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春の終わり、夏の始まり 4
唯史は、美咲が帰宅するのを待ちわびていた。
リビングのソファに座り、心を落ち着けようとしながらも、内心は激しい感情の渦に飲み込まれそうになっていた。
手元には、裏切りの証拠となる写真が画面に映し出されている。
外はすでに暗くなり、壁にかけた時計の針がじわりじわりと進んでいく音だけが、部屋の中の静けさを一層強調していた。
ドアの開く音が、美咲の帰宅を告げた。
美咲はいつも通り、「ただいま」と明るく声をかけながらリビングに入ってくる。
この様子だと、画像の誤送信には気づいていないらしい。
唯史は一瞬、美咲の何事もないような様子に心が揺らぐ。
何かの間違いかもしれない…一瞬そう願ったが、深呼吸をひとつして、感情を抑えることに集中した。
「おかえり」
唯史は静かに答えた。
ソファに座ったまま、美咲の顔をじっと見つめる。
美咲はいつものようにバッグを置き、上着を脱ぎ始めたが、唯史の表情に違和感を覚えたようだ。
「どうしたの?疲れてる?」
美咲が尋ねたが、
「ううん、ちょっとね。話があるんだ」
唯史はつとめて冷静に答える。
唯史はあえて、写真をすぐに見せずに、美咲の反応をうかがうことにしたのだ。
美咲は少し戸惑った様子で、ソファの向かいに置いてあったスツールに腰を下ろした。
「何の話?」
笑顔を見せていた美咲だったが、唯史の真剣な表情を見て、笑いが消えた。
唯史は心を落ち着かせるために再び深く息を吸い、ゆっくりと話し始める。
「美咲、最近帰りが遅いよね。夜中になることも多いし。仕事が忙しい、て言ってたけど、本当にそれだけ?」
唯史の声は落ち着いてはいたが、その中には隠しきれない緊張がにじみ出ている。
美咲は唇をかみ、一瞬の間を置いてから、
「本当よ。ちょうど今、繁忙期なだけだから心配しないで」
と答えたが、その声にはいつもの自信が見られなかった。
唯史は、その答えに心の中で苦笑いをした。
美咲がこの問いにどうこたえるのか、ある程度予測していたからだ。
しかしこの時点で、唯史は美咲に直接的な証拠を突き付ける準備が整っていなかった。
もしかすると、美咲自身が何か話すかもしれない、と期待していた。
だが美咲の表情は閉ざされており、自ら何かを明かす様子はなかった。
唯史は覚悟を決めた。
このままでは、何も解決しない。
美咲に真実を突き付ける時が来たことを悟り、次に何を言うかを静かに考えていた。
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