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短歌「さまざまな椅子」

さまざまの種類の椅子の増えゆける母の衰へ追ひかくるごと

 わが家には実にさまざまな椅子がある。大きなマッサージチェア、二人がけのソファー、入浴介護用の椅子、手摺りのある椅子、手摺りのない椅子、回転する椅子、回転しない椅子……。これらは少しでも母が楽に生活できるようにと、その都度購入したものだ。例えば、立ったり、座ったりするとき楽なようにと座面が回転する椅子を買った。椅子に座ってばかりだと辛かろうと横になれるソファーを買った。しかし、母の衰えが進むと回転することが逆に危険だったり、低いソファーから立ち上がるのが難しかったりと母に適する椅子が変わってくるので、だんだんと椅子の種類が増えていった。
 いま母は車椅子に座っている。おそらくこれが最後の椅子だ。

※ この作品は『第25回NHK全国短歌大会 入選作品集』に吉川宏志氏選で掲載されています。


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