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苦痛なく、不安なく、混乱なく過ごせる育ちの環境を

発達障がい診療って何するの?(2)

私は発達に支援の必要な子どもたちに対して医療ができることは何かをずっと模索してきました。実際に見て手触りを感じて納得しながらすすみたい自分のASDの特性と、あちこちの現場に出向きたいADHDの特性がつくづくあらわれているなあとおもいます。

様々な現場を放浪する研修

 大学病院では児童精神科の初診の予診をとり診療の陪席(見学)をさせてもらい、神経小児科医の診療も見学させてもらいました。その後、外来や病棟で子どもの診療、発達障害の家族教室や子どものグループなどにかかわりました。ただ大学病院ではごくごく一部のタイプの方しか関わることはできません。

 自分から求めて児童相談所の医療相談や、児童養護施設、乳幼児健診、療育施設、福祉施設、また教育相談の保育園への巡回相談、幼稚園、小中学校の巡回相談などへにも同行させてもらいました。さらに強度行動障害となった方の自宅や養護学校へ訪問したり、行動援護にも同行したりもしました。 

 保育園の巡回相談につかせていただいた福岡寿先生の
「はじめて集団生活に入る保育園で見せる姿は宝の山。ここを逃さず親にも特性に気づいてもらう。しっかり手立てをつなぎ学校で不適応を起こさせないことが大事。」
というのはそのとおりだなと思いました。

学校教育の現場で医療は何ができる?

 子どもにとってまずは親との良好な関係が大事です。みとおしと手立て、選択肢を示し、大変にならないように暮らしを支えるところからはじめますが、親子であってもどうしても相性が悪いこともありますし、親が力不足の場合もあります。

 その場合でも地域社会、福祉や教育で支え、カバーできる仕組みが必要です。特にほとんどの子どもが過ごす学校は大事なのですが、逆に学校での教師の本人の特性を理解せず対話のない不適切な関わりや、生徒のなかでのいじめなどのためにリスクになってしまう場合もあります。

 様々な不適応行動、身体症状や言葉で訴えてきてくれる子はまだいいのです。そこから手立てがはじめられますから。しかし過敏でありながら表出が弱く、環境に過剰適応して一見問題がなく見える、気づかず型、がまん型の子たちにも特に注意が必要です。 

 そこで学校現場の支援会議への参加、高校の嘱託、そして特に養護学校、地元の教員の研修、スクールカウンセラーの事例検討へは特に可能な限り積極的に出向きました。さらに、発達障害や不登校の親や当事者の会などにも関わり対話を重ねてきました。

「人は医療の中だけでは育たない」と先輩医師からよく聞きました。
医療に出来るのはわずかなことかもしれません。ただ、医療には岡目八目の立場で家庭、教育、福祉、行政の枠を超えたチームをつくることができる、また長いのタイムスパンで関われるという強みがあります。
残念ながらこの強みを活かせず、主に問題行動を抑え込もうと薬物調整だけの話に終始している診療も多いように思います。そういう診療ではえてしてお薬の使い方も下手だったりします。

苦痛なく、不安なく、混乱なく

 その後も、大学病院の他、障害児の専門病院、県精神保健福祉センター、街場のクリニック、総合病院で、対象者やかけられる時間、使えるリソースがそれぞれ異なる外来で診療をしてきました。

 そういった自分の臨床経験や文献をもとに発達障害への支援のポイントをまとめてみました。
 何より子どもの人権を尊重し、故佐々木正美先生のいうような「苦痛なく、不安なく、混乱なく」過ごせる暮らしと育ちの環境を継続的に保証するためです。

・親も子どもともに見通しと選択肢をもった子育てができ、暮らしが楽になる具体的な手立てを続けられること(特にツールの活用)。
・周囲の大人がさせたいことを押し付けるのではなく、子どもとの対話を継続し、人権と主体性を尊重した関わりを続けられること。
・本人の興味や嗜好に合致した余暇活動を見つけられ、それを通じた社会経験や自己理解、仲間づくりができること(就労支援より大事)。
・思春期からの自立と主体性の尊重、子離れを意識した関わりがなされ、支援付きの試行錯誤が保証されること。(子離れは意識的)
・親子双方に良質な情報交換と仲間づくりの場があること。

 これらのポイントは、特に巻カレ®、コミュメモ®などの支援ツールを開発して販売している(株)おめめどう®(奥平綾子さん、大西俊介さん)、そして発達障害の子が好むタイプの余暇活動支援を行うネストジャパン(本田秀夫ドクター)、それから発達障害あるあるラボなどのセルフヘルプ活動、イイトコサガシ(冠地情さん)などの成人期の当事者との活動や対話、などから学んだことがベースになっています。でも、これってほぼTEACCHプログラムの言っていることと同じですね。さすが。ただ、日本では文化的に本人主体と人権尊重、選択活動を強調しないといけないというのが奥平さんの主張です。これを基本にADHDやLD、DCDに対する対応、身体アプローチを加えていきます。

つづく


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