小説【再会】 居酒屋にて

「悪りな。きてもらっちゃって。」
「えー、どうしたの。健太君。」
「すいませーん。生3つ!」

はいよー!と元気な声が聞こえる。
ここは地元にある居酒屋。
聡と淳美に来て貰った。
自分の中だけでは到底、消化できそうになかったからだ。

「で、久美ちゃんいた?どうしてたって?」
「あれから劇団の俳優と浮気したってさ。」
「ええええーーーーー!!!!!」
「自分で言ってきたよ。それで別れたいって。」
「で、どうしたの?まさか・・・・。」

「今日は報告が一つ。あと、質問が一つある。」
「何?」
「報告は久美と別れたこと。」
「やっぱり別れちゃったんだ・・・・・。」
「で、質問って何よ?」
「これは淳美ちゃんになんだけど。」
「うん・・・・。何?」
「今、真梨香どうしてる?」
「どうしてるって?」
「どんな職業とか、学生とか。」
「え・・・・?あのね・・・・・。」

「なんか知ってんだろ。」

そうなのだ。
あの時、ファッションヘルスで見た”はるか”の
ポラロイドは確かに真梨香だったのだ。
うろたえた淳美の顔を真っ直ぐに見ながら
確信していた。
あれは真梨香だ。

聡は息を呑んで聞いていた。
それでも尋常ではない僕の表情に何かを感じていたのだろう。

「ま、飲もうぜ。健太も人の彼女にそんなおっかねー顔すんなよ。」
「それもそうだな。ごめんな。淳美ちゃん。」
「ん。いいの・・・・・・。でも、噂話だよ。噂なんだけど・・・・。」

「うん。うめーな。ここの生。」
「でね?彼女の家、鉄工所だったでしょ?」
「うん、うん。聡、おつまみ頼めよ。」
「おお。てきとーでいいか?」
「ジャガバタ、忘れずに。」
「あたし、ソーセージ。
・・・・で、どうも経営に失敗してそれがショックでお父さん倒れちゃったんだって。」
「すいませーん!注文、いいっすかー!!」
「そうなの?それはいつの話なの?」
「えーと、ジャガバタとソーセージとほっけと味噌煮込みと・・・。」
「もういいだろ(笑)あ、野菜スティック。」
「あたし、唐揚げも。」
「じゃ、唐揚げと野菜スティックも。おねがいしまーす。太るぞ(笑)」
「あんたの三段腹には負けますー(笑)」
「うるせー。お得意様とのお打ち合わせの結果が・・・・。」
「酒屋で”お打ち合わせ”ってなんだよ(笑)お前、ホテルマンか。」

聡は稼業を継いで酒屋になっていた。
愛想の良さと最近は地酒も勉強中だ。
夏場を越して秋口になったら一冬、どこかの蔵元に修行に
行くらしい。
大した奴だ。

「で?で?どこまで聞いたっけ?」
「でね、お父さんが倒れちゃったとこ。」
「ああ、そうだそうだ。」
「高校卒業間近で、推薦で進学も決まっていたんだけど・・・・。」
「だけど?」
「急遽、就職したのよ。彼女。」
「うんうん。どこに。」

そこへ料理が運ばれてきた。
はちまき姿の大将が聡に向かって話しかけてきた。

「若、今日はありがとよ。刺身、おまけな。」
「おやっさん、ありがとうございます。ごちになります!」
「いいってことよ。良くやってくれんからよ。」
「今日はゆっくり飲んでって。会計は請求書、出しておくからよ。」
「おやっさ~ん。勘弁して下さいよぉ。オヤジに殺されます~。」
「若、ご馳走様!!!(笑)」

「で、就職したのね。彼女。」
「そうそう。でも、高校はいるときも落ちたじゃん?
それで今度は大学もやっと受かりそうだった推薦も棒に振ったでしょ?」
「うんうん。」
「なんかかわいそうでさ-。声もかけてあげられなくて・・・・。」
「そっかー。でも、就職が決まったならいいんじゃねーの?」
「ま、色々あったけどひとまず卒業はしたのね。」
「あつつ・・・・。ふぉれで?」
「煮込み、たべちゃいなよ。まったく・・・。」
「お、美味いな。ふわふわだわ。で?」

「最初はね、真面目に働いていたんだって。」
「どこで?」
「大手の製パンメーカー。」
「ああ、知ってる知ってる。そこのメーカーなら。」
「そうそう。コンビニにもあるでしょ?」
「あそこのチョコパンがうめーのな。俺も好き。」
「お前、高校の時からそれで育ってたろ。授業中にも食ってて口の周りチョコだらけにして。」
「そうなのー?聡、子供じゃないんだからー。」
「俺が大人のは夜だけなの。知ってんだろ?淳美ちゃーん♪」
「ばか!」

「最初は真面目にやってたわけね。」
「そうそう。でね。同じ学校から何人か行ってたのよ。就職先で。」
「ふむふむ。」
「それからしばらくして飲み会があったんだってさ。」
「ほう。よく知ってるなぁ。」
「だーかーらー、女子校OGは情報が早いの。」
「で、飲み会ね。」
「そうしたらさー、ちょっとませてるのがいてさー。」
「ませてる。」
「そうそう。同級生なんだけど、飲み会の後でホストクラブ行ったらしいのよ。」
「はぁ・・・・。ホストねぇ。」

「真梨香って奥手だから、最初は拒んだらしいんだけど・・・・。」
「まぁ、自分から行くタイプじゃないよな。」
「やっぱ、ホストってあれか?シャンパンとか開けて合唱しちゃうんだろ?」
「合唱って(笑)聡、そういうのは”コール”っていうの。」
「”コール”?ま、酒屋から言わせればぼったくりもいいとこだけどな。あの値段は。」
「そんなにするのか。」
「うちでも収めてるもんよー。知ってるさ。」

「それで何回か飲み会があるうちに断り切れなくて行ったらしいんだよね。」
「それで何回か行くうちにどんばまりか。」
「そう。」

「最初に連れてった同級生もそうなると止められなくて、言ったは言ったらしいんだけど・・・。」
「なんて?」
「あれは接客で、本当に好きな訳じゃないから気をつけろって。」
「でも、自分で誘っておいて何言ってんだ。そいつは。」
「まぁ、そうなんだけどねー。あんまりはまるから見るに見かねたんでしょ。」

「そんで、はまった真梨香は?」
「なんでもね、”涼ちゃんは私がいないとダメなの!”って言ったらしい。
あ、その”涼ちゃん”ってのがホストね。」
「はぁ・・・・・・。そんなこと、言ってたのかよ。」
「中学の時に言って欲しかったな。健太よ。」
「うるせーよ、そんなの無理だろ。」
「ま、そうだけどな。合唱もできねーし。」
「コール。」

それからだいぶ3人で飲み明かした。
久美のこともほじくり出すように聞かれた。
話していく内にどうでもよくなっていくのが判る。
気が楽になってきた。

どうも、それから真梨香は稼ぎのよろしくないパン屋を
辞めて貢ぐためにヘルスに入ったらしい。

「もう、戻れない気がするのよねぇ・・・。」
「そうなの?」
「そうだよー。だって、稼ぎも違うし今更何やれっていうのよ。」
「まぁなぁ・・・・。」

「すいませーん。冷酒くださーい。」
「聡、飲み過ぎ!」
「いいじゃんかー。飲めばうちの稼ぎになるのら~。」
「いいよ。つぶれたら捨ててくから(笑)」
「それもそうね(笑)」
「捨てないで~。淳美に捨てられたら俺、俺・・・・・。」
「じゃ、俺ならいいんか(笑)」
「らって・・らって・・・・。」
「泣くなバカ(笑)」

「で、なんでそんな事聞くの?どこかで見たとか?」

はたと気付いて、言い訳を考えていた。
が。
酔った頭じゃ廻らない。
正直に言おう。

「いやな。歌舞伎町のヘルスに行ったのさ。そしたらいたの。指名はさすがにしなかったけど。」
「マジで?健太、いやらしい!!!」
「だってさー、会えないときだってあるじゃん?」
「会えないとき・・・って。付き合ってる最中から?」
「そう。」
「そう、じゃないよ!それじゃ久美ちゃんのこと責められないじゃん!」
「そうなんだけどさー・・・・・・・。」
「もしかして・・・・。まさか、聡も行って無いよねぇ?????どうなのよ!」
「俺?俺は行ってない。」
「ほんと?本当でしょうねぇ????」
「はい。誓って行ってません。」

こいつ、こんな時だけしゃきっとしやがって。
しかも、言うに事欠いて「誓って行ってない」だと~?
お前がセッティングした店だよ!

財布に入ってるはずの名刺、ここでぶちまけようか。
でも、仲良くしてるのを壊すのも悪いしな。
淳美の拳の握り具合を見て可哀想になってきた。

聡はヘラヘラ笑っている。
やっぱり、こいつは一回ぶっとばさなきゃダメだ(笑)
股間に瓶ビールでも投げつけてやるか・・・・・。

いい加減、酔った頭で意識も薄れてきた。
でも、なんだかぶちまけたお陰ですっきりした。
ずいぶん飲んだ気もする。
夜の風が冷たくて気持ちいい。

持つべきものは悪友・・・・かもしれない。

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