映画レビュー(83)「川っぺりムコリッタ」(2021年)

原作小説も監督の荻上直子が書いている

 ムコリッタとは、仏教における時間の単位のひとつで、1日(24時間)の1/30、48分を意味する言葉である。日常の中のささやかな幸せを見つめる作品である。
 主人公の山田(松山ケンイチ)は前科のある青年。水産加工場に職をもらい、紹介されたハイツ・ムコリッタというアパートで暮らし始める。彼は、幸せになることに消極的(その理由が徐々にわかる)なのだが、隣室の島田(ムロツヨシ)の無神経さによって少しずつ社会とのコミュニケーションを受け入れ始める。だが、その島田にも悲しい経験があるらしい。
 孤独死した父親の遺骨を受け取る際の市役所の職員・堤下(柄本佑)や、 山田を取り巻く周辺の人物たちが色々な暗喩となっている。
 川っぺりに暮らすギター弾きのホームレスや、墓石を売る隣人の親子など。彼らとの日常を経て、山田は自分の心の中のわだかまり(この気持ちのメタファが、父の骨である)をきっと葬ることができるのであろうと思わせる。
 それを暗喩するのがラストシーン。死んだ父の骨を散骨する葬列に隣人たちが並んで歩く光景こそがそれだ。これは、主人公に無言で寄り添う隣人たちの心を映像化したシーンなのだな。
 軽妙に、それでも重いテーマを描いている見事さよ。いい映画を観られた。
川っぺりムコリッタ

(追記)
川っぺりのゴミ捨て場で壊れた電話で着信を待つ子供たちなど、寓意が込められたシーンが多い。そこに込められた意味を考えながら見るのも面白い。
そして、この川っぺりのシーンは青空が多いのだ。

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