映画レビュー(51)「便座・オブ・ザ・デッド」(2013)

タイトルから想像できるのは下ネタがらみのゾンビ物コメディー。ところがこれが大傑作で驚いた。各種映画祭で入賞してる。

内容は脱出もの

 クリスマス・イブの夜、会社のパーティーの同時刻、女子トイレにやってきた修理工の青年が主人公。利用者がやってきて個室に隠れている間に、外はゾンビだらけになってしまい、あれよあれよと言う間に個室に閉じ込めらてしまう。
 どうやって脱出するか? いわゆる「脱出もの」ストーリー。同時に、一つ置いた個室にやはり閉じ込められた女性がいることに気づき、力を合わせ話し合うことに。

個室からの脱出が意味するもの

 主人公が話す、姿の見えない別個室の女性との会話が、まるで彼の心の中の自問自答のように感じられ、はっと気づかされた。
 パーティーなどと縁が無い修理工で、家族の中でも孤立し、周囲に対して築いている彼の心の壁こそが、トイレの個室が暗喩しているものなのだ。
この物語は、彼の脱出を通して、「他者との関わりを取り戻そうとする心の軌跡」をこそ描いているのだ。

発想とテーマ

 ここで陥りやすい間違いは、作者は「他者との関わりを取り戻そうとする心の軌跡」を描こうとしてこの作品を作った、という評論家的見方
 想像するに、
「金を掛けずにゾンビ物映画作りたいな」
「場所限定なら、トイレとかどう? セットも安いし」
「いいねえ。じゃゾンビに囲まれて個室から出られないってどう」
「それだ!」

 そこで物語を作っていきながら、主人公のモノローグや自問自答が中心になる、ならば、ということで初めて「他者との関わりを取り戻そうとする心の軌跡」が込めれるじゃん、となったのだと思う。
 少なくとも私の物語発想法はテーマではなく、まず物語ありきなのだ。
 だが、これは方法論の違いだけで、テーマから物語を作る場合もある。だが、「テーマ先にありき」の場合、下手をするとあざといお説教に陥りがちではある。

 タイトルに騙されずに観て欲しい。今ならプライムビデオで観られます。
 原題の「Stalled」は立ち往生とか行き止まり的な意味。主人公の心をも表しているけど、日本で商売するなら「便座・オブ・ザ・デッド」でもしょうがないかなあ。
「便座・オブ・ザ・デッド」

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