映画レビュー(13)「グラン・トリノ」

(2009年 05月 01日 「読書記録゛(どくしょきろぐ)」掲載)

「グラン・トリノ」


 クリント・イーストウッド監督の「グラン・トリノ」を見てきた。
実に巧みに作られた映画である。朝鮮戦争に従軍した老人の「人生のけじめ」を描いた物語である。
 隣のモン族の少年との交流や、監督のマイノリティー(少数民族)に向ける眼差しの温かさなどが言及される作品だが、この作品の本当に凄いところは、このポーランド系の白人移民の老人の人生と、アメリカ合衆国の朝鮮戦争以降のアジアでの政策がきっちりとシンクロしたメタファーになっているところ。
 暴力に対して、暴力で対抗したために引き起こされた悲劇(※911の暗喩)に対して、この老人は、観客すらも想像できなかった手段(映画の中で、神父すら想像できなかった方法)でピリオドを打ってみせる。
 その、なんと勇敢で、気高いけじめであろうか。
 俳優クリント・イーストウッドが、「ダーティ・ハリー」などの過去の作品でまとっているヒーローとしてのオーラすら、この映画の伏線として巧みに利用されている。
 印象に残った言葉は、暴力に対して、暴力で対抗しようとする少年の「人を殺したとき、どんな気がしたの」という問いに対して、イーストウッドは一言、「そんなことは知らなくていい」と吐き捨てるところ。
 監督は、イラクやアフガンで憎悪の泥沼に入っている祖国アメリカに対して、一つの答を示したのかもしれない
 しかし、この監督、いったい何本傑作を撮るつもりなのだろうか。
 あえて、欲を言えば、このようにして旧車グラン・トリノ(アメリカ的民主主義のメタファー)を与えられたモン族の少年(アジアの途上国のメタファー)の「気持ち」までは描かれていない。おそらく作品の軸がぶれるからであろう。この映画は、まさに、アメリカ合衆国の国民に向けた映画なのである。

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