映画レビュー(31)「PARASITE DOLLS 劇場版」

(2005年 06月 05日 「読書記録゛(どくしょきろぐ)」掲載)

『アニマトリックス』『キル・ビル』の制作スタッフが贈る劇場SFアクションアニメ。2034年、“ブーマ”と呼ばれる人造の亜人と人間が共存する東京で、ブーマの犯罪に立ち向かう高機動対テロチーム「A.D.POLICE」の特殊組織“ブランチ”の活躍を描く。
 キャラも演出もとことんクールに「背伸び」している。その点が、ちょっと鼻につく。でも慣れると気持ちよくなる。
 絵柄は嫌いじゃない。というのも、私が漫画家になりたかった三十年前ほど昔には、もっとこんな絵柄のコミックスが日本でも出ないかなと思っていたのである。そして、その数年後から、大友とか、板橋しゅうほうとか、俺の好きな絵柄が増えてきたわけ。

 さて、人工知能やロボットと人間の関係を描いたSFは星の数ほどあるのだが、その大半は次の2パターンかその組み合わせである。
効率や能率を第一義にした機械としてのロボットや知能(全体主義とか非情な組織なんかの暗喩が多い)と人間の関係を描いて、人間の「心」にスポットを当てる。
・ロボットや知能を、「嘘をつかない」「自己犠牲」という側面から捉え、「究極の善人」として人と対比して描いて、人間の「心」にスポットを当てる。

 この作品は、まさに後者。人間に奉仕して人間を守るブーマ。その擬似的な感情を描いて、受け手である人間の心に少しだけ迫っている。
 こういった感情は日本人独特のものかもしれない。日本の一般民生用の市販ロボットが、愛玩用のアイボであったことと比べ、アメリカでのそれは、掃除機ロボ・ルンバであったし。

 二つ目のエピソードに出てくる、イブという娼婦ブーマがなかなか魅力的だった。「人形」に潜在するエロティックな魅力をストレートに表現するとこうなるのであろう。
 このシリーズを通して見たくなった。
Amazon.co.jp: PARASITE DOLLS〈劇場版〉 [DVD] : 井上和彦, 岡村明美, 池田勝, 恩田尚之, 中澤一登, 吉永尚之: DVD

(20238/11/09 追記)
 もう18年前の作品である。現代では、このロボットや機械を通して人間の心に迫る作品は雨後の筍のごとく現れている。
 そのご先祖ともいえるのがアシモフ「私はロボット」だが、ハインラインの「月は無慈悲な夜の女王」や、映画「コロッサス」も人工知能と人とを描いた傑作である。
 このあたりも一度書いておきたいなあ。

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