創作エッセイ(12)描きたい情景

 執筆のモチベーションになる光景もある

 作家には、いつか機会があれば描きたいという「シーン」や「シチュエーション」がある。
 そういったネタは、日常や旅先や仕事現場などで見聞したことのうち、特に印象に残ったモノなどが脳内にストックされるのだ。
 時には、そのシーンを書きたいと言うことが作品執筆の動機に繋がることもある。
 私の作品に「毛布の下」という短編がある(Note掲載中)
 これは私の小学校低学年時代の以下のような思い出が根底にある。

 昭和30年代後半、少年時代の私は名古屋市北区の公団住宅に住んでいた。四階建てのアパートで、当時の新婚の憧れの住宅だった。
 その団地に隣接する空き地に一軒の廃屋があり、その土間に毛布が捨てられていた。
 腐りかけた毛布は、まるで、背中を丸めて横になった子供を覆っているような膨らみ方で、僕たちは、あの下には殺された子供の死体があると噂していた。でもその汚い毛布に触ろうという者もなく、いつしか廃屋は撤去されていた。
 あの印象的な光景と、少年時代の思い出をなんとか文章化しておきたくて、ホラー小説を書き上げたのだ。
 このときは、プロットも何も立てずに、

 また、あの夢を見た

と、いきなり一人称で文章を打ち始めた。書いていくうちに、「少年時代の思い出を夢に見る自分」と「夢の中の少年」という二つのエピソードによるメタ構造になっていくことに気づいた。
 プロットだ箱書きだと、創作論を語ることが多い私だが、脳内のイメージストックからあふれ出すように出てくる作品もある。私の場合は短編が多く。そういった場合は色々実験的なことを試したりもした。

 現在、これらの短編は、「盂蘭盆会○○○参り」(うらぼんえふせじまいり)という短編集に収めてある。興味のある方はぜひお読みください。KindeleのUnlimitedだと無料で読めます。


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