うつ病患者が映画「フォレスト・ガンプ」を観る 〜『なかったことにしたい自意識』への対抗策~
今回は映画「フォレスト・ガンプ/一期一会」を見た感想の記事だ。
この映画を観ようと思ったきっかけは、
TikTokに「人生観が変わる映画」「価値観が変わる映画」
というタイトルの動画で度々紹介されていたからだ。
また、自分自身も「うつ病患者が映画を観るシリーズ」
を始めているから、その一貫だ。
前回は「ショーシャンクの空に」を扱った。
結論から言うと、この映画を観て本当に
「人生観が変わった」「価値観が変わった」
と思った人がいたなら、それは非常に危険だ。
歴史に対して誤った認識をもってしまう可能性が極めて高い。
嫌味なしで、世界史の教科書を読み直すべきだ。
教科書を読むのが難しいなら
NHKオンデマンドにある「映像の世紀」という番組で
近現代史を学び直すべきだ。映像作品として非常に面白い。
これはけっしてアフェリエイトではないから安心してほしい。
なぜなら、この「フォレスト・ガンプ/一期一会」という映画は
アメリカが「見たくない・忘れたい」事実が抹消された
歪曲と隠蔽に満ちた映画だからだ。
具体的には「黒人差別」と「ベトナム敗戦」の事実が
この映画からは抹消されている。
このことは映画評論家の町山智浩氏が
wowow公式動画において厳しく避難している。
作中のおおまかなあらすじは
主人公であるフォレスト・ガンプが、アメリカの60-70年代を体験する
という形態をとっている。
そして主人公の設定は聖なる愚か者という意味の
「聖痴愚」の設定を与えられ、
彼の回想シーンが映画の大部分を占めることによって
「信用できない語り手」の視点を導入している。
このことから、「彼の目線から語られる物語だから
黒人差別やベトナム敗戦の事実が描かれない」
という二重のエクスキューズを獲得している。
しかし、そんなレトリックは無理がある。
これは第二次世界大戦で日本を舞台にした映画なのに
原爆が描かれない、沖縄戦が描かれないといったレベルと同義のものだ。
やっかいなのは、この映画が1995年のアカデミー賞において
作品賞・監督賞・主演男優賞・脚色賞・編集賞・視覚効果賞
の6部門を受賞していることだ。
そして2024年7月時点で
Amazonプライム会員なら無料で鑑賞可能となっている。
つまり、この映画を「アカデミー賞を受賞した」という理由で
誤った認識のもとに
感想や議論の場が構築される可能性が高いということだ。
ここには、歴史の一回性とテクストの反復性の問題がある。
この言葉は、批評家である福嶋亮大氏の著書
『思考の庭のつくりかた』から引用したものだ。
本著では、歴史の本質とは反復不可能な一回生のものであり
たった一度しか起こらない・ありそうもない事件が
無数に積み重なって出来ているものだ、と定義している。
それに対してテクストは、反復され伝承されるという性質をもっている。
反復されることで、安定した議論の場を構築されるということだ。
この場合のテクストは、無論「フォレスト・ガンプ/一期一会」のことだ。
この定義を本映画に適用すると、映画というテクストは非常に厄介だ。
サブスクリプションによって
反復性と伝承がこれ以上なく容易になった現代社会においては
「フォレスト・ガンプ/一期一会」は
視聴者によって都合の良い歴史作品として体験され
相対的に歴史そのものを知る機会は減少してしまうだろう。
この問題に対する対抗策とは何か。おそらくただ一つで
「自分の感情・感想を中心に物事を考えないこと」だ。
歴史に対して「今」の視点、「自分の感情」は一旦脇に置いておき
「なぜ感動したのか」
「なぜこの映画に対して自分がこのような感情を覚えたのか」と
立ち止まって思考することだ。
感動することはもちろん大事なことだが、ここでは一旦保留にするのだ。
そして、映画に描かれているものだけではなく
「描かれていないもの」に対して思考を巡らせることもまた重要だ。
その描かれていない部分に、もしかしたら製作者が無意識に
隠したいもの・見せたくないものが潜んでいる可能性がある。
劇中の終盤でフォレスト・ガンプが突然走り出すシーン。
その走る行為に対してフォレスト・ガンプは
「ただ走りたいから」と述べているが、これは間違いなく嘘だ。
黒人差別を「みなかったこと」
ベトナム戦争敗戦の事実を「忘れたこと」
にしたいために、忘却したいためにフォレスト・ガンプは走っているのだ。
しかし、観客が彼に併走する必要はない。
立ち止まって思考することがこの映画に対して重要なことだ。
忘却したいために走るのではなく
忘れないために思考を巡らせ、映画の背景にある歴史そのものに
触れようとする姿勢、この姿勢を忘却しないことこそが
「フォレスト・ガンプ/一期一会」から
現代社会に還元できる唯一の要素なのだ。
最後までお読みいただきありがとうございました。
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?