The Strangeworlds Travel Agency 異世界にひととき逃げてみたっていいじゃない。

L. D. ラピンスキ著、刊行日:2020年4月30日、ページ数:384、ジャンル:児童書/ファンタジー

あらすじ
 12歳のフリック(フェリシティ)は、両親や幼児の弟といっしょに小さな村に引っ越してきたばかり。仕事で忙しい父母はフリックに小さな弟の世話を押し付けがちで、もっと遠くの、広い世界でいろんなことを知りたい気持ちを抱えながら日々を暮らす聡明な女の子だ。引っ越しの片づけもそこそこに、フリックが新しい町がどんなものか散歩がてら見にでかけたところ、ストレンジワールド旅行代理店という建物を見つける。お店にいるのは、フリックより少し年上に見えるジョナサンという少年だけ。
 旅行代理店と名乗りながら、なぜか中にはたくさんのスーツケースが積んであるそのお店は、魔法のスーツケースから異世界に入って未知のエリアを調査するストレンジワールド・ソサエティのメンバーだけが利用する場所だった。元々はジョナサンの両親が経営していたが、母親は亡くなり、父親も2か月前から行方不明でジョナサンが受け継いだのだと言う。
 異世界を旅するための特別な能力が備わっていることが分かったフリックは、ソサエティの最新メンバーとなった。両親が仕事に出て小さな弟が託児所に預けられている隙に、ジョナサンのガイドで異世界巡りをスタートさせる。
 何百もあるスーツケースの一つ一つは、それぞれ違う異世界につながっているとジョナサンは言う。ためしに入った小さな異世界には人っ子一人いなかったが、フリックはジョナサンの父親が残した複数の異世界の名前をリストアップしたメモを見つける。二人はジョナサンの父がこのリストにある異世界のどこかでトラブルに巻き込まれ、帰れなくなっているのではないかと考え、メモにある異世界をひとつずつ調査しに出かけるが‥‥‥!?

感想
 フリックみたいに賢くて、知識に飢えた女の子がある日海外旅行どころかひとっ飛びに異世界旅行を始めちゃうという設定がグッときます。この本が出版されたのは、イギリスで新型コロナ対策のために外出制限が始まった直後のことです。それから数ヶ月、学校も必需品以外のお店も閉まっている中、家庭という小さな世界に押し込まれているフリックのように、異世界にいっしょにエスケープした読者たちはたくさんいたに違いありません。読んでるうちにふっと救われて、ときどき異世界にエスケープもいいんじゃないっ!?なんて気分になってきます。
 後半になるにつれ、フリックには異世界を旅行する能力だけでなく、歴代ソサエティメンバーの中にも長らく現れなかったある特別な才能があることが判明するのですが、母をなくし、父も行方不明になって代々続くビジネスを受け継いだジョナサンの複雑な思いが絡んできて少々ややこしい事態になってきます。ジョナサンは父親を捜すために、フリックの特別な力で助けて欲しいと正直にフリックに言い出せない。フリックも初めて心から友達として近しくなったジョナサンがそんな大事なことをずっと黙っていたことを許せず、一人飛び出してしまう。そんな二人が異世界の人々との出会いを通して許し合い、認め合って成長を遂げる。そういう児童書の王道もがっちり抑えつつ、ストーリーの世界観も素敵で、(個人的には)やっぱり異世界の食べ物には心躍ります。風変りなお菓子や、中東料理をイメージしたような屋台フード(これについては中東料理のお惣菜を買ってきて再現までしました笑)。来年にはシリーズ3冊目が刊行予定ですが、続きにも期待が高まります!

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