まず感覚への配慮、次に情報保証、そして対話
発達障害診療って何をするの?(5)
ASD(自閉スペクトラム症)はコミュニケーション、社会性、イマジネーションの質的な偏りがみられるとされ、これらをあわせて「ウィングの3つ組」といわれています。しかし当事者の側からみると感覚(情報の受け取り)の特異性が先にあり、3つ組は二次的なものです。
ですので、まず感覚への配慮を中心とした身体アプローチ、ついで情報保障を中心にしたコミュニケーション支援、そして対話の継続が自閉スペクトラム症の方への支援としては軸になります。
感覚の偏りに配慮し、刺激を整える
ASDの人は、現代の社会の多数派の感覚とは違う世界に生きています。ある部分は鈍感な一方で、ある部分のみ見えすぎる、聞こえすぎている、感じすぎているのかもしれなません。コミュニケーションの障害以前に、当事者の体験からすると感覚の偏りにまつわる困難が多く、むしろ身体障害に近い印象です。視覚障害、聴覚障害などに近いともいえるかもしれませんが、それなりに見えていて、聞こえているだけに、その体験の違いが本人も気づかず、他人にも理解されにくいというのがしんどいところです。人の感覚というのは人それぞれですが、多数派の感覚をもつ人には少数はの感覚や体験は理解されにくいです。
たとえば、多くの人はそれほど気にならない程度の音の環境でも、当事者は「みんなうるさい中、我慢して一生懸命聞き取っているのだ」と思って頑張っており、ヘトヘトになっていたという事が起こりえます。そういう状況が気づかれず、手立てもなされないという状況に陥りやすいのです。
感覚については本人に聞ける場合はこういう体験をしているんじゃないかと予想して聞きますし、本人が他の当事者の語りなどから気づくこともあります。子どもや言葉が少ない方など本人からの表出が難しい場合は行動観察などから推測します。SP(感覚プロファイル)などのアセスメントツールをもちいるとやりやすいでしょう。保険適応になっていないので、療育や作業療法の中でやることが多いかとおもいます。そして本人のおちつける、安心できる刺激や情報の環境を専門職の支援者と相談しながら整えることをまず第一に考えます。
さらに五感や固有受容覚、内部感覚などからの感覚入力は脳への栄養ですので戦略的にどのような感覚をどう取り入れるかを整えてていくという感覚統合法のアプローチはとても有効です。
耳栓やイヤマフ、ノイズキャンセリングやイコライザ機能のついた補聴器や集音器、近視や乱視だけではなく、色や偏光レンズなど感覚の入力を調整したグラス(イノチグラス®など)は積極的に活用します。
まだ研究段階のものも多く、こういった支援機器はまだまだ医療機器、支援機器として公費で購入しにくいのが残念ですが、自分にあう感覚補助ツールが見つかると疲れにくくなり楽に過ごせるようになります。
より脳内の微細な部分の調整としてはエビリファイやリスパダールといったお薬を用いることがあります。これらの感覚入力を調整するツールやお薬を使ったことで、世界がひろがり余暇活動や就労などができるようになった方もいます。
社会としてもショッピングセンターで音や証明を落としたクワイエットアワーをもうけて過敏な人がきやすいようにするようなセンサリーフレンドリーな取り組みもはじまっています。
視覚的に情報を保証する
情報ということに関しては、時間や空間をわかりやすく構造化し、視覚的に伝えることが必要です。どういう見通しなのか、どうすればいいのか、どういう選択肢がとりえるのか、背景にどういう理由があるのか、というのも見えていなかったり多数派とズレて想像しているかもしれません。
基本的には素直で真面目、字義通りうけとりますので、例えば学校をサボる、休むという選択肢が知らされないと、ヘトヘトになるまで頑張ってしまいます。成人の当事者で、学校を休むという選択肢があると知っていたら行かなかったということをよく聞きます。
こういった構造化や視覚的支援ということに関してはノースカロライナの地域をあげての実践の集大成であるTEACCH関係の本に詳しいです。
社会の中での視覚的な情報提示はすすんできており、子どもにも認知症の方にも、言葉の分からない外国の方でも、間違いなく迷いなく理解して選べるような分かりやすいユニバーサルな案内が増えてきてます。スマホなどの情報端末も恩恵であり、さまざまなアプリも活用できます。今や学校などよりも遥かに一般社会のほうが楽かもしれません。
時間の流れを見える化する
さらに見通しがたたないということで不安になりやすくその不安がこだわりの原因に、突然の予想外の変化がパニックの原因とになります。 特にとらえにくい時間の流れをカレンダーやスケジュールわかるようにすることからはじめましょう。脳に優しい一軸の巻カレンダー®から始めるのがおすすめです。カレンダーやスケジュールをはさんで、現時点での見通しを把握でき、楽しみに待ったり、心の準備をしたり、自分で行動を選べるようにすることが特に大切になります。
さらに見えない消えてしまう音声でのやりとり、暗黙のルール、不十分な情報提供は極力なくし、見える形で確認しながら丁寧に率直に確実に伝える。私は診察室ではその日に話したことをかならずイラストや文字で書いて渡すようにしています。
本人からの表出には絵カードや筆談を用いて視覚的にやり取りする方法としてPECSやVOCAなどのツールを使う方法もあります。
情報環境を保証するために、巻カレ®、コミュメモ®などの市販のアナログツールを用いた、おめめどう®さんの方法論はトータルで完成度が高く適応範囲も広くおすすめです。
必要な情報がきちんと保証された上で、本人の選択が保証され、周囲との対話が続けられていければ、情緒的にも安定して育っていくことでしょう。
(つづき→気持ちスキルと落ち着きスキル)
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