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春の終わり、夏の始まり 3

翌週の金曜日。
唯史ただしはこの日、予定よりも早く出張から帰宅した。

ひとまず荷物を置き、ソファに身を沈める。
リラックスしようと、コーヒーを淹れたマグカップに手を伸ばした瞬間、唯史のスマートフォンが小さな通知音とともに振動した。
画面には、美咲からのメッセージが表示されている。

何気なくメッセージアプリを開くと、信じがたい画像が目に飛び込んできた。
画像の中の美咲はエロティックな下着姿で、見知らぬ男とホテルのベッドに寝転んでいる。
その表情はきわめて魅惑的で、男との親密さを色濃く示していた。

唯史の鼓動が激しくなる。
手は震え、スマートフォンを落としそうになった。

部屋の中の音も、外から聞こえてくる雑音も、すべてが一瞬で遮断されたように思えた。
時間が止まるというのは、このような感覚なのだろうか。
混乱と失望が唯史を襲い、3年の間に築いた美咲への愛情と信頼が崩れ去るのを感じていた。

写真の中の姿は、唯史がかつて愛した美咲とはまるで異なる存在に見えた。
その色香に満ちた表情は唯史の胸を強く締め付け、裏切りの事実は身体的な苦痛にも似た重圧を与えてくる。
唯史は、深く息を吸い込んだ。
だが吸い込んだ空気は冷たく、その肺を刺すだけであった。

唯史は何度も画面をタップし、画像を拡大し、細部に目を凝らした。
そのたびに、美咲の裏切りがより鮮明に、より痛烈に心を打ちのめす。
美咲の笑顔、その横で笑う男、ホテルの部屋の装飾、すべてが唯史の心に刃を突き立てた。

ほとんど無意識に、唯史はスマートフォンに画像を保存した。
美咲が誤送信に気づき、メッセージアプリから送信を取り消す前に。

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