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句集を読む

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句集を読み、収録句の中から印象に残った句を何句かpick upさせて頂いています。
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2023年2月の記事一覧

句集を読む:『あの時 俳句が生まれる瞬間』

『あの時 俳句が生まれる瞬間』 高野ムツオ 写真・佐々木隆二 2021朔出版 著者は昭和22年宮城県生まれ、多賀城市在住。「小熊座」主宰。 2019年から2021年にかけて開催された「語り継ぐ命の俳句」展を機にまとめられた1冊で、同著者による『語り継ぐいのちの俳句』(2018年朔出版)の第三章「震災詠100句自句自解」を写真と共に再構成、加筆修正したもの。100句は著者の句集『萬の翅』、『片翅』からの句+新作。著者自身は「自解は避けるのが俳句本来のありよう」あとがきで述べて

句集を読む:『片翅』

『片翅』 高野ムツオ 2016邑書林 著者は昭和22年宮城県生まれ、多賀城市在住。「小熊座」主宰。 本書は著者の第6句集、全395句。 [章立て] 蝶の息 平成24年(2012年) 百燈 平成25年(2013年) 蕨手 平成26年(2014年) 甌穴 平成27年(2015年) 花の奥 平成28年(2016年) [好きな句15句] 大皿のパエリア太陽一個分 冬に入る笹蒲鉾の弾力も 欠伸してこの世に戻る冬日和 億年の途中の一日冬菫 福島の地霊の血潮桃の花 生者死者息を合わせて

句集を読む:『萬の翅』

『萬の翅』 高野ムツオ 2013 角川学芸出版 著者は昭和22年宮城県生まれ、多賀城市在住。「小熊座」主宰。 本書は著者の第5句集、全496句、第48回蛇笏賞受賞作。 [章立て] 樫の実 平成14年 蝦夷蟬 平成15年 凍れ日 平成16年 雪間草 平成17年 鯨の血 平成18年 緑の夜 平成19年 崖氷柱 平成20年 櫟落葉 平成21年 凍裂 平成22年 蘆の角 平成23年 鰯の眼 平成24年 [好きな句15句] 裸木となる太陽と話すため バーベルのような夏の陽病室に 息

句集を読む:『然々と』

『然々と』 伊藤伊那男 2018北辰社 著者は昭和24年長野県駒ヶ根市生まれ、「銀漢」創刊主宰。 本書は著者の第3句集、第58回俳人協会賞受賞作。 [章立て] 平成20年 平成21年 平成22年 平成23年 平成24年 平成25年 平成26年 [好きな句12句] 分校を持ち上げてゐる霜柱 福寿草てふ睦まじき混み具合 静脈の色鎌倉の曼珠沙華 冬夕焼この色誰か死にたるか 初午や鳥居掘り出す雪の中 本堂に寝る子跳ねる子仏生会 黒潮のつくる縦縞初鰹 冬凪に潜水艦の甲羅干し 銃眼で

句集を読む:『つむぎうた』

『つむぎうた』 野村亮介 2020ふらんす堂 著者は昭和33年福岡生まれ、「花鶏」創刊主宰。 本書は著者の第2句集、第60回俳人協会賞受賞作。 [章立て] 瑞雲 平成19年まで 文遣 平成24年まで 純白 平成27年まで 黒潮 平成29年まで 遠弟子 平成30年以降 [好きな句7句] 登り窯火を噴かぬ日の蟻地獄 認印ひとつの暮し豆の飯 太眉のごとき下駄の緒青嵐 西瓜割る割つて余れる日暮かな 延命をせぬも裁量朝ぐもり ひと摘みの野花加へむ流し雛 草餅やあてにはならぬ父の勘

句集を読む:『磐梯』

『磐梯』 桜井たかを 2021文學の森 著者は昭和13年福島県生まれ、会津美里町在住、「宇宙」同人。本書は著者の第2句集。 [章立て] 耕人 平成10年~15年 早春 平成16年~20年 山荘 平成21年~25年 土偶 平成26年~31年 俳句エッセイ (「宇宙」第91号から第110号より転載) [好きな句7句] 除雪車のまた近づきて嵩を知る サングラスかければ気持ちあらはるる 地震の前暗くなるほど雪降れり 行く末を未だ決められず花いかだ どんど火に生命線をかざしたる 寒

句集を読む:『カムイ』

『カムイ』 櫂未知子 2017ふらんす堂 1960年北海道生まれ、「群青」共同代表、「銀化」同人。 本書は著者の第3句集、第57回俳人協会賞受賞作。 [章立て] 火口 夜空 海流 簡単 自由 遺品 [好きな句12句] 車間距離取るごと年の瀬を歩む 洗ひ髪神威岬に吹かれつつ 言葉すぐ切り替へてゐる帰省かな 石炭と雪が出合へば素敵だらう 脚ひらく氷湖に刃入るるとき 手拭は風に吹かれて鰊群来 鮭のぼる町うつとりと廃れつつ セーターの摩周湖の色ほつれけり 逃水や一年前の時刻表 日

句集を読む:『遠き木』

『遠き木』 藺草慶子 2003ふらんす堂 著者は昭和34年東京生まれ、本書は著者の第3句集、全300句。 [章立て] 雲雀野 春 蛍舟 夏 七夕 秋 冬の翼 冬 あらたま 新年 花影 春 虹の根 夏 十六夜 秋 蠟梅 冬 [好きな句7句] 納めたる針に映りし炎かな ひらかむとしてかたぶくや花菖蒲 湯ざめして廃墟の中に立つごとし 柚子湯出て家族の中に戻りけり 戸袋へ走り入る戸や去年今年 君何か貫くごとく泳ぎけり どんぐりを拾へば根あり冬日向

句集を読む:『野の琴』

『野の琴』 藺草慶子(いぐさけいこ) 1997ふらんす堂 著者は昭和34年東京生まれ、本書は著者の第2句集、第20回俳人協会賞新人賞受賞、全312句。 [章立て] 一山 平成元年 湖心 平成2年 流砂 平成3年 羅針盤 平成4年 朱の柱 平成5年 ヒロシマ忌 平成6年 天人花鳥 平成7年 [好きな句7句] かはほりのをさなきつばさひるがへる 水底に石段見ゆる落椿 床に散るこけしの木屑明易き 磯伝ひ日向づたひに遍路みち 冬日抱きゴールキーパー立ち上る 湯をかけて墓現はるる雪

句集を読む:『無音の火』

『無音の火』 大河原真青 2021現代俳句協会 全342句 著者は昭和25年郡山市生まれ。「桔槹(きっこう)」、「小熊座」同人。 [章立て] Ⅰ 波の音 2014年以前 Ⅱ 鰓の痕 2015年 Ⅲ 日の雫 2016年 Ⅳ 月の暈 2017年 Ⅴ 架空の町 2018年 Ⅵ 花の奈落 2019年 東日本大震災発生は2011年、この句集の第Ⅰ章は2014年以前の句で、被災直後の句はあまり収録されていないことになる。句集全体を通じても「ふくしま」もしくは福島県内の具体的な地名が使

句集を読む:『鳥雲に』

『鳥雲に』 池田義弘 2021文學の森 著者は昭和12年福島市生まれ、「暖響」「街」同人。 本句集は著者の第3句集、全446句。 [章立て] 楸邨忌 平成18年~22年 東日本大震災 平成23年~25年 天山祭 平成26年~28年 悪相の仏 平成29年~30年 鳥雲に 平成31年~令和3年 「平成二十三年三月十一日東日本大震災」という前書きのある一句 地震(なゐ)のあと身に揺れのこり梅ひらく 震災直後の瞬間を定型有季、字余りでも字足らずでもない十七音で詠んだ一句。「東日本

句集を読む:『白鳥』

『白鳥』 池田義弘 2006文學の森 著者は昭和12年福島市生まれ、著者の第2句集。 タイトルは阿武隈川に毎年飛来する白鳥に縁が深く、白鳥の句が多いからとのこと。JRに勤務されていたというご経歴ならではの句も多く収録されている。 [章立て] 転車台 昭和61年~平成2年 精悍な犬 平成3年~平成7年 わらべ石 平成8年~平成12年 わが胸座 平成13年~平成18年 [好きな句10句] 終戦日駅のホームを蟬歩く 迎火とコンサートの闇繫がれり 天の川切符の切屑掃きてをり 早池

句集を読む:『雪間』

『雪間』 鈴木正治(すずきまさじ) 2022現代俳句協会 著者は大正14年福島市生まれ、著者の第4句集、全291句。 [章立て] 平成21年以降 平成23年以降(地震・津波・原発破損) 平成26年以降 令和元年以降 前句集『津波てんでんこ』と重複している句や、言葉が入れ替わっている句(推敲し直された句?)が散見される。例えば 地震津波仔牛首上げ呑まれゆく (本句集) 「津波てんでんこ」仔牛首上げ呑まれゆく (前句集) 廃炉まで七生鵙が啼きつづく (本句集) 廃炉まで七

句集を読む:『津波てんでんこ』

『津波てんでんこ』 鈴木正治(すずきまさじ) 2014現代俳句協会 著者は大正14年福島市生まれ、本書は著者の第3句集、全280句。 [章立て] 平成17年以降 -蜘蛛飛ぶ日 平成23年3月以降 -タビラコの花 前半の章は大半が亡くなられた奥様のことを想う句、後半の章は震災句。全体を通じて「蜘蛛が飛ぶ」句がかなりあるが、どんな意味合いなのだろう…。 [好きな句5句] 再会のごとき太陽木の根明く セシウムの除染大暑の表土剝ぐ 人住めぬ被災地熟柿落ちつづく モニタリング鮟鱇