小説【再会】 再会#2

うちの店に修行に来始めたやっさんはいきいきと働いている。
僕はなんだかやっさんに厳しくも優しい両親に
複雑な思いを抱いていた。
やっぱり店を継いで欲しいのではないか・・・・。と。

店の2階に使ってない部屋があり、そこでやっさんは寝起きしている。
どうやら前の部屋は家賃を滞納して追い出されたらしい。
ま、半年も山にいればね・・・・(笑)
それでも日々、懸命に”飲食店の仕事”を
吸収しようと躍起になっている。

そんなある日。

「おい!健太!いるか!!」
「はい?いますよ。どうしたんですか??」
やっさんが血相を変えて自宅に飛び込んできた。
店は・・・・休み時間のはず。

「お母さんが自転車同士でぶつかって!!!」
「えええ!!で、どうしたんですか?」
「救急車で運ばれた!!!」
「どこっすか!」
「市民病院!!保険証を持って来てくれって。」
「了解です!車出ます??」
「おう、すぐ出る!!」

どんな症状だか怪我の具合だかまったく判らない。
不安で不安で・・・。

やっさんと駆けつけた病院でうちのお袋は・・・・・!
ロビーで近所のおばちゃんと喋ってる・・・・?

「なーに、やってんだよ!!おばちゃんと喋ってて!!」
「ロビーで大きな声を出さないのよ!健太!」
「健太!じゃないよ!!救急車で運ばれた・・・って言うから!!」
「うん?大したことない。痛いけど。」
「はぁ・・・・。それなら良かった・・・・。」

「健太君~。ごめんねぇ~。おばちゃんがよそ見しててねぇ。」
「なんすか。幸子おばちゃんとぶつかったの?で、おばちゃん怪我は?」
「あたしは平気よぉ~。この身体だし。」
「で?店はよ?幸子おばちゃん。」
「ああ、今日はいいのよ。ちょうど休みだし。怪我も無いし。」
「そっか・・。それならいいけど。」
幸子おばちゃんは商店街で古くから続く書店のおかみさんだ。

まぁ、こんなビア樽みたいな身体なら少しは衝撃も吸収するだろう。
誰かオールブラックスにでもスカウトしてあげてくれ。
タイヤメーカーのマスコットでもいい(笑)

後ろで見ていたやっさんが
「おかみさん。大けがじゃなくて何よりです。車で来たんですけど帰れます?」
「やすくん、ごめんねぇ。保険証は?」
「これですね。」
「じゃ、精算してくるから。いてて・・・・。」
「ああ、いいですよ。俺してきます。」

ぶつかって変な足の付き方をしたので筋をひねったらしい。
慣れない松葉杖をつき、薬をもらったら帰れることになった。

「先生が一晩様子を見てまた来てくれって。」
「そうですか。俺が付き添いますから。」
「いいのよぉ~。うちには穀潰しがいるからそれで。」
「それで・・・って、なんだよ。まったく。」
「はい、はい。すいませんねぇ。」
「とりあえず薬、もらってこなくちゃいけないんですよね?」
「そうそう。じゃ、愛しの息子様。貰ってきて下さいませ。やすくんと、とりあえず待ってるから。これ、書いた紙。」
「・・・・・はいよ。」

外にある調剤薬局に薬をもらおうと歩き始めた。
大したことなくて良かった。
ほっとした。

「あの~・・・・。すいません・・・・。」
「はい。お薬ですね。そちらの紙をいただけま・・・・・・!!あああ~~~~!!!!」
「へ?いただけます・・あああ・・・って。・・・・・あああ!!!!」

びっくりして顔をつきあわせてお互い指さしていた。
こんなことろで会うなんて。
売店に来た”妙に丁寧な白いワンピースのお嬢ちゃん”だ。

「白いワンピース!!お嬢ちゃん!皿を買った!!」
「そうそう!良く覚えていますね~。でも、白いワンピース!って(笑)」
「すいません。にしても、ここで何してるんですか?」
「私はここで薬剤師をしているんです。それにしてもびっくりしたぁ。」
「ああ、そうなんですかぁ~。いや、母がさっき・・・。」
「ああ、救急で運ばれた患者さんですね。お母様?」
「そうです。そうです。足をひねってしまって・・・。」
「そうなんですかぁ。お具合はいかがです?」
「軽くひねっただけですけど、筋を伸ばしたらしくて・・・。」
「そうでしたか。えーと、それで薬を。」
「そうなんです。」
「じゃぁ、ちょっと待っていて下さいね。」
「はい。」

心臓がばくばくしている。変な汗をかいた。
確か、伝票に書き込まれた住所はもっと都心のはずだ。
なぜ、ここに・・・・?

「はい。じゃぁ、湿布が4日分と痛み止めの飲み薬が出ています。
あんまり痛いときだけ必ず食後に服用して下さい。」
「はい。ありがとうございます。」
「また、いらっしゃいますか?」
「また、明日先生が来いって言ってたみたいです。」
「そうですかぁ。どうぞお大事に。」
「ありがとうございます。あ、それと俺健太って言います。
東商店街で親が定食屋やってて・・・。」
「そうなの~。最近、引っ越してきたばっかりなんです。うちの近くかも。」
「いくらでもご馳走しますんで!へへ。」
「じゃぁ、そのうちにお邪魔しますね。」
「はい。」

きっとにやにやしていたのだろう。
お袋に「健太!薬貰ってくるだけで何時間かかってるのよ!」と、怒られた。
ま、気にしませんが。
何時間・・・・なんて大げさなのである。

「それより!やっさん、あの”白いワンピース!!お嬢ちゃん!皿を買った!!”
女の子が薬局にいたんですよ!!」
「へ?あの子が?妙に丁寧で”野鳥シリーズ”の飾り皿買った子か?」
「そうっす!そうっす!あの子が薬剤師で。」
「へぇ~。奇遇なこともあるもんだなぁ。可愛い子だったよな。名前聞いてきたか?」
「いや、そんな余裕無くて。でも、覚えていてくれましたよ。」
「薬局でナンパしてたのか!この穀潰し!!」
「まぁまぁ、おかみさん・・・・(笑)足に響きます。帰りましょう。」

帰ってからあのこのことが頭の中でぐるぐるし始めた。
正確には会ったときからだったのだが。

お袋は店の中での接客は出来ない・・・ということで、
その晩から俺も店に出ることにした。
ま、足が治るまで何日かだろう。

それからすぐに彼女は店にやってきた。
昼の遅い時間。

「こんにちは~。あ、健太さん。」
「はい。いらっしゃい!あ、薬屋さん。」
「薬屋じゃないです(笑)薬剤師。あれ?奥にいらっしゃるのは・・確か・・。」
「そうです。そうです。あの時に一緒に箱を探してくれた先輩。」
「こちらにいらっしゃるんですねえ~。ご兄弟?」
「いえいえ、色々あってうちで修行してるんですよ。山から下りてきてから。」
「へぇ~、いいなぁ・・・・・。楽しそうで。」

お客さんが入ってきたことに気付いたやっさんが
「はい。いらっしゃい!あ、”白いワンピース!!お嬢ちゃん!皿を買った!!”薬屋さん!!!」
「私は何者ですか・・・(笑)その節はお世話になりました。」
また、深々と頭を下げた。
「ご飯ですよね?どうぞ。どうぞ。」

「今日はお休みですか?」
「そうなんです。交代で。日曜日と平日と週休2日なの。」
「いいですねぇ。うちは日曜だけですから。労働基準法違反(笑)」
「自営の方は仕方ないですよぉ。」
「ま、そっすけどね。」

彼女は詩織と言った。
なんでも大学を出てから薬剤師になって
まだ2年目だそうだ。
ということは、25か・・・。
1つ年上か。

「はい。おまちどおさま~。五目焼きそばです。」
「うわぁ~。美味しそう~。それじゃ早速、いただきます~。」
「どう?」
「まだ、食べてません(笑)」
「そうね(笑)」

きらきらと目を輝かせた彼女はあっという間にたいらげた。
細いのに意外とくいっぷりはいい。
やるな。

「ご馳走様~。ふぅ~。美味しかった~!」
「健太。こちらさんに。」
「え~、すいません~。杏仁豆腐大好きなんですよ~。」
「オヤジ、気に入ったな(笑)」
「そんなことないですよねぇ~。お父様。」
「よせやい。健太が世話になったんだろ。」
「おやっさん、顔が真っ赤です(笑)」
「やすまでやめろってんだ。まったく。」
「遠慮無くいただきます~。」

「詩織さん、どうです?これ手造りなんですよ。」
「そうなんですかぁ?つるっとしてるけど、味わいがあって
凄く美味しいです~。」
「やすさんがお作りになっているんですか?」
「それは俺のしごとです。でも、ここの”秘伝”なんですよ。ね?おやっさん?」
「ま、それほどでもねーけどな。」

お客の途切れた店内に笑い声が響いた。
うちに女の子のお客さんなんて珍しいからだ。

「うち、そこのワンルームなんです。この間、引っ越してきたばっかりで。」
「そうかい。江戸のとこだな。」
「そうです。大家さん、江戸さんですね。」
「あれは俺の同級生だよ。家賃下げるように言っておいてやるよ。」
「いえいえいえ~、悪いんでいいですよぉ(笑)」
「そうかい。なんかあったらいつでも言うんだよ。」
「はい。ありがとうございます。」

笑顔を満面に振りまいて彼女は店を出た。

「ご馳走様でした~。本当に美味しかったからまた来ます。」
「ありがとうございます。いつでも寄って下さいね。」
「うん。でも、なんか健太君のご家族っていいなぁ・・・・。」
「へ?なんで?みんながさつで・・・・。」

「聞こえてんぞ!健太!!!」
「聞いてんじゃねぇ!バカオヤジ!!」
「うるせぇ!穀潰し!!」
「健太!おやっさんに何言ってるんだ!!」

「うふふふ・・・・。やっぱり・・・・。それじゃ帰ります。」
「あ、ごめんね。いつもこんななんだ。ありがとう。」
「それじゃーまた。ご馳走様。」

こんな時がいつもいつまでも続くといいと思っていた。
久々に恋心が芽生えてきたのであった。

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