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私が通った絵画教室〜画家の先生のこと

私が絵を描き始めたのは、27歳の時でした。

東京からある地方都市に移り住み、音楽スタジオでアルバイトしていた時代です。
スタジオではバンドの練習だけでなく貸し教室もやっていていました。
そこに楽器のレッスン、ダンス、お料理、いろんな講座などがあり、
絵の教室もありました。

私はなんとなく、絵を描いてみようかな〜と気楽な気持ちで
絵の教室に入部?しました。

”パステル画教室”という名前でしたが、自由な画家の先生の気質からなのか?
集まった生徒たちは、それぞれで自分の描きたい道具を持ってきました。

その画家の先生は30代後半の男性です。
生徒たちは20代の学生やアルバイター、OLの人たちです。

授業の始めに、画家がテーマ(題目)を言います。
みなが同じ題目でそれぞれの絵を描くのです。
「パラダイス」とか「レコードのジャケット」とか色々です。

初日。
私は安い子供の落書きスケッチブックだけを持っていきました。
描くものは画家の先生のパステルや鉛筆を借りました。
先生からテーマを言われました。
私は描きました・・・
夢中になったので、時間を忘れてすごく楽しかったのです。
そして時間内に完成しました。
画家は、その間何も言わずにただそこに居ました。
他の人たちは、半分だけ描けた人、本を見たりして少しだけの人
考えていた人、いろいろでした。
みんなでて鑑賞し話をして終わりました。

それから授業の後で、画家とマスターとビールを飲みました。
画家はマスターに「才能がある」とポツリと言いました。
私のことです😃
冗談ばかり言っている画家が、真面目な顔で言うから・・
私は本気にしました。

そして
どんどん私は絵を描くことが好きになり、家でも描きました。
毎日一枚描きました。
徹夜することもありました。
絵を描いているときは夢中で楽しかったのです。

ある時、画家はコップを持ってきてスケッチをするように言いました。
私は初めてスケッチをしました。
無心に描きました。
終わってみんなで鑑賞しました。

「すごくいい」教室のみんなが私に言ってくれました。
画家も「すごくいい」と言いました。
見ると、他の人の方が私よりも上手でした。
「どうして?」と聞くと
”自然で味がある”
みんながそう言ってくれました。

私は画家に言いました。
「デッサンをもっと描いて練習しようかな」
・・
「練習すると、みんな同じになる。しない方がいい。
みんな練習して同じになる。しない方がいい。」

画家はキッパリと言いました。
「僕なんか、今のこのイメージができるまで2年も3年もかかったんだよ」

彼の絵は独特の線で、強さとゆるさが同居した、なんとも自由な広がりのある
絵なのです。
それであって、彼は精密なものもゴッホのようにもマチスのようにも描ける天才でした。

私は画家の言うことを信じました。
デッサンはそれ以降一度もしませんでした。

ある時、マチスの模写の題目が出ました。
有名な絵です。
私は上手ではないけれど、他のことが目に入らないほど集中して描くので
時間内に必ず完成しました。
完成すると、
画家もみんなも「すごくいい。」と言ってくれました。
「どうして?」
と聞くと、「言えないけれど、すごくいい」
そう言ってくれました。

いつも授業が終わると、画家の先生はビールとおつまみを買ってきてくれ、
教室で飲みながら話しました。
それから帰りにみんなで居酒屋にいき、最後にラーメンを食べて深夜になりました。

思い返してみると、私はその画家から何かを指導されたことがありません。
ただ、そこに居て絵を描く雰囲気をつくってくれました。
なぜか、ふわふわウキウキしながら、どんどん描けるのです。
不思議な魔法にかかったみたいに、絵を描いていると嬉しいのです。

「自由はいいな〜」
「自分の夢の世界が楽しめる」
私にとって絵はそう言うものでした。

それからみんなで会場を借りてグループ展をしたり、
ファッションビルのウィンドウを飾ったりしました。

自由な画家の教室は、幸せいっぱいでした。

             ー キョウコ


















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