小説【再会】 新しい明日

詩織に「別れよう。」と告げた。
でも、それで終わりにするつもりはまったくなかった。

「沢山の事を話してくれてありがとう。別れよう。それが望みなら。」
「・・・・・はい。」
再び、詩織が泣き出した。

「ちょっと待てよ。まだ、話は終わってない。」
「え?」
顔を上げた詩織がこっちを見る。

「今まで詩織の望みで聞かなかったことはないと思ってる。でも、それは俺の望みでもあったから。
だからと言って、今回ばかりは話が違う。」
「・・・・。」
「別れたいなら別れるけど、その後でも俺は詩織を追いかけていく。何があってもあの子の手を引いて世界中を探し回る。
もう一度、詩織と一緒に”家族”になれるまで。もし来世があるならそこでも同じように詩織に必ず出会ってみせる。
そうして一緒に生きていくんだ。俺には詩織しかいないんだ。そしてこの子の母親はお前一人だぞ。」
「・・・・。」

もうすやすやと寝ている子供の寝顔を横目で見ながらとくとくと話した。
別れるつもりなんて一切ない。
詩織が”家族”に憧れる訳がやっと芯から判った気がした。
判ったからと言って手放すつもりなんてないのだ。
詩織がどんな過去を背負っていようと。

テーブルにあった”離婚届”をおもむろに手に取り
びりびりと破いた。

「これでいいか?詩織。」
「健太さん・・・・・。健太さん・・・・。」

号泣している。
過去を精算するように。
洗い流して、また明日から新しい日を始めればいい。
でも、その隣には必ず詩織とこの子がいないといけない。
背負った過去が重ければ俺だって背負う。
それでいいじゃないか・・・・・。

「許してくれるの・・・・・?こんな私だけど・・・・・。」
「許すも許さないも何にもないよ。俺は詩織といたいし
愛してる。それだけだよ。それ以上の何がある?」
「俺たちは家族だ。そうだろ?」
「うん・・・・うん・・・・うん・・・・・。」

「詩織。これからもよろしく。また今からね。」
「はい。よろしくお願いします・・・・。ひぃ〜ん・・・・。」

こうして詩織の”懺悔の夜”が明けていった。
気がつけばもう明けの明星がうっすらと輝いている。
僕らの”家族”の新しい朝だ。


「詩織。・・・・・・お父さんに面会できるか?」
「え?」

目を見開いて僕をまじまじ見る。
信じられない言葉を聞いたように。

「面会・・・って・・・・。出来ないことはないだろうけど・・・・。」
「じゃ、行こう。子供はオヤジとお袋に預けて。」
「それは・・・・。本当にいいの?」
「いいよ。もし、俺が入れなくても待ってるから。結婚して子供が出来たことをしっかり伝えてこいよ。
お父さんはどこにいても詩織のお父さんだろ。」
「健太さん・・・・・。本当に本当に・・・・・・・。」
「泣き虫だな、詩織は(笑)」
「健太さんが泣かせてるの・・・・・。優しいから・・・・・・。」

結婚してからこっち、面会には行ってなかったらしい。
結局、お父さんが入所時に申請していたのは詩織だけだったので
僕は待合室で待つことになった。
それでもいい。
詩織の晴れ晴れとした笑顔を見たらなんでもない。

「これからもこような。辛いかもしれないけれど。」
「ありがとう。お父さん喜んでくれてた。それに健太さんに申し訳無い・・・って。」
「親子だな(笑)でも、いいんだよ。詩織のお父さんなら俺のオヤジだろ。」
「・・・・・・。」
「ほら、ハンカチ。」
「やだぁ、くしゃくしゃ・・・・・(笑)ありがとう・・・・ありがとう・・・・。」

そろそろ仮釈放ももらえるかも・・・ということでもあった。
いつの間にか出来た孫の顔も見せられる日も近いかもしれない。

沢山の人と出会った。
沢山の人に愛されて育った。
新しい出会いと運命の再会が”家族”を作るんだ。
そんな風に思っていた。
いつか俺が死んでも詩織が死んでもまた次の世で
”再会”出来る。

刑務所の高くてすすけた高い壁を見上げながら
それを僕は確信した。



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