映画レビュー(76)「色即ぜねれいしょん」(2009)


監督・田口トモロヲ

 ご存知、みうらじゅんさん原作の青春小説の映画化。快作である。
 時代は1974年。主人公の乾純は、ヤンキーや体育会系になれない「文科系の冴えない日常」を送っている仏教系高校一年生だ。
 夏休み、友人に誘われて、隠岐島のユースホステルへ旅行する。フリーセックスの女性たちが集まるとのうわさに突き動かされてのこと。当時の時代色がよく出ていて思わずニヤリ。あの時代、性的に奔放な女子大生が集まる場所は、バリケードの中から離島の観光地へ移っていた。夏場になるとそういった性的体験記が週刊誌に載ったものである。
  先輩やお兄さんの世代が燃えた学生運動も下火になり、かっこよかったはずの左翼も新左翼ならぬ珍左翼と化してしまい、フォークやロックからもプロテスト色は消えてニューミュージックへ変わっていく時代。

 実は私はみうらじゅんさんと同じ年齢。学生運動にも乗り遅れ、シラケ世代などと呼ばれる世代である。
 自分が何かをまだつかめずに悶悶としていた自身の青春時代と重なって見える。そんな世代の気分を私は自分の作品の中でも描いている。

引用---
「俺はね、前々から感じていたんだけど、あと五年早く生まれたかったよ」
 何故ならば、と水野は続けた。
「七十年安保とかビートルズとかを同時代で体験できただろうからね」
(ああ、わかる)と思った。
 肇たちの上の世代は、とにかく好むと好まざるとに関わらず、何かにつけ「燃えるもの」があったのだ。「戦う相手」があったのだ。
 それは鬼畜米英であり、戦後の生活であり、民主主義であり、安保でありビートルズであった。
「別に俺は右でも左でもないけど、ああいう祭り騒ぎがないもんな、もう」と滝。
「今は賭けるものなど本当に何もない、まさに拓郎の歌そのままだ」と桜井。
以上引用---「自転車の夏」(栗林元)より

 この映画はそんなシラケ世代の少年時代を生き生きと描いている。身につまされる映画でもあった。
色即ぜねれいしょん

(追記)
文中で引用した拙著「自転車の夏」は下記リンク先よりお読みいただけます。Kindleunlimitedなら無料。ダウンロードなら100円です。
薔薇の刺青(タトゥー)/自転車の夏

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