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黄泉原パーキングエリア

夜の田舎の高速道路。

時速100キロの小部屋には、ハンドルを握る僕がただ一人。
前のテールライトを追い越すと、目の前はヘッドライトが照らす闇。
宇宙を一人、泳いでいるような感覚がある。

山道ではカーラジオも役に立たず、エンジン音だけの、心地よい孤独に包まれる。目的地まではまだまだ遠い。

もしも人生が、ジャンクションだらけの高速道路だったとして。乗ったときには永遠のように思える長さの高速道路だったとして。

そこから降りる前には、せめてパーキングエリアには寄りたいものだ。

食堂では特に美味しいわけでもないラーメンをすすり、売店でどこでも売っているキーホルダーやその辺の土産を見る。
それで、どうでもいいものを買いたい。

人間は一人で生きて死ぬのだ。きっとこの旅と同じだ。

そんなことを考えながら、パーキングエリアに車を停める。

街灯に照らされた駐車場と、霧の中にぼんやりと浮かぶ建物。
無機質な蛍光灯が温かい、砂漠のオアシスだ。

用を足す。今から帰ると遅いから、晩飯でも食べて帰ろう。
食堂で、美味しくもないラーメンをすする。売店で、土産を見る。
まだこの時間なのに、ほかに客がいないのも珍しい。

車に乗り込むと、孤独な旅の再開だ。

ところで、中国自動車道に「黄泉原(よみがはら)パーキングエリア」なんてあったっけ。

車は加速して、本線に合流する。
ヘッドライトが「三途川」と書かれた案内標識を照らすと、車はその川に架かる橋を渡っていった。



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