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レビューというシロモノ

最近、たしかにGoogleマップのレビューを参考にすることが多くなってきた。特に、地方を旅している時。

かくいうこのブログを書いているお店も、Googleマップに雑に「コーヒー」と入れて探した4.2の喫茶店だ。

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7月の初旬に北海道を巡っていた時のこと、富良野、稚内、札幌、小樽、ニセコと北海道をぐるっと半周して、最終日に洞爺湖で宿泊予定となっていた。少し時間に余裕があったので、お得意のGoogleマップで雑に「観光名所」と打ち込んでみる。ズラッとリストが出てきて、その中でひときわレビューの点数が高い「神仙沼」が気になった。4.3で80件もレビューがついている。聞いたこともないし、観光ガイドでも見たことがない。キラキラネーム的な響きに若干不安を覚えたが、まあハズレでもひとつのネタになるだろうと立ち寄ることにした。

こちとら、2日前にはMac Bookなどの壁紙に採用された「青い池」の荘厳な景色を見てきたばかりで目は肥えている。ただ、あそこは有名になりすぎて、駐車場の近くに謎の出店も出てたりして、近代化してしまっていた。今回のスポットはどうだろうか。

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美味しいコーヒーをと、4.2のお店に入ると、「できあがるまで40分くらい、たぶん50分はかかるけど大丈夫?」と聞かれ、一瞬「えっ」となったけども、まあ今日は時間はあるしいいかと。「ブレントください」と伝えてネットサーフィン。

10分後、ふつうにコーヒーが出てきて、また「えっ」となる。コーヒーは苦味がまったくなくまろやかで、こだわってないと出ないさわやかさがある、さすが4.2である。

あとから別のお客さんが入ってくる。「できあがるまで50分くらい、たぶん1時間はかかるけど大丈夫?」となんだか聞いたことがある声がけが行われている。

ははぁ、これは期待値調整ってやつですわ。
5分でコーヒー出せますと言われて10分後に出てきたら、お客さんから怒られそうだけど、40分といわれて10分で出てきたら、ラッキーと思う、みたいな。

とはいえ、ちょっとリスクヘッジしすぎよね、と思いつつも、これがこのお店の処世術だとしたら否定することでもあるまい。引き続きネットサーフィンを続け、なんだか今日は知り合いの会社の話題が多く出てくる。業界は狭いなぁなんて物思いにふける。

ふと、隣の3人組のオーダーが聞こえる。
「私は3枚で」「私も3枚で」「僕も3枚」

「えっ」

コーヒーは大好きなのだが、この世界はとてつもなく深そうなので、のめり込んだら戻ってこれそうにないから、深入り(深煎りとかけた)はしないようにしている。まてまて、「3枚」という注文の仕方があるのか。3杯ではなくはっきりと3枚と聞こえる。あれか、ふだんほとんど頼まないけど、エスプレッソのダブルみたいなトリプルなのか?この店はブレントとか頼むのは素人で、みんなエスプレッソ目当ての4.2だったのか。

念のためメニューを見直してみると、エスプレッソはない。謎は深まるばかりである。

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くねくねとした山道を登っていくと、中腹あたりにロッジと駐車場が出てきて、それっぽい。当たりの「道の駅」的な佇まいがある。駐車場には車は3台だけ。まあ無名の場所だから、こんなもんかなと思い歩いていくと、駐車場をはさんで道の反対側から登山するような格好の4人組が息づかい荒く下山してきた。

はぁ、もしかして沼は、この山道を登った先にあるのですか。たまにしか車が通らないが、速度制限など無視してる車がビュンビュン通り過ぎる道路を慎重に渡り、小道の脇に歩いて30分の文字が。

(なるほど、4.3だもんな)
納得感と想定外が混じった感情で、思わず声が出そうになったがなぜかこらえた。

まあ、いい運動になるなと思い、その小道を進む。入り口の看板に、この葉っぱに触ると皮膚がかぶれるので要注意とな。その葉っぱは、避けようのないくらいあらゆる場所に生えてえて、こんなゲームは無理!とかなんとか思いつつも、山道を登っていく。

最初は道幅も広くて歩きやすく、下も木板が並んでいたのに、だんだんと例の葉っぱが避けようのない形で左右から近づいてくるし、木板も崩れている箇所も目立ち、いよいよそれっぽい雰囲気になってくる。

さすがの4.3。

傾斜はきつくないが心の準備なしで30分の軽い登山はなんだか不安にもなってくる。この間、前後には通りすがる人はいない。残り600mと見えてから、もう10分は歩いている気がするが、なかなか道のりが長い。そろそろテレビのコメンテーターが「山の天気は変わりやすいから登山はなめないで」と怒られるやつや、と思い出したところで、T字路に「左:神仙沼」の神々しい立看板が見える。

それを左手に曲がる最後の道がまた、もう前が見えなくなるほどの左右からの草木の応酬。かき分けて前に進むと、ついに見えてくる大きな広間のような空間。沼が近い。湿地帯だ。

息をのむ瞬間。
時を同じくして、霧がさっーと湿原を覆う。

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思えばレビューの点数というシロモノは、ハズレを引きたくない効率的に生きようとする現代社会の象徴のような存在で、なんでもかんでも数値化して、時間の使い方を比較・改善してしまうものでもある。

だからといって点数がないガイドブックも同じくキュレーションしているのに変わりはなく、いまに始まった話でもないわけで。内部的にスコア化しているGoogleの検索結果だって、ランキングをつけていることに変わりはない。

204X年、人はこうしたレビューの点数さえ必要なく、自分の行動を何かに委ねて、幸せを感じるようになっているのだろうか。自動的にレビュー4.0以上のお店や観光名所に案内され、それが北海道です、それがコーヒーです、とフィルタされる世界がきっと来る。いまはそれをアナログで”選んで”いるように見えるだけで、結果的には自動的にフィルタされ行動させられてしまっているのと変わりがないのだ。

そんな世界になったとき、やっぱり4点台以外の価値基準を持って幸せを感じられるようになっておくのも、悪くないのかもしれないとふと思うわけです。

お盆ということで、いま取り掛かっているプロジェクトについて、リアルな内情をさらけ出したブログ記事を書いていました。数えたら2万文字以上あり、書いているうちに伝えたいことがよくわからなくなってしまったので、この記事を見た方限定でこの内容を事前に確認してフィードバックしてもらえる奇特な方を募集しています。お声がけください。

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