ブックガイド(110)「狐罠」旗師・冬狐堂(1)

表紙、かっこいい!

コンゲームの傑作

〝旗師〟とは、店舗を持たず、自分の鑑定眼だけを頼りに骨董を商
う古美術商のことである。宇佐見陶子はそんな旗師のひとり。
 彼女が同業の橘薫堂から仕入れた唐様切子紺碧碗が、贋作だったと気づくところから物語は始まる。プロを騙す「目利き殺し」である。
 復讐に駆られる陶子は、橘薫堂に対し新たな贋作で「目利き殺し」を返そうとする。
 そんなさなか、橘薫堂の外商の女性が殺され、陶子に容疑がかかってくる。
 おお、これは映画「嘘八百」のようなコンゲーム殺人事件をブレンドした超面白ストーリーではないか!
 しかもその物語をハードボイルドな語り口で描いている。何より、冬狐堂・宇佐美陶子のかっこいいことよ。
 古美術の市の描写が面白い。値段が競りあがる、ひりひりとした駆け引きは、大半の読者には未知の世界であろう。

時代が求めたクールなヒロイン

 思えば、この作品が登場した90年代後半から0年代は、エンタメ界隈で、「バイオハザード」のミラ・ジョボビッチや、「イーオン・フラックス」のシャーリーズ・セロンなど男を蹴散らして戦う女たちが続々と現れた時代だった。
 日本のミステリ界隈でも、桐野夏生さんの探偵・村野ミロ・シリーズがその先駆けとなっていたではなかったか。
 この作品の陶子もまた、強い意志で戦う女性。その個性が一種の外連味となって読者を魅了するのだ。
 骨董商・古美術商の世界を巧みに描いた極上の古美術ミステリーシリーズ、第一弾!
旗師・冬狐堂一 狐罠 (徳間文庫)

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