ブックガイド(87)「月は無慈悲な夜の女王」(ロバート・A・ハインライン)

1967年のヒューゴー賞長編小説部門受賞作。

三部構成の大長編

 月が地球連邦の植民地となってる未来。
コンピューター技師・マニーと、月の高性能コンピューター・マイク(マニーが名付けた)との絆を描いている。今で言うところのAIである。ただし、そんな知性があることはマニーしか知っていない。
 三部に渡り、月が地球から独立するまでの経緯をマニーの視点で語っている。未来のアメリカ独立戦争である。

人とAIのバディ物SFでもある

 月の独立をマニーと一緒に成し遂げるAI・マイク。
 今でこそ珍しくないし、この作品の後「地球爆破作戦」(1970年米映画、原作「コロッサス」)等が登場して陳腐化するが、この作品がその第一号である。
 ちなみに「地球爆破作戦」は米国の人工知能が、勝手にソ連の人工知能と会話して、不完全な人間から核兵器の管理権を取り上げて、平和のために人類を管理下に置くというブラックな物語であった。「月は無慈悲な夜の女王」をネガ反転したような作品である。

哀愁を感じさせるラスト

 ラスト、回線が途切れて会話が停まっていたマイクは、正常に戻っても、コンピューターとしては機能するが、マニーの問いかけには答えなくなってしまう。
 何年経っても呼びかけには答えない。取り残されたマニーは、当初とは違う形で未来へ進む月をほろ苦く思いながら未来に思いを馳せる。
 このマイクの消失が、役割を終えて去ったようにも、人類に絶望して立ち去った用にも見えるところが深い。
 今から半世紀以上前に、AIと社会の関係を描くSFを書いていたハインライン。まさしくSF界の巨人だ。
 同時に、「夏への扉」のようなロマンチックな作品も書いていたハインライン。私も強い影響を受けた作家である。
「月は無慈悲な夜の女王」(ハヤカワ文庫SF)

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