From spare oom to war drobe 9歳の「私」とナルニアをふりかえる旅へ

キャサリン・ラングリッシュ著、刊行日:2021年5月6日、ページ数:240、ジャンル:ファンタジー文学史/文学批評エッセイ

概要
児童ファンタジー作家のキャサリン・ラングリッシュは長年おとぎ話や民話についてのエッセイをブログSeven miles of steel thistlesに綴っており、同名の本も出版している。本作ではそのラングリッシュのブログ記事の中でも特にナルニアにフォーカスしたものを元にし、ナルニア全7作をラングリッシュ自身が9歳で読んだ時の考えを振り返りつつ、様々な点から考察するファンタジー文学史/文学批評である。

感想
 作者ラングリッシュは、7作全てを読み終わってもう続きを読めないことに堪らなくなり、本人の弁によれば「今見れば笑っちゃうような」続編を9歳で真剣に書き上げ、ナルニアの地図も手書きしたほどナルニアシリーズを愛してやまなかったそうです。大学進学のための教育には熱心でなかった学校に通いながら「英文学の成績だけは素晴らしく良く、ナルニアに教育を受けた」と述べています。
 本作には1998年のフィリップ・プルマンによるナルニア批判が何度か引用されていて、C.S. ルイスのナルニアシリーズには男尊女卑、人種差別、今の児童書には見られない暴力性などなどフィリップ・プルマンはかなり痛烈にディスっております。そこをラングリッシュもある部分は支持、ある部分は異なる意見を入れて展開していきます。確かにラングリッシュが言うように、ずっと後の時代になって、現代の感覚で大人として読んだプルマンの意見はちょっとフェアでないのですよね。子供の時どう感じたかを語りつつ、今改めて考えてどうかも語るラングリッシュの批評には、ナルニアを読みそれに育てられた女の子としてのファンタジー愛とムチが詰まっています。「エドマンドが魔女からもらって体を温めるドリンクを友人は『セクシーな魔法のオーバルティン』と呼んだ」という、二ヤッと笑ってしまうエピソードもあれば(オーバルティンは1904年発売されたココアに似た粉末の麦芽飲料)、現代の感覚で言えばかなりアウトに見える箇所に「ああ、ルイスがもうちょっと(人種差別やステレオタイプな偏見などについて)理解していたらなあ…」とぼやくところもあります。
 また、ラングリッシュが長年ブログを綴ってナルニア研究を重ねた末の考察も注目どころです。エドマンド・スペンサーの『妖精の女王』や『ハバード小母さんの話』、ジョン・バニヤンの『天路歴程』、ミルトンの『失楽園』、ヨブ記や黙示録、ネズビットの『魔よけ物語 続・砂の妖精』などなど、シリーズの各作品でルイスが影響を受けたり、下敷きにしたりしたと思われる作品の引用と、ナルニアの該当箇所・該当キャラクターにどう影響が現れているかなどが語られます。ルイスと交流のあったトールキンの『指輪物語』との違いなどの指摘もあり、内容てんこ盛りの熱い批評エッセイなのです。というわけでこれ、訳書だしませんか!?(営業w)

この記事が参加している募集

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?