ブックガイド(69)「幻詩狩り」(川又 千秋) 中公文庫

昨日の「幻象機械」(山田 正紀)に続いて、同系統の作品。
(2004年 07月 04日 「読書記録゛(どくしょきろぐ)」掲載)

 1984、日本SF大賞を受賞した作品である。
 1948年、パリ。シュルレアリスムの旗手、アンドレ・ブルトンは、一人の詩人を待っていた。フー・メイという名の詩人は、かつてその作品でブルトンに衝撃を与えた。彼は、言葉によってブルトンの眼前に「異界」を現出させ、また「鏡」を作り上げて見せたのだ。
 フー・メイ最後の作品「時の黄金」は、シュルレアリストたちの間に静かに広がっていき、彼らを次々と破局へ導く。時をへて日本の出版社が「時の黄金」を再発見する。そして・・・。
 言語SFの傑作である。当初は、より正確に事実を伝えるための手段であった原始の「言葉」が、やがて世界を記述するのではなく世界を作り上げ変貌させていくのである。
 個人的には「SFってここまでやれるのか」と感銘した作品である。
「言葉」により、人間は、数や名前から、より複雑で抽象的な概念や情緒を考え伝えることができるようになった。
 私見ではあるが、人類最古の発明品である「言語」は、色も形も質量もないが、ある意味「幻象機械」なのではないだろうか。
幻詩狩り中公文庫

(2023/11/13 追記)
 当時、「言語」の力を初めて意識させられた作品がこれだった。
 以前のWEB小説界隈では、「所詮、小説は、映画やマンガのような映像には敵わない」的な言辞を散見したのだが、言葉の力で映像を伝えることこそが小説のような「話芸」の力なのに、それをあきらめてどうすんだよ、と思ったものである。

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