手づくり本仕込みゲイジュツ 【プレイバック!はじまりの美術館 1】
現在、臨時休館中のはじまりの美術館。これを機に、はじまりの美術館のこれまでの展覧会をみなさんと一緒に振り返ってみたいと思います。
はじめて展覧会を見る方も、実際に展覧会を鑑賞された方も、写真やスタッフの四方山話を通して、改めて作品や作者に出会っていただければと思います。当時の裏話?や関わったスタッフの想いなども改めて振り返ってみました。残念ながら今は展覧会を開催できない時期ですが、この6年間の展覧会を改めて見つめ直して、この先の企画を作っていく足場を固める期間にしたいと思っています。
思い出がある方、新たに興味を持たれた方、美術館でおしゃべりするような気持ちで、ぜひお気軽にコメントしていただけたら嬉しいです。
スタッフ紹介
「手づくり本仕込みゲイジュツ」
会期:2014年6月1日(日)〜10月13日(月・祝)
出展作家:伊藤峰尾、岩崎貴宏、加藤仁美、佐藤香、澤田真一、舛次崇、武田拓、照屋勇賢
主催:社会福祉法人安積愛育園 はじまりの美術館、日本財団
https://hajimari-ac.com/enjoy/exhibition/geijutu/
大政:それでは早速、手づくり本仕込みゲイジュツ展を振り返ってみます。
岡部:はい!
小林:この企画は、どれぐらい前から動き出したんですか。
大政:そもそも、はじまりの美術館の最初の展覧会ということで、今いるメンバーのなかだと関わったのは岡部さんだけですね。
岡部:そうですね。この企画は、オープニング企画ということで、まず、アドバイザーに当時AITに所属されていた小澤慶介さん(現:一般社団法人アートト代表理事)に入っていただきました。OJT……on the jobトレーニングを意識しながら、アドバイザーの小澤さんに企画の立て方だったりとか、あとは作家の方との交渉の仕方とか、そういったところも含めて一緒に入っていただいて、一つずつ組み立てをしていたのを覚えています。
大政:なるほど。
岡部:小澤さん、当時は青森の十和田市現代美術館にも所属されていて、青森の途中などでも立ち寄っていただき、実際に会ってお話をしております。
大政:当時、出展作家はどういうふうに決めていったんですか。
岡部:そうですね当時は、障害のある作家というとことか、あといわゆるアール・ブリュット(※)っていうことを、どのように考えるかっていうところも考え合わせていって、障害のある作家さんは身の回りの素材で自分の手作業で作品を仕上げていくっていうのがベースにあって、それはどんな人にもっていうか、誰にでも開かれていることだなというところを大事に考えた記憶があります。何か、作品の特異さとか、面白さばっかりを見るんではなくて、そこに、「もしかすると自分も工夫をしたら作れるんじゃないか」っていうような自分の身に引き寄せて考えるっていうか。身近なものとして、アートを捉えてもらうきっかけがある、ということを意識しました。タイトルの「ゲイジュツ」っていうところ、カタカナにすることで、より親しみやすさを持ってもらうことも考えました。「はじまりの美術館をどういう場所にしていきたいか」っていうようなことも込めた企画になっていたかと思います。
※アール・ブリュットとは……
日本語で「生(き)の芸術」。フランス人画家のジャン・デュビュッフェが、伝統や流行、教育などに左右されず、自身の内側から湧きあがる衝動のままに表現した芸術のことを指し、提唱した概念。近年、日本では福祉関係者を中心にさまざまな議論がなされています。
小林:地元のアーティストである福島県の佐藤香さんとか、山形の作家の方や、現代美術の分野で海外でも活躍するような作家さんがいたりという結構すごいバランスなんですけど、打診の段階からもう、当時のスタッフである岡部さん、千葉さんがメインでやられたんですか。
岡部:そうですね。まず作家選定のところでは、先にお話したようなところに重きをおいて、選定していきました。現代アーティストに関しては小澤さんにも複数人の方をご提案をいただきました。そこから直接接点のない方には小澤さんに取り次ぎや紹介をしてもらって、やりとりをしていくような形をとっていました。
大政:ちなみに、出展作家は伊藤 峰尾さん、岩崎 貴宏さん、加藤 仁美さん、佐藤 香さん、澤田 真一さん、舛次 崇さん、武田 拓さん、照屋 勇賢さんの8名ですね。
岡部:いわゆるアール・ブリュットと言われている分野で代表的な方が何人か入っていますが、これは当初の話し合いの中で、アール・ブリュット ジャポネ展の巡回展を、姉妹館や、この美術館でやることが想定されていたことにもよります。高知の藁工ミュージアムはそうやってオープニング企画でジャポネ展の作品を展示したのですが、最終的に巡回はマストではなくなったところもあって。うちでは、その中から澤田 真一さんと舛次 崇さん、伊藤 峰尾さんを最初の展覧会で展示しました。あとは山形の代表・東北の代表として武田拓さんにも展示しています。
小林:武田さんはジャポネ展では展示されていないんですよね。加藤仁美さんは、今も「きになる⇆ひょうげん」の山形・新潟・福島の3県連携でお世話になっている、山形の愛泉会に所属されてる方でしたよね。
岡部:そうですね。当時の学芸員の千葉さんの推薦で入っています。佐藤香さんも、千葉さんの推薦でした。照屋さんと岩崎さんは小澤さんから現代作家さんを何人か提案いただいた中から、このお二人に絞ってご依頼をしています。
岡部:なかでも私が印象的だったのは岩崎 貴宏さんです。岩崎さんはオープニングのトークイベントにも来ていただいて。作品の面白さっていうか、本当に身の回りにある歯ブラシだったりとかデッキブラシとか繊維を切って、それで、歯ブラシの上に鉄塔が建っているという作品を作られています。作品の面白さもそうだったんですけども、岩崎さん自身がトークでお話いただいた中に「地元の美術館に行ったことがきっかけで、作家を目指した」っていうお話があって。ここで作品に出会った子どもたちが、将来何かそういう心に残っていってくれたらなっていう想いも語っていただいたのがすごく印象的で。そういう美術館になっていけたらいいな、っていうことを思ったことを覚えています。
小林:現代美術の3名の作家さんには、この展覧会のためにそれぞれ新作を作っていただきましたね。
岡部:そうですね。みなさん福島だったり猪苗代に関わる新作を作っていただいて、佐藤香さんは、猪苗代に滞在しながら、猪苗代町内の土を使って、新作を作っていただいてます。照屋さんは2014年の3月11日、震災から4年目の新聞を切り出した作品を作っていただいてたりとか。あと岩崎さんは猪苗代湖と磐梯山がテープから削り出された作品を作っていただいたりっていうことがありました。とても印象深い作品でした。
大政:何か印象的だった来館者の方とのやりとりとか、エピソードとかってありますか。
岡部:そうですね。当時のお話というよりは、当時見に来てくださった方が、最近になって、そのときに出会った作品の印象がずっと残っていて、それで、展覧会の企画をしてみたいっていう想いを持たれたっていうお話を聞いたのが印象的でした。澤田さんの作品に出会ったのが、印象的だったというお話をしていただいただきました。
小林:会期も開館記念ということで4ヶ月やってましたが、最近と比べるとイベント自体が少なかったですよね。
岡部:そうですね。あの当時は、「展覧会とイベントを合わせて実施する」という今のスタイルはまだできてなかったので。まずは展覧会をしっかり作るっていうところに集中していたところがあったかなと思います。そのなかでも、開館記念ということで、東京国立近代美術館の保坂健二朗さんを招いたトークイベントを開催しました。他にも、美術館のオープニングの企画だったので、初日にオープニングイベントがあったのが大きいかなと思います。
小林:作品の設営はどんな風にしたんでしたっけ。
岡部:設営は日通の美術輸送さんに入っていただいて、それもとても勉強になりました。展示方法なんかも見せていただきながら、それ以降自分たちがどんなふうにやってたらいいかっていうのも意識しながら、特にあの武田拓さんの割り箸の設営はすごく印象的でしたね。木工ボンドでコーティングされて、くっついてはいるんですけども、どうしても取れやすい。
ポロポロ剥がれやすい作品っていうところもあって底をどんなふうに立った状態で維持させるかっていうのをみんなで頭を使って、展示したのを覚えてます。たしか、ワイヤーでリングを作って緩く本体にかけるっていう方法になりましたね。武田さんが所属していた「わたしの会社」さんに、その方法で展示して良いか確認を取った記憶はあって、それ以降の展示にもこれは使えるだろうという話になり、撤収のときにもリングは切らないで残してお返ししたのは覚えてます。
小林:昨年、仙台で久しぶりに武田さんの作品を展示しましたが、今でも残ってますよ。
岡部:あと印象深いのはタイトルですね。手作り本仕込みゲイジュツには副題で、「Realithy out of your hands 」というのがついていますが、本当に大事なものっていうのは、自分の手で自分の実感で作り上げていくもんだよねっていうようなことを、小澤さんと千葉さんと話したのを覚えてます。「本仕込み」っていうのも、はじまりの美術館の建物が十八間蔵という酒蔵だったっていうのもあって、ここでお酒のように仕込んで熟成させたものが地域の中に、醸し出されていく、じわじわと広がっていくような、そういう思いや願いを込めて付けています。
小林:この流れで思い出しましたけど、この展覧会のクロージングイベントで「甑倒し(こしきだおし)」というのをやりましたね。米を蒸していた甑を横に倒して洗うことから、その年の酒造りの仕込みが終わったことを祝うことを甑倒しというんです。酒蔵だったこの蔵でそれをイベント名に冠してなにか記念になることをしようと。
岡部:やりましたね。
大政:それは初耳です。
岡部:稲わらの束を用意して、それを武田拓さんの割り箸の要領で、来館した方に段ボール箱の中に挿していってもらったんでしたっけ。それがどんどんいろんな人が挿していくことでふくれあがって、最終的にはなぜか人の顔みたいな感じになってましたね。
大政:そうだったんですね〜。
小林:最近の体験イベントのように期間を設けて実施したのではなく、最終日の13時から18時までの時間でその間に来た人は、自由に参加できる感じでしたね。おやつみたいな形で新米のお結びを振る舞いで用意したんですよね。すごくおおらかなイベントでしたね。
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