小説【再会】 告白#5

やっさんの店がせわしくオープンして
僕も発憤した。
調理師学校は”免許をとるため・・・”と
割り切っていたのだが、本腰で技術を吸収しようとした。
一年で・・・とは思ったが、いい経験にはなった。

詩織は相変わらず市民病院の薬局に勤めている。
再会したあの場所だ。
毎日が慌ただしく過ぎていく。

学校も卒業して店に入り、詩織と結婚した。
詩織は身寄りがいない・・・・ということだったので、
式はごくわずかの人達でひっそりとした。
それでもドレス姿は今までみたどの花嫁より
ずっとずっと綺麗だった。

30を過ぎた頃に子供にも恵まれた。
店を改装してる最中で大どたばただったが、
詩織が頑張ってくれた。
詩織似の可愛い女の子だ。

毎日、育児と家事でどうにかなりそうなのを
頑張ってくれている。
たまには薬局の人達と遊びに行っていいよ・・・
と、言っている。
なんて言ったてうちにはじいじとばあばが控えているのだ。

たまに飲みに行ったりしてもやっぱり子供が気になる・・・と、
すぐに帰って来てしまう。
ま、そんなところも好きなんだけど。
お互い30歳も半ば。
落ち着いたようで、まだまだ若いつもりではある。

「家族っていいよね・・・・・。」
ぽつっとつぶやく詩織に、
「どうした?なんかあったの?」
と、聞く俺。

「うん・・・・・。だって、お母さんは早くに亡くなったし
お父さんも大学時代に・・・ね。親戚もほとんどいないし。」
「ああ、そうか。でもな。俺は詩織がいないと生きていけない。」
「それじゃー、私も長生きしないとね。パパがいないと私も・・・。」
「この子の為にもな。詩織と一緒にいられて幸せだよ。ありがとう。」
「わたしこそありがとう。おやすみ・・・・。」
「うん、おやすみ・・・・。」

一日の終わりにこんな会話がたまにある。
家族の愛を余り知らずに育った詩織には
うちみたいな粗雑で乱暴な家族でも家族は家族なのだ。
周りに人が大勢いて、知らない誰かが声を掛けてくれる・・・
なんて、夢のようだというのだ。
詩織の寂しさと今の安堵感は身に沁みて判っているつもりだった。

今日は店は休みだ。
お盆の時季で隣町の祭りにやってきた。
店を開ければそれなりだろうが、
家族サービスも必要だ。

露天が並ぶ通りに沢山の人達が出ている。
夏の暑さと人の往来で祭りの賑わいが伝わる。

「パパ、あれ食べたい~。」
「ん?どれだ?」
「あれだよ~。茶色いの~。」
「チョコバナナか?美味しいよなぁ。ママ?どう?」
「一本ならいいわよ~。二人で分けてね。」
「買う~。買う~。」
「帰ったら歯磨きしなさいよ(笑)いいわね。」
「うん!するよ~。」

チョコバナナをほおばりながら歩いていると
思わず目を見張った・・・・・・。

真梨香だ。

向こうから真梨香が歩いてくる。
派手にはなったものの、変わらない。

やはり子供連れだ。
優しそうだが、うだつの上がらなそうなおやじと歩いている。
気付くだろうか。
胸の鼓動が急に激しくなってきた。

気付かないふりだけして、通り過ぎた。
向こうも気付いていない様子だ。
・・・・・良かった。

「パパ?どうしたの?知り合い?」
「ん・・ああ、中学んときの同級生。」
「声掛けなくていいの?」
「ん?振られちゃった子だから・・・・さ(苦笑)」
「そうなんだ~。パパを振るなんて許せないわね(笑)」
「ま、中学んときだから。ははは・・・・。」

きっとお盆で帰省したのだろう。
まぁ、元気そうで良かった。
色々あっても元気でいてさえくれれば。
もういい大人なのだ。
自分でなにがしかの”決着”を着けたのだろう。

自分で自分を納得させた。
もう遙か昔のことでこんなに慌てるなんて・・・・。
でも、この時に慌てていたのは僕だけではなかった。

この”再会”が後に大事になるとは・・・・・。
この時には知るよしもなかった。
世間は狭く、運命は思っていた以上に過酷・・・・だ。


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