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父の老眼鏡


17年目に出てきた父の老眼鏡


小物を収納している薬箪笥を整理していたら
亡くなった父の老眼鏡が出てきた。

父がまだ生きていた頃、私が海外旅行に行く間、
愛猫の世話をするため我が家に泊まったりしていた。
その際に近所の雑貨店で買ったのだろう。

間に合わせで買ったと思われる老眼鏡は時を経て、ふちの部分がさびていた。
オシャレだった父にしては安っぽいものを買ったなと笑ってしまった。

「そうだ!」

と思いついたのが、チェーンがこんがらがったネックレス。
いくらやってもうまくいかないので、試しに老眼鏡をかけてみると、おお、からんでいる部分がよく見えるではないか。
私には度がきつすぎて長くつけていられないけど、虫眼鏡の役割をしてくれたことで、チェーンは見事にほどけた。

お父さん、ありがとう。
助けてもらった気分だよ。

父が他界してもう17年。
徐々に父が亡くなった年齢に私も近づいている。
ちょっとまだこの老眼では度はきついが、
いつしかちょうどよくなる時が来るんだろうな。
そう、遠くないうちに。

ずっと受け入れることができなかった「死」


思い通りの娘に育たなくても、
そのままの私を愛し、育ててくれた父。
否定することは一切なく、私が選ぶ道を尊重してくれた。
呪いの言葉を吐く母に対し、唯一、注意できるのは父だけだった。
そして私の一番の味方だった。

父が入院した際、病院の近所にある神社で
「私の命を削ってください。かわりに父にあげてください」と祈った。
だがその甲斐もなく、父はあっけなくあの世へ逝ってしまった。
悲しいよりも、死んだことへの怒りがしばらく消えなかった。
あまりに悲しいと涙が出ないということを知ったのは、父の葬式の時だった。

最近になって、ようやく父の死を受け入れられるようになってきた。
17年たって、ようやく。

死んでもなお、こうして助けてくれるのかと思うと鼻の奥がツンとなった。
涙と一緒に「会いたいよ、お父さん」という言葉が口をついで出た。

ほどけたネックレスをつけてみた。

懐かしい父のにおいがしたような気がした。

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