映画レビュー(78)「チチを撮りに」(2013)


爽やかな作品

 母子家庭の娘・呼春(こはる)は姉と一緒に、母と離婚した父の病気見舞いに行く。ところが、その前日に父は亡くなっていた。
 生前ほとんど記憶のない父親の葬儀に出ることになった二人の姉妹の目を通して、父と母の気持ちのすれ違い、姉との気持ちのすれ違い、さらには父の残した幼い異母弟との絆の誕生などが、落ち着いた描写で丁寧に描かれている。セリフの一つ一つに意味があり、彼らの絆や思いの暗喩になっている。シナリオが巧い。
 家族映画の佳作である。これが当初は自主制作作品だと知って感心した。商業的な要請がなくとも、創作者は作ればいいのだ、という勇気をいただいた気がする。
2012年、SKIPシティ国際Dシネマ映画祭2012で国際長編コンペティション部門にてSKIPシティアワードおよび日本人初の監督賞を受賞したことから「SKIPシティDシネマプロジェクト」第3弾作品として2013年の劇場公開が決定したという。
 父がカタカナの「チチ」なのは、同時に母性の象徴たる「乳」にもかけているとのこと。子にとっては父も母も大事な存在なのだから。
チチを撮りに
(追記)
この作品の魅力は、役者たちの魅力もある。アイドルの柳英里紗、松原菜野花。母の渡辺真起子。おじ役には、今や飛ぶ鳥を落とす勢いの滝藤賢一。
短い短編だが、それだけに見ごたえはある。


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