、一気に押し寄せた。

一方、義之の体温に包まれ、妙に安心している自分にも気づく。
おそるおそる顔を上げ、義之の顔を見る。
義之はまだ眠っており、穏やかな表情を浮かべていた。
とはいえ、いつまでもこの状態でいるわけにはいかない。

そっと離れようとした時、義之が目を開けた。
「唯史、起きてたんか」
優しく声をかけ、義之は穏やかな笑顔を浮かべる。
その目には驚きや困惑の色はなく、唯史への優しさが感じられた。

「いや…なんかごめん。俺たぶん、寝ぼけてたな」
真っ赤になった顔をそむけ、唯史は義之の体から離れる。
「とりあえず、なんか飲もか。喉渇いたわ」
照れ隠しのように言い、窓際に置かれた小さな冷蔵庫を開けた。

時計を見ると、午前4時半だった。
昨夜調子に乗って飲みすぎた二人は、早い時間に眠りについたのである。
冷やしてあったスポーツドリンクを取り出し、唯史は窓際のソファに座った。
義之も布団から出て、ソファに腰を下ろす。

窓の外は、夏とはいえまだ暗い。
「どうする?二度寝する?」
スポーツドリンクを喉に流し込み、唯史は煙草に火を点けた。
「そやな、今4時半か……」
思案をしながら、義之もタバコを取り出す。

「この部屋、もうちょっとしたら日の出見れるで」
窓の外を見ると、水平線の境目がうっすらと明るくなっている。
「撮ろうか」
「うん」
互いにうなずくと、バッグからカメラを取り出した。

しばらく経つと、水平線が濃いオレンジ色に変化した。
暗い海、水平線のオレンジ色、紺色の空。
それぞれのコントラストが、このうえなく美しい風景を作り出している。

やがてオレンジ色の帯がだんだん大きくなり、空が紫色に変化した。
波が岩に当たって砕ける様子も見える。
そこへ、太陽が顔をわずかにのぞかせた。

太陽が昇るにつれ、空の色が変化する。
わずか10分ほどで太陽は完全に姿を見せ、空をオレンジ色に染めた。
上空に残る紺色とのグラデーションの美しさに、唯史は見入っていた。
「すごい……」
夢中でシャッターを切る。

「すごいやろ。仕事で何回も夜明けは撮ったけど、ここからの日の出は本当にいいと思う」
義之は、朝日に染まる唯史の表情をとらえていた。

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