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タベモノ

ねぇ、あなた旦那さん?このヒト食べるかしら?え、あぁごめんなさいね。私、あきなっていうの。亜神の亜に希望の希、菜葉の菜よ。最後の菜が気に食わないのよね。あなたはなんて書くの?…お電話が遠いのかしら。あぁ何も言っていないのね、言いたくないならそれはそれでいいわよ。あなたって呼ぶわね。あなた、私のお話聞いてちょうだい。私、此の前、チョコレートを飼ったのよ。念願の。とってもきれいな薔薇が彫ってあるの!その薔薇、ダマスクローズっていう『薔薇の女王』と呼ばれているものなんですって。素敵でしょう?だから私、あの子にダマスクって名付けたの。すごく可愛らしい声で鳴いたのよ。キュッキュッゥって。あら、興味なさそうね?…面食らっている?なんで?まぁいいわ。それで、クリスマス・イブに、お付き合いしていたヒトとお家でパーティーをしたんだけれど、そこでダマスクを紹介したの。パーティー自体はとても楽しかったし、あのヒトが小さめのホールのクリスマスケーキを買ってきてくれたのよ。でもあのヒト、その上にあるチョコプレートを私が食べようとしたときに、ダマスクに悪くない?って。何言ってるのかしらね、興醒めだったわ。初めから食べられるために作られたものとダマスクが同じわけがないじゃない。あなた天然しか食べられない人だったかしら?って皮肉を言ったら、よくわかっていなかったわ。胎児スープとか知らないのね。学がないわ。でもあのヒト、私を笑わせることが大の得意でしたの。ですからあの夜も疲れ果ててしまうくらい笑って、いつのまにか私、寝てしまっていたのね。朝起きたらあのヒトもういなかったわ。『君の寝顔はとても可愛い』っていうメモだけ残して。ふふ、キザね。そういうところも私、好きだったみたいね。私、あのヒトにクリスマスプレゼントを買っていたのにすっかり渡しそびれてしまったから、あのヒトのお仕事が終わった後に届けようと思ったの。それで19時ごろにあのヒトの家を尋ねたら、ね…。私そのときようやく気づいたわ。そもそもクリスマスの本番って12月25日だものね。…ふふ。今となればただただ面白いわね。私だってあのヒトのおうちのことを把握していましたから、すぐ台所へ向かったわ。私が、キッチン道具持ち込んだのよ。なかなか悪くないものばかりなの。それで、まぁ、しかるべきことをしたわ。そのあと私もグッタリしたから寝て、翌朝起きて冷静な頭で考えたの。つまりはそういうことだったのよね。彼は、食べられるものだった。それだけのことよ。だって、じゃないとおかしいもの。普通の人間はそんなことしないわ。そう気づいたとき、もう私すっかりお腹が空いてたから、すぐ食べることにしたの。あのヒト、おいしくなかったわ。すっごく苦労してさばいたから期待してたのよ、すっごく。初めはシンプルにステーキで食べたんだけど、結局残りはカレーにしたわ。なんでもおいしいわよね、カレーに入れたら。え、ミカ?…あぁ、このヒトのことね。このヒト、なにか鳴いていたの。…なんだったかしら?あ、そう!私には子供がいるのって。つまりは同類よね。だから、このヒトにもしかるべきことをしておいたわ。とにかく、私はあのヒトを食べるだけでもうウンザリしてしまったから、あなたこのヒト食べるかしらと思って電話したのよ。オスとメスではやっぱり違うと思うけれど、もも肉はまぁまぁよかったわよ。送り届けましょうか?取りに来てくださった方が助かるのですけども…。私、最近悲しいことがあったの。ダマスクのことなんだけれど、チョコレートって賞味期限があるでしょう?長めの子でしたけれど、私にはあっという間でしたわ。実は、賞味期限が切れても、ダマスクを生かしておいたの…。はじめはまだ大丈夫じゃないって喜んでいたのですけれど、やっぱりダメみたいで…。表面のツヤは無くなるし、段々鳴き声があのヒトみたいになっていったわ…。だから、私、あの子を……ようやく、食べることにしたの…。とっても悲しい甘さだったわ。あなたもいつかわかるわよ…。そういう仕方ないときがみんな必ずくるの。自分に同情する日がね。あなた、結局このヒトのことどうするの?…ちょっと、なんで泣いてるのよ。ミカが、なに…?…あなた、わかってる?私があなたに電話をかけられている理由。パスワード。あのヒトの誕生日だったのよ。それと、このヒト最近ショートにしたんでしょ?あのヒト短いの好きだったもの。それとね、あのヒト、バーバリーの香りが好きなの。お花畑みたいな匂いしてたでしょ。それとね、………取りにくる?ふふ、わかったわ。…ふふ、もちろん、お鍋でも包丁でもなんでも貸してあげるわよ。カレールウはご自分で買ってね。じゃあ、住所はーーーーよ。では、またあとで。

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