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テキストコミュニケーションに不可欠な言語化力。

緊急事態宣言が解除されました。今後人と人が顔を合わせて、同じ場所で仕事をしていく機会もまた増えていくのかもしれません。ただ、コロナ禍において大きく変わってしまったライフ&ワークスタイルや常識などは引き続き残っていきそうです。

マスクでお互いの表情が見えづらい、リモートワークの方が何かと働きやすい、など、これまでのコミュニケーションスタイルから大きく変化したコロナ禍のオンラインを中心としたコミュニケーションの形に、良くも悪くも慣れてきた自分がいます。

この大きな変化の中で、特にテキストコミュニケーションは、これまではメールやLINEなど個人間でのクローズドなやりとりが多かったですが、オンラインツールを駆使したリモートワークが浸透したことで、ビジネス上のチャットツールやZoomなどのオンラインMTGに付随するチャット機能なども含め、チームや組織間、集団でのオープンなコミュニケーションにまで一気に拡大しました。

コロナ以前は、オフィスという同じ場で、互いの表情や動きを感じ取りつつ仕事仲間と共に働くというオープンな環境がスタンダードでした。今は良くも悪くも、仕事仲間の存在をPCの向こうに意識しながら、それぞれがクローズドな場で個別に働くという状況になっています。学校などにしても、オンラインに切り替えていれば、同じような状況が起きていると思います。

その結果、廊下やトイレなどですれ違いざまに声をかけ合ったり、エレベーターや給湯室でちょっと雑談するといった、偶発的かつ無目的なコミュニケーションが激減しました。オンラインMTGの場合、移動がない分前後の予定も隙間なく詰まっていたりして、話す内容や目的を明確に定めてMTGを進めることも多いです。また、会議終了後に会議室に残ったメンバーで話し込んだりするようなことはオンライン上ではまずないのではと推測します。

学校などでも、校舎や教室内では雑談が良しとされていなかったり、そもそもマスクをしているため、お互いに表情がよみとりづらく、タイミング良く相手に話しかけられないことも多いのではないかと思います。またオンライン上では学生同士が講義を受けながら口頭で雑談するのも難しいはずです。

こうして、多くの口頭でのコミュニケーションが、チャットツールやメールなどでのテキストコミュニケーションにとって代わりました。1対1のクローズドなコミュニケーションではこれまでもメールやLINEを使うことが比較的多かったと思いますが、コロナ禍で加わったチームや組織など集団でのオープンなテキストコミュニケーションに戸惑ったり、今も戸惑い続けている人がたくさんいるかもしれません。

これまでのチャット上のコミュニケーションでいうと、相手が何か言ったことに対して適切なリアクションを取る、ということが大事にされてきたのかなと思います。しかし今大切なのは、あくまでテキストによるコミュニケーションだと私は考えており、リアクションももちろん大事なのですが、それ以上に自分の言葉で書くこと、伝えることが重要になっていると感じます。

例えばリアクションであっても、リアルなコミュニケーションでの表情など非言語的な要素も含めた感嘆の言葉と、文字やテキストだけの感嘆の言葉では伝わり方が大きく変わります。「ああ」や「おお」といった表現は、伝える側の意図するものと、受け取る側の感じ方で大きく差が生まれる可能性も出てきますし何より伝わるメッセージが非常に不明確です。

テキストのみのコミュニケーションの場合、自分がどう感じたのか、そして相手に何を伝えたいのか、ということをまず自分の中で明確にし言語化しない限り、正確な意思疎通はできていないと考えた方が良いと思います。日本語特有の曖昧さは、文脈が共有できていてニュアンスまで伝わるコミュニケーション上でのみ価値を発揮するもので、その大部分が排除されがちなテキストコミュニケーションでは曖昧さはむしろリスクになると思います。

それを何とかしようとこれまでに絵文字やスタンプが生まれてきたのでしょうか。たしかに個人間でのクローズドなコミュニケーションであれば絵文字やスタンプを使ってニュアンスのみ伝わっていれば大きな問題にはならないと思います。ただ、ビジネスや教育などよりオープンかつ公的な現場では、絵文字やスタンプでその場を濁すことはなかなかできないはずですし、もしもそれがまかり通っているなら、それはそれで危険な匂いがします。

特に、集団をまとめる役割を持つ人、いわゆるリーダーや指導者の立場にある人の言語化力が不足していると、テキストコミュニケーションの場にいるメンバーを巻き込み、その場に限らず集団全体の意識まで骨抜きにしてしまう危険があるのではないかと考えています。

また、そういうリーダーや指導者の場合、言語化力が弱いメンバーが新しく入って来ても、テキストコミュニケーションスキルや言語化力を鍛え育てることが難しいのではないかと危惧します。テキストオンリーであるにも関わらず、本質的な意味の伝わりにくいリアクション中心の感覚的コミュニケーションに終始することで、チームや組織において今メンバー間で大事にしたいことなど重要なポイントが明確に伝えられず共有されないのです。

これまでなら、その場の力や対面による非言語的なコミュニケーションで何とかしてこられたと思います。また、職場での用件のやりとりに限らず、ふとした雑談などで語り合ったり、受け取れる機会もあったかもしれません。

チームや組織など何らかの目的を持つ集団において、本質的に重要なコミュニケーション要素を失った今、必要なことは、個人がそれぞれに言語化力を鍛えて、自分の言葉で書いて語れる、伝えられるようにすることです。言語化力は突き詰めていくと、いつも何でも言葉にすることではなくて、今ここが相手や自分にとって大事だと思った時に、その場にいる相手とそれを共有できる言葉を生み出せる力だと思います。

一人きりで言語化力を磨くのはそう簡単ではありません。いくら世に溢れる名言を読み漁ったところで、自分の中から出てくる言葉でなければ伝わらないのです。(自分の思いや考えを言葉にしたとき、誰かの名言がしっくり来たというのであれば、それをまとめて伝えれば共通言語として伝わりやすいとは思いますが。)

言語化力を磨くのに一番良いと思うのは、対話です。他者に話をきいてもらい、問いを投げかけられ、それに答えようと言葉を紡ぐ。そして自分も他者の話をきき、問いを投げかけることで、そこにたくさんのかけがえのない言葉が生まれてきます。そのプロセスを体験することがまず何より大切だと思うのです。ある程度対話が習慣づいて、経験を重ねていければ、一人でも本を読んだり考えごとをしながら自問自答をして自分の中に湧き上がるものを言葉に表現して伝えることができるようになると思います。それはつまり言語化力がついてきたということです。

言語化力がついてこれば、相手が理解しているかどうかを確かめるときにも、自分が伝えたいことを改めてその場に提示して確認と共有ができるようになります。何となくわかってくれているかな~という曖昧な状況と表現にいつまでも甘えていると、骨抜きになった集団を後からもう一度立て直すという、大きな代償を背負うことになるかもしれません。

ここまで書いてきて、やはりリアルなコミュニケーションや場は大切だなと思いました。正直に言えば面倒くさいと感じる部分もいくらかはありますが、今はむしろ良い部分を大きく認識しています。とはいえ、一度移行してしまったこの働き方をそう簡単に以前の状態には戻せないはずですし、当然リアルなコミュニケーションや場であっても、言語化力があればよりスムーズかつ心地よくいろんなことを進められます。

自分は言語化が苦手だなと感じる方は、まず身近な人と対話することからはじめてみてはいかがでしょうか。その際大事なのは、いくら自分が言語化したいからといって自分の話ばかりするのではなく、相手の話もきちんときくこと。そして相手の話をきいてその場で自分が感じたことを、率直にかつ丁寧に言葉にして、相手に向かってそっと投げかけてみることです。

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