ITの次に来る技術

アナログからアナログへ

むかしの日本は技術大国として世界から尊敬されていたが、いまは見向きもされない、という話がある。電化製品や自動車など、ものづくりには秀でていたが、IT社会に対応できず、技術革新が生まれていない、と。いまは「テクノロジー=IT」と言ってもいい時代なので、ITの分野で活躍できないことが致命傷になっている。

私はそれでいいと思う。日本人にデジタル技術は向いていない。なぜなら、日本人には本物しか見えていないからである。デジタルな世界はすべてが0と1で表現されるが、現実には0も1も存在しない。存在しないものを存在するように見せることがデジタルなので、そこでは人間の感覚が働かない。しかし、日本人の技術は直観に基づいているため、直観が働かないデジタルな世界では、その能力は十分に発揮されない。現実に対する感覚の鋭さが発揮できる分野でなければ、日本人は活躍できないだろう。
 

ランダム・アクセス・メモリ(RAM)は、コンデンサに蓄えられた電荷量によってデジタル信号を表現しているが、その電荷量は一定ではない。それは時間とともに変化するし、コンデンサごとの違いもある。その、それぞれに違う電荷量をみな同じであるとみなすことで、デジタル信号は表現されている。つまり、現実のアナログの世界を単純化して、デジタルな世界が存在するように見せかけている。

そのデジタル信号をさらにアナログな形に出力することで、我々の前に情報が提示される。たとえば液晶パネルは、液晶という物質の結晶の度合いによって、光の強さを調整し、文字を表示している。この液晶の運動はアナログである。現実のアナログを、仮想のデジタルに移した上で情報処理を行い、再びアナログの世界に戻す、という二度手間の作業がITの本質である。

これはどうも馬鹿なことをやっているようにしか思えないので、いずれ皆がIT技術の非効率性に気付くときが来るだろうと思う。アナログからアナログへ、直接計算を行ったほうがずっと効率がよい。そうした技術が生まれれば、日本の復活も見えてくるだろう。
 

ちなみに私は、量子化を用いない量子力学の定式化を提案している。これがヒントになればと思う。

なぜIT企業はGDPを増大させるか

日本のGDPはここ30年ほど横ばい状態だが、アメリカや世界のGDPは成長し続けている。とくにアメリカのGDPを押し上げているのはIT産業である。

たとえば、UberEatsという会社がある。飲食店で作った料理を、配達員が自宅まで運んでくれるサービスである。こういう今まで存在しなかった新しい事業をIT企業が作り出し、売り上げを伸ばすことで、アメリカのGDPは増大している。新しく仕事を作り、金銭の授受を生み出すと、GDPは増える。
 

しかし、GDPが増えたからといって、社会が豊かになるとは限らない。たとえば、次のような事例を考えてみよう。ある家の主婦が、隣の家の主婦と仕事を交換し、お互いに給料を払い合うことにする。互いに隣の家で家事を行うだけなので、やっていることは以前と変わらない(家事の内容は同じとする)。だが、支払われた給料の分だけ、GDPは増えることになる。GDPは増えたが、何かがよくなったわけではない。

また、最近の日本では、いままで働いていなかった女性たちが仕事をするようになったので、自分で子どもを育てることができなくなり、保育所に預ける必要が生まれている。そのため保育士が増え、保育士に支払われる給料の分だけ、GDPが増えることになる。もちろん、女性が稼いだ分の給料もGDPを押し上げるはずなので、実際にはそれ以上の増加がある。だが、保育士の増加分に限っていえば、もともと給料の支払われていなかった育児という仕事に対して、給料を払うようになっただけとも考えられる。このGDPの増加分は、社会に何の寄与も果たしていない。

ここで、保育士の仕事には付加価値がある、という意見もあるが、その付加価値がどれだけの大きさかを決める手段はない。実際にはGDPの増加=付加価値の増加と定義されるので、これはトートロジーにすぎない。
 

GDPが増えるほど、社会が豊かになるという話は嘘である。実際には、GDPが増えるほど、人間は貧しくなっている。料理はできたてが一番うまい。おいしいご飯が食べたいのであれば、直接お店まで行くか、自分で料理をしたほうがよい。UberEatsを頼まざるをえない生活よりも、UberEatsを必要としない生活のほうが豊かである。無駄な仕事を増やすことでGDPが増加する一方、社会はどんどん貧しく、そして生きづらくなっている。

他国のGDP増加を羨む必要はない。アメリカでは経済成長と同時に、格差の拡大も生じている。これらは別の現象ではない。我々は、格差の拡大を経済成長と呼んでいるだけである。GDPの増加は本質的に成長とは異なるものである。我々は早くこの幻想から覚めねばならない。

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