前世での償い

「お父さんは、人間に前世があると信じますか?」
「お父さんは、人間に来世があると信じますか?」
「私は信じています。今世で、いまちょうど、前世での償いをしているところです。」

「何を馬鹿なことを言っているんだ、早くご飯を食べ終わりなさい。」

 そう言って相変わらず、父は私の話など興味も示さず、テレビばかりを見ているのです。自分が物心ついた時からその調子です。自分はまだ産まれて間も無くに、両親が離婚し、シングルファザー、ひとりっ子として育ちました。自分は、母の顔も見たことが無く、父も所謂男の自分には、実の子どもと云えど、こんな調子で無関心で、自分は親の愛、家族愛など知らずに育ちました。
 
 また、自分は家ではよく父(ヒト)に話しかけるのですが、高校では、無口で友だちなどに必要性も感じない、同世代の子に興味も示さない、学校で話しかけられても、自分が父からされているように?本当に、同級生に無関心なのです。それは、決して意識して無関心にしている訳ではありません。本当に、興味が湧かないのです。自分がこんな風?になったのは、中学生になってからです。自分が小学生の頃は、まだ天真爛漫で友だちも多く、よく、笑いまでとっていたものです。自分は、変わってしまいました。というより?子どもっぽさが抜けて、中学生になったら、妙に現実的なことばかりしか考えなくなったのです。

 そして、高校生になったいま、今度は考えることしかしなくなったのです。高校生の自分がいま1番欲しいもの……
「友だちでも無く……」
「優秀さでも無く……」

「自分は一体、何を求めている……?何故、何もしていないときは、考えごとをしている……?そもそも、自分はこのまま生きていて良いのか……?」

 悶々と、答えの出ないことばかり考えてしまうようになってしまったのです。

 そんなある日、自分に話しかけて来たひとりのクラスメイトがいました。「つつじ」という名前の女子生徒です。彼女は、自分と正反対で、感情の起伏が少なく、はっきりとした性格の子でしたから、最初は接し方が分からなかったのです。彼女は、自分に「あんた、いつもひとりでいるよね?」「彼女はいないの?」と、唐突に聞いてきたのです。彼女は、正直言うと、細やかな配慮が出来る方ではありません。私は、彼女に居ないことを伝え、そのサバサバと分かりやすい性格の子でしたから、自分は彼女が次に何を言うか分かっていました。彼女が私に好意を持っていることも見抜いていました。

「あんた、かっこいいから、結構モテてるよ?気付いてる?」
「ねえ、番号教えてよ」

 自分は、そのとき彼女に好意なんて持っていなかったのに、自分でも分からないのですが、番号を教えてしまったのです。

「今夜、かけるからね!」

 強引な彼女は、そう言い放つと、教室を去ってしまいました。でも、自分は不思議とこの時、嫌な気持ちはしなかったのです。
 そして、自分はそのまま家に帰り、帰り道も頭からずっと彼女のことが何故だか離れなかったのです。勿論、初めて話したものですから、恋心なんてのはありません。ですが、ずっと考えてたので、あっという間に自宅に着いたのです。そして、自分の部屋でもずっと彼女のことを考えていました。すると、彼女から電話がかかってきたのです。

「ねえ、いきなりなんだけど、あたしと付き合ってみない?」

 自分は、その言葉に何も感じることなく、流されるがまま、はい、と返答をしました。

 自分はどうしたというのだ……?

 長い間、父以外の人に興味も無かった自分は、何かそんな自分を変えたかったから……だから、断らなかったのか……?

 それから、自分は正反対の性格の彼女と毎日のように電話をするようになりました。デートに誘われて行くようにもなりました。彼女の家に招かれるようにもなりました。

 自分は、自分より感情がはっきりしていて分かりやすい彼女といることで、「感情」というものを考えさせられるようになりました。というよりかは、、、正反対の彼女のおかげで感情を少しずつ、取り戻すことができるようになったのかもしれません。

 自分は、愛を知らぬまま育ちました。

 そのため、同級生からは、奇人、と呼ばれることもありました。そんな面白い自分に、父も大変喜んで居たのです。ですが、それは本当の私の姿ではありません。苦しくもあったのです。もしかしたら、自分は、父へ愛情を与える、といった使命の元、産まれてきたのかもしれません。ですが、自分は父を不思議と憎んではいません。

 本当の自分は誰なのか……。

 私は、今の今まで大変でしたが、彼女と出会えたときにはすでに、父への因縁がとかれたのかもしれません。

 

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