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気象通報の魅力

昨日、10月2日は、東京都心は朝から日差しがたっぷりで、南風とともに気温がぐんぐんと上昇し、午前10時50分までの最高気温は30.6℃に達した。
10月に都心で真夏日を記録するのは2021年10月2日以来、3年ぶりだそうだ。
ここ、横浜市でも30.0℃に達した。

それでもカラリと秋を感じる過ごしやすさだった。

クーラーをつけっぱなしで就寝した暑さに比べれば、開け放した窓から入ってくる夜風で、タオルケット一枚では肌寒さを感じるほどになった。

今朝は、遠くの台風が運んでくるのか、ときどきヒューヒューと鳴る強い風が吹いている。
気温は24.0℃。曇り。
ときどき雲の合間から陽が指す。

小学生の頃、ラジオの〈気象通報〉を聞いて天気図用紙に記録するのを趣味にしている級友がいた。

「静かにしててね。」

彼の部屋に数人でたむろっていた時、彼が静粛を求め、学習机に向かった。
彼の趣味は周知だったので、皆、息を殺してシンと待った。
準備を整えて、正面に置いたラジオからの放送を待つ。

気象庁発表の○月△日□時の気象通報をお伝えします。

石垣島では、南南東の風、風力5、天気 曇り、気圧 1,009ヘクトパスカル、気温 30.0℃。那覇では、南の風、風力4、天気 ……

淡々と各地の気象情報が伝えられる。

彼の白地図の天気図用紙には、あらかじめ都市の位置に〇が印刷されている。

声に従って、〇印に、風向に従って矢羽根を付け加える。風力の数だけ羽らしい線を引く。それから丸の横に天気を書き込み、気圧、気温を数字で記入する。

それを淡々と繰り返す様子を、音を立てないようにして後ろから覗き込んだ。

気象通報は、魅力的で、淡々と都市の気象情報を読み上げているだけなのに、聞いているとその町での生活を想像してしまう。南南東の風力5の空気を頬に感じた気がして、風が起こす町の音を聞いた気持ちになる。

彼とは、その後、すっかり疎遠で、消息も知らない。
お互い、ずっと以前に地元を離れている。

台風の気配を感じる曇り空で、秋を匂わせる風が吹く。
彼の住む町の音を想像する。

―了―

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