見出し画像

unico file . 01 伊藤峰尾【プレイバック!はじまりの美術館 6】

現在、臨時休館中のはじまりの美術館。これを機に、はじまりの美術館のこれまでの展覧会をみなさんと一緒に振り返ってみたいと思います。

はじめて展覧会を見る方も、実際に展覧会を鑑賞された方も、写真やスタッフの四方山話を通して、改めて作品や作者に出会っていただければと思います。当時の裏話?や関わったスタッフの想いなども改めて振り返ってみました。残念ながら今は展覧会を開催できない時期ですが、この6年間の展覧会を改めて見つめ直して、この先の企画を作っていく足場を固める期間にしたいと思っています。


スタッフ紹介

プレイバックはじまりの美術館

unico file . 01 伊藤峰尾

会期:2015年10月24日(土) - 2015年11月30日(月)
出展作家:伊藤峰尾
主催:社会福祉法人安積愛育園 はじまりの美術館、unico
https://hajimari-ac.com/enjoy/exhibition/unico_file_01/

画像1


大政:それでは、「unico file.01伊藤峰尾」展について話していきましょう。伊藤峰尾さんの個展になります。「unico file」というシリーズですが、そもそも「unico(ウーニコ)」とはなんなのか。岡部さん、改めてご紹介いただけますか。

岡部:「unico」は安積愛育園の創作活動のプロジェクト名ですね。創作活動が始まったのは、成人の入所施設「あさかあすなろ荘」が最初でした。もう20数年前になりますが、あすなろ荘開設当時はボールペンのもぎり作業だったりとか、製函作業といった下請け作業に、全ての利用者さんが取り組んでいたそうです。これは私が入職する前の話になりますね。ですが、作業に馴染めない利用者さんもたくさんいて、スタッフが作業のノルマに追われるようになってしまったりして、「本当にこれで、利用者さんたちは日中の時間 充実して過ごせているんだろうか」という話し合いの中から、創作活動が始まったと聞いています。

画像3

小林:そうだったんですね。岡部さんが、安積愛育園での創作活動を切りひらいたのかな、なんて思ってました。

岡部:私があさかあすなろ荘で働き始めたときにはすでに活動は始まっていて。青木尊さんが、福祉雑誌の表紙になったり、ちょっとずつ外部でも評価され始めていた時期でした。

小林:青木さんはその頃から評価されてたんですね。

岡部:はじめは、利用者さんの日中の時間を充実させる取り組みとして始まった日中活動でしたが、出てきた作品がとてもおもしろいものが多くて。スタッフみんなで「これを自分たちだけで見ているのはもったいないよね」っていう話になり、地域のイベントスペースなどを借りて、小さな展覧会を開くようになったのが、unico活動のスタートですね。

スクリーンショット 2020-05-17 19.40.25

スクリーンショット 2020-05-17 19.40.38

スクリーンショット 2020-05-17 19.40.56

大政:unicoは、イタリア語で「一つの」とか、「唯一の」とかそういう意味なのですが、これは岡部さんが名付けたのですか?

岡部:当時の創作担当スタッフみんなで決めました。作品展の名前を考えていた時に「社会福祉法人安積愛育園作品展」じゃ、関係者しか見に来ないよね、という話になったのがきっかけですね。
当時、事業展開で日中の通所事業所がいくつか新しく開所していました。それに伴って創作活動も事業所ごとに広がっていって。それを「パッソ」とか「ビーボ」とか各事業所の名前でバラバラなのも発信力が弱いので、ちょっと気になる、ひとつの決まった名前で発信した方がいいのではないか、ということになり。それでみんなで名前の候補を出し合って決めました。

大政:なるほど。他にも、安積愛育園では、HANAというラテンパーカッションの活動だったり、スペシャルオリンピックス福島の事務局だったり、直接支援以外での活動も盛んなのでので、少なからずそういう機運もあったんですかね。

岡部:そうですね。やっぱり、利用されるみなさんの時間がどうやったら楽しい時間・充実したになるかっていうのを、スタッフも楽しみながら一緒に作っていった時期だったと思います。

小林:そうですよね。それで、美術館も開館して、やっぱりunicoの作家をご紹介していきたいよね!っていう話になって。この「unico fileシリーズ」が始まったんですけれども、「やっぱり最初は峰尾さんしかいないだろう」ということになりましたよね。

岡部:そうですね。伊藤峰尾さんがパリで開催されたアール・ブリュットジャポネ展(※)で紹介されたことで、美術館ができるきっかけを作った人でもありました。

※ アール・ブリュット ジャポネ展……2010年3月24日から2011年1月2日にかけてパリ市立アル・サン・ピエール美術館にて開催された展覧会。滋賀県社会福祉事業団 企画事業部が事務局を務め、日本の63名の作家が紹介されました。福島県からは、伊藤峰尾さん(郡山市在住)と蒲生卓也さん(いわき市在住)が出展しました。
https://hajimari-archives.com/archives/exhibitions/art-brut-japonais


小林:そもそもなんですけど、これ、なんで「file」という名前をつけたんでしたっけ?

岡部:当時からアーカイブを意識していましたよね。unicoの作品の管理もなかなかうまくいっていなかったこともあって、1人の作家さんをしっかり紹介して世に送り出すするとともに、作品もしっかり整理しながらできれば……というのが狙いにあったと思います。

スクリーンショット 2020-05-17 19.41.09

小林:そうでしたそうでした。やっぱり当時から、「作品だけを紹介」というよりは「その作家さん本人を知ってもらいたい」という想いは強くあって。そのときも、伊藤峰尾さんの名刺を作ったり、ポートレート写真を撮ってもらったり、そういうことをいろいろ始めてましたよね。

大政:鈴木心さんに撮っていただいた峰尾さんポートレートの写真、すごく好評ですよね。展覧会会場内でも展示されていて、すごくかっこ良かったです。

スクリーンショット 2020-05-17 19.41.21

岡部:そうですね。当時、企画を担当していた元学芸員の千葉さんがポートレートをもとに名刺を作ったのですが、その名刺は今でも峰尾さんのコミュニケーションツールになっていますね。

小林:峰尾さんは普段からスーツで生活されてますし、名刺交換とかすごく様になってましたよね。

岡部:「社長」というニックネームで呼ばれてたりもしますが、本当に熟練の会社員のような雰囲気ですよね。

大政:今でも取材の方や見学の方を峰尾さんが所属する事業所・パッソにご案内すると、いつも名刺交換をされていて。見学や取材中も、峰尾さんが気を配りつつ、率先して案内してくださる姿がとても素敵です。

画像9

岡部:当時、パッソで峰尾さんの担当していた本多沙智代さんのテキストも好評でしたね。

小林:ですね。すごく、飾らない言葉で、でも峰尾さんの人柄を感じる良い文章で。改めて記録集で読み直しても良いなぁと思います。この記録集を見ると、81作品が展示してあると記録があるんですけれども、これ、アーカイブされている作品数と比較するとどうですか?

大政:伊藤さんが制作されている作品自体は、もっともっとたくさんありますよね。この展覧会では、峰尾さんの代表作と呼ばれる、名前をたくさん書き連ねた作品だったり、顔が並んだ作品だったり、キャラクターを模した作品だったり、全般的に網羅されてるなと思います。峰尾さんは日々作品を描かれているので、これまでに描いた作品が大量にありますし、まだまだ作品はありますね。

小林:そうなんですよね、すごい多作な方でもあって。いろんなところで作品を描いたりとかしてるので、ファンも多かったですよね。当時も、「峰尾さんの作品があるから」と言って郡山とかからたくさんお客さんが来た記憶がありますね。

岡部:そうですね。峰尾さん本人が美術館に来て開催した似顔絵のワークショップも、好評でしたね。

画像10

画像11

小林:あとは、会期中の公開制作で、ガラス窓に直接ドローイングなんかもして。結構作家ご本人が頻繁に来てくれた展覧会でしたね。

岡部:そうそう。千葉さんと峰尾さんのギャラリートークも、とても印象的でしたね。

小林:峰尾さんは、お話される言葉がなかなか聞き取りづらい方なのですが、千葉さんがうまく峰尾さんの想いみたいなものを汲み取って、ギャラリーを沸かせた記憶がありますね。

岡部:ギャラリートークの最後には、お客さんから握手を求められる峰尾さんが笑顔で答えていた姿が印象的でした。

画像12

画像13

画像14

小林:この頃は何かこう、「自分たちでなるべくいろんなことをやろう!」っていうような風潮とかあったんですかね(笑)チラシから記録集までオール社内デザインというか。自分たちでやって、このときも千葉さんが企画担当をやりながら、デザインも担当してましたね。

岡部:そうですね、特にunico fileに関しては、自前で全部やってみようというチャレンジもしてたと記憶してます。

大政:なかなか、すごいガッツですよね……。記録集の寄稿文には、長津結一郎さんに書いていただいたんですよね。

岡部:そうですね。以前開催したTURN展の事務局をしていた長津さんに書いていただきました。

小林:この頃から長津さんとの関係が続いてるんですね。

大政:「名前の練習」から生まれた峰尾さんの日課が、アール・ブリュット ジャポネ展などで「作品」として評価されましたよね。当時の解説文とかだと、伊藤さんの作品の特徴である文字の羅列のことを「うねり」と表現されていましたね。

岡部:はじめはスタッフみんな、峰尾さんの描く人物像だったりとか、キャラクターとか、そっちの方を面白がっていました。ある日、青木尊さんの調査でいらした、ボーダレス・アートミュージアム NO-MA アートディレクターで絵本作家のはたよしこさんがパッソも訪問されて。峰尾さんが描いている文字に着目されて、「これを公募展に出してみると面白いんじゃないか」っていうアドバイスをいただいたのが、名前に注目集まったきっかけだったと思います。

スクリーンショット 2020-05-17 19.41.38

スクリーンショット 2020-05-17 19.41.48


大政:もっと言うと、確か当時のスタッフの黒澤さんが、もともと峰尾さんがご自宅で文字を書いていることを知って、それをパッソでも書いたらいいんじゃないかって提案されたと伺ったことがります。そういったスタッフの発見があったからこそ、評価につながっていったのかなと思います。

岡部:そうですね。

小林:いい話だなあ。でもあれですよね。「手作り本仕込みゲイジュツ」展でも、峰尾さんは出展されていましたね。それでもやっぱり、unico fileの一回目は「峰尾さん」っていうのは、なんか「峰尾さん」っていう存在の大きさというか、そういうのをすごい感じるなと思いますね。

岡部:そう、「峰尾さんの作品」としてはその名前の羅列が知られていて。オープニング展の「手作り本仕込みゲイジュツ」展でも峰尾さんの名前の作品を展示しました。けれども、それ以外の魅力だったりとか、それよりもなお、「『伊藤峰尾さん』っていう人自身をみんなに知ってほしい」「峰尾さんの魅力に皆さんに出会ってほしい」という思いが強かったと思います。

画像17


大政:峰尾さんをご紹介するために、普段の様子の映像も展示されていたんですよね。

小林:そうですね。創作している様子の風景というか、活動の場面の映像を展示して紹介するっていうのも初めてでしたね。確か撮影自体は、担当の千葉さんが撮影して、編集は試行錯誤で私が頑張りましたね。(笑)やっぱりその描いてる状況とか、どんなふうに筆を運んでいるかとか、そういうのが見えると、ただ作品を見るだけではわからない部分を知ることができて。これ以降の展覧会でもそういった制作風景の紹介も多くなりましたよね。

大政:公募で開催している「きになる⇆ひょうげん」展とかでも、「作った人の写真を全て貼って欲しい」とか、「もっと作っている様子の写真や映像が見たい」といったリクエストもありますね。グループ展だと、全員の方の紹介をするというのはなかなか難しい現実があるんですけども、個展という形だと、じっくり作家の方をご紹介できるのがいいなと改めて思います。

岡部:そうですね。作品のバリエーションや活動の様子などを通じて、日ごろ身近に接していないとなかなか伺いしれない峰尾さんの魅力や、峰尾さんに気付かされることなど、少しでも感じてもらえる機会になったのではないかと思います。

画像18

小林:あと、このときはTURN展のすぐ後の開催だったという流れもあると思うんですけど、「やっぱり、福祉や表現ということをもっとこう考えていった方がいいんじゃないか」と企画会議で話し合いました。しかもそれを「福祉の現場寄りで考えていった方がいいんじゃないか」っていうことで、関連企画として「cento(シエント) 福祉と表現にまつわるエトセトラを話す会」という研修会のようなイベントを開催しました。cento vol.1という形で開催しましたが、実際はその1回しかやれてないですね。(汗)
そのときは、工房集の小和田直幸さん、クラフト工房 La Manoの高野賢二さん、るんびい美術館の村井資さんをお招きして、それぞれの事例をお話いただきました。その後、参加された方も含めて少しディスカッションのようなことをしたんですけれども、今思い返しても良い会だったなぁと思います。

大政:当時、Facebookでこのイベントのお知らせを見て、タイトルも趣旨もすごくいいなと思ってました。参加したかったんですが、参加は叶わず……。2019年度から「福島県障がい者芸術文化活動支援センター」に採択されて活動を始めましたが、これから先もこういった福祉の現場目線のイベントを充実させていきたいなと思います。

小林:そうですね。この「cento」っていうのが、たまたまイタリア語で調べたら、「100」っていう意味が出てきて。日本語で「支援と」という意味と、イタリア語の「100」を無理やり解釈して「たくさん」っていう二重の意味を込めて。これしかないね、なんて言いいながらつけました。

スクリーンショット 2020-05-17 19.42.02

スクリーンショット 2020-05-17 19.42.12

大政:確か、他にもアートdeてつがくカフェというイベントも開催されていましたね。

岡部:そうですね。美術館の活動もいろいろなところで知っていただけるようになって来て、外部の団体の方からご提案いただいたイベントでしたね。峰尾さんのギャラリートークを聞いてもらった後にみんなで話したイベントでしたが、「展示をもとにみんなで話す」っていう機会も、これが初めての機会だったかもしれないですね。

小林:あと、今でこそ当たり前にショップスペースでいろんなグッズを売ってますけども、このとき初めてはじまりの美術館オリジナル商品を作りましたね。そのときは、伊藤峰尾さんのポストカードと、テープぐらいでしたっけ。

大政:あと、おおきなピザと人のモチーフのトートバッグがありましたね。

岡部:そうですね。テープは、マスキングテープを頼んだつもりが納品されたらビニールテープでしたね。(笑)

小林:届いたいったときはびっくりしましたけど、結構好評ですぐ売り切れちゃいましたね。(笑)

画像21


岡部:峰尾展は、いろんな取り組みのきっかけをつかんだ企画だったかもしれないですね。

小林:そういう話では、その後にグループ法人のあさかホスピタルやレストランのバール・イルチェントロで巡回なんかもして、unicoの活動が広がるいろんなきっかけにもなってますね。

大政:展覧会とは関係ないですが、今でも郡山市にあるカフェ「 sweet hot」では、伊藤峰尾さんの描いた壁画?を見ることができますよね。それもあってか、峰尾さんははじまりの美術館でも人気の作家さんの一人ですね。

小林:展示を見れなかったみなさんには、ぜひまずは記録集を通して峰尾さんに出会っていただきたいですね。

画像22

企画展「unico file.01 伊藤峰尾」の記録集は、はじまりの美術館online shopで販売中です!


伊藤峰尾さんの作品のアーカイブはこちらから見ることができます



ここまで読んでいただきありがとうございます。 サポートをいただけた場合は、はじまりの美術館の日々の活動費・運営費として使わせていただきます。