ブックガイド(19)「1988獣の歌」

(2014年 05月 26日 「読書記録゛(どくしょきろぐ)」掲載)

ブックガイドと言いながら、これ自分の作品です(苦笑)

「1988獣の歌」


自分の作品

 電子書籍第二弾として、「1988獣の歌」を出版した。AmazonのKindleストアである。
 この作品は、1989年に書き上げたものである。結婚して最初の子供が産まれた前後の時期で、勤務先の広告会社の給料だけではなかなか生活が苦しかった。
 そこで、小説を書くという能力で手っとり早くお金を稼ごうと思い、官能小説を書いたわけだ。
 最初に書いたのが巻末に収録した短編で「探偵・隆 濡れた調査簿」。
 通常の日常でセクシャルなストーリーを書くのに照れがあり、ハードボイルドミステリーのスタイルで書いた。試しに送った東京三世社の月刊「官能小説」でいきなり採用された。
 ただ、勤務の合間に1ヶ月ほどかけて書き上げた40枚の原稿料が、友人の弾射音氏が一晩で書き上げた5枚のショートショート(こっちは小説現代)の原稿料より安かったというていたらくで、世の中は甘くないなと思った(笑)。
 直後に、テレビドラマの原作募集で佳作をいただいたりしたので、よし官能小説はこれを最後にしよう、と思って書き上げたのがこの「1988 獣の歌」である。
 当初は「心獣の歌」というタイトルで、日本ホラー小説大賞に送ったのだがかすりもしなかったようだ。その後は、自分のホームページ「デジタル文芸」上で無料公開していたものだが、今回最小限の補筆の上、Kindle版として電子出版することにした。
 20年以上前に書き上げた作品だが、先日読んだ知人は、「早すぎたのでは」と言っていた。
 人の心に潜んで、性行為を媒介として、人から人へと移動する肉体のない知性体を主人公にするアイデアは、以下の作品群からインスパイアされた。

「20億の針」ハル・クレメントのSF小説で、人間に寄生する宇宙人の話。あの傑作マンガ「寄生獣」もこの作品の延長線上である。
PCゲーム「レリクス」、1986年にボーステック社が発表した作品で、倒した相手の肉体に乗り移って進むゲームで、最初はゲームの目的すら判らないと言う異色作。
「インキュバス」レイ・ラッセルのモダンホラー作品。アメリカの田舎町を舞台に起きる連続セックス殺人事件の物語だが、優れたSFホラーになっていて、この作品を読んで官能小説でも「すごいエンタメ」が書けると教わった。プレイボーイ誌に連載された作品で、ラッセル氏自身が同誌の編集長だったことがあるとのこと。
PC(パーソナル・コンピューター)そのもの。OSとSOFTを入れたフロッピーディスクさえあれば、どのパソコンでも同じ作業ができるのが新鮮だった。「入れ物」としてのPCと、「実体」であるOSとメモリのはっきりとした役割の区分けを、この作品では「肉体」と「心」に敷衍して解釈したわけだ。
 今回、Kindle版にするにあたり、あえて縦書きは採用せず横書きのままにした。というのも、物語の語り手である「けもの」は、冷静な(ある意味、冷笑的でもあり冷徹でもある)観察者だ。その理系的な描写には、講談社のブルーバックスなどで親しんだ横書きの文章こそが似つかわしいと感じたからである。
 下記からリンクしています。ふるってダウンロードください。

1988 獣の歌/他1編

(追記 2023/07/19)
収録されているもう一遍「探偵・隆 濡れた調査簿」は西森元のペンネームで書いた東京三世社のやつ。雑誌掲載時には按田武志画伯の挿絵が入ってて嬉しかった。編集の人がシーンごとにチャンドラーの作品のタイトルを副題(大いなる眠り、とか)を付けてくれて思わずニヤリとしたものです。
この一月後にテレビ東京のドラマ原作公募で入選したので、官能物から足洗ったのでした。

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