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いい夢みろよ 深夜暴食篇


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22:43

中之島公園

バラが咲いている。
全体は見渡せないがここはバラ園らしい。
つい2週間前、郡山で見たバラ園より
花の数が多い。大阪は暖かいのだろうか。
周囲の河川が適度な湿度を保つのだろうか。
ただ、見える範囲には白い花が咲き誇る。

花の名前はマリリン モンロー

よく見れば照明の具合で
白に見えていたのかもしれない。
黄色もあれば、奥には赤もピンクも見える。

酔ってしまった私は腰を掛ける。
カバンからつまみを取り出す。
じゃがりこの細いやつ。
蓋を開けて周りに進める。

「真っ二つの月が出てるなぁ」

私はぼんやりと言う。写真を撮る。

綺麗なぁ、いつもそう声をかける

それを聞いて、
「真っ二つの月?
 (そんな表現)初めて聞いたわ」

とNさんは笑う。
皆、思い思いに話している。

酒のせいにして頭を空にしていると、
Jinさんの元気な声がする

「えーと!はじめましてですよねェ!」

ああっと、うっかり。

「すみません、自己紹介もせず…
 はじめましてです!」

そこからちょっとだけ談笑する。
Jinさんは明るくてハキハキと話す好青年。
舞台上の彼を思い出す。
演奏はマンドリンの繊細さと力強さ
その振り幅を存分に引き出して
巧みに聴かせて魅せた。

ステージでの演奏の話になると
「あんま決めずにリズムとか流れに任せて…」と。磨かれたものを素直に出すのは難しい。
彼の明るさや純粋さが音に現れたのか。

とはいえ、私は彼をほとんど知らない。
会って数時間ほど。話したことも一言二言。
それで一体彼の何が分かろうか。
純粋に見えて実は腹黒いかもしれない。
明るく見えるのは酒のせいかもしれない。

…いや、やめよう。
不毛だ。

ネガティブな思考は
いい方向へ行ったためしがない。


転換してみる。
磨かれたものを表現として出すのが
難しいこと、これには身に覚えもあるのだ。
「見ていて気持ちのいい演奏をした」
それが事実だし、そう感じた自分がいる。

それが、ただ、いまの、現実。

そう思うと、ウッドベースの加藤さんも
ドラムスの斉藤さんも、素晴らしいステージ
素晴らしいパフォーマンスをしていた。

皆で、練習もしたのだろうけれど
それでも舞台で目一杯の音が合わせらるのは
本当に気持ち良かったろう。

立ち会えて嬉しい。しみじみと思う。

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時間の感覚が曖昧だ。
あえて時計を見ないようにしている。
ただ、想像するにそろそろ
終電の時間が近いだろう。
ということは、23時すぎ、あたりか。

Jinさんのご友人という方が
一人合流した後、間もなく解散となる。

難波橋の橋上で、それぞれ分かれる。
谷澤さんたちは南へ。
JinさんやNさんたちは北へ。

私はというと、北へ。
理由は軽くいくつか浮かんだが
「南下したらたぶん時間を持て余す」
が一番の要因だった。
最終目的地の駅は南にある。
時間を消費するなら逆を行こう。

のんびりと、小さくなった一団は北上する。
このまま大回りに大阪を回るか。
多分途中で、皆とは別れることになるだろう。そう思うと少し寂しくなる。


寂しい気持ちは酒のせいにする。
無口になっていくのも酒のせいにする。
便利なものだ。酒は。


「言い訳にされる酒の気持ちにもなれよ」

ちいさく、脳内の統制官が冷や水をかける。
上着のおかげで寒さはなかった。
ただ、笑って、黙っていた。


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扇町通 神山交差点

大きな通りに出る。
そこは東西に分かれるT字路。
左に行くとJR大阪駅、そして
迷宮と揶揄される「梅田駅」がある。
一団はそちら方面を目指すようだ。

「では、ここの辺でご無礼します。
 短い時間でしたが、夢見心地でした」

感謝して手を振り、別れる。
皆明るく手を振ってくれた。

ふむ。飲みすぎたかな。
歩くのにふらつきまではしないが。
どこかで少し休むか。トイレ行きたいかも。

300メートルほど歩くと
交差点の道向かいにコンビニ、トイレは…
やはり深夜なので使用不可。深夜あるある。

店を出て交差点の角向かいに
公園の入り口が見える。大きな公園だ。
念のため調べる。24時間使用可。公衆トイレ。
はい、OK。向かおう。

そこまで切迫はしていない。
けれど、まぁ、綺麗かどうかは問わない。
スケボーする若者を横目に足早に公演を歩く。

11/5(日) 00:25

扇町公園

時計を見ると日付が変わっていた。
スッキリした。なかなか綺麗だった。
しかし、なんでだろう?

見回すとビルがある。社名が目に止まる。

「関テレ」

おっ、テレビ局か。お疲れ様です。
ここはテレビ局傍の公園だったのか。
ビルを見上げ、ベンチにペタンと座る。

局の周辺は綺麗にしてるのかな。
いやー、流石だ。地域貢献してる。
で、「関テレ」ってどこ系列だっけ。

Xでつぶやく。
(翌朝リプが飛んでくる。
 「フジだって🗻」へぇ~。
 馴染みないわけだ…。)

ともあれ綺麗な公園が近いのはいいことだ。

休憩がてら今後のルートを決めよう。
地図を開くより前に、目の前の交差点の先に
商店街の看板が見えている。

「天神橋筋 4番街」

お。これはひょっとして…。地図を見る。
南北へ一直線に道を伸ばす
「天神橋筋商店街」の文字。
この道は歩行者天国か?よく見ると
「アーケードの長さ日本一」とある。

これは面白そうだ。ここを進もう。

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腰を上げ、吸い込まれるように商店街へ。
左、北方面を見る。先が見えない。
右、進行方向。南を見る。先が見えない。

「ほほぅ…長いもんだなぁ…さすが」

道は平ら。歩きやすそうではある。
道はおそらく中之島にまたぶち当たるだろう。この街道沿いで何か食べれたらいいのだが。

00:40

南森町駅 周辺

「関テレ」から15分ほど歩くも
商店街は軒並み営業を終了している。
日付が変わった深夜なのだ。当然である。
駅への地下入り口も閉鎖している。
と、交差点角に明るく営業する店舗が

「麵乃庄つるまる饂飩」

おお!うどん!
酒飲んだ後に最高のメシでは?
思えばここに来るまで
電車内でおにぎり2個と
スナック菓子を食べただけなのだ。
おおん。空腹感がすごい。入店しよう。

「つるまると言えば京都地検の女…」
などと、煩悩が言いかけたのだが
メニューを見ると真剣に選び始める。
空腹には勝てない。


ごぼ天肉うどん + ちくわの揚げたん

凶悪な深夜めしが沁みわたる。うめェ…。

店内の小さなテレビからは
アニメ『進撃の巨人』の最終話。
テレビが古いためか、音声がゴリゴリで
何言ってるかわかんない。
リアタイできないけれど、まいいや。
すぐに配信されるだろうから
今度、アマプラとかで見よう。

それよりうどんが美味しすぎる。
空腹は最大の調味料とかいうけど
ありゃ作ってくれた人に失礼だ。

腹が減ってなくても、旨いものは旨い。

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たらふく食べて店を出る。
街道はなおも南に延び、歩みを進める。

少し行くと大阪天満宮の文字
覗いていこうとしたが門戸は閉鎖。
観光は普通に昼間来るべきだよね…。


街道へ戻る。
コンビニがある。
デザートでも食おうか。入店。
色々物色していると
これまた凶悪そうなモノが…

おやおや、これは…

今日のステージであの人が
アレしたって言ってたやつー?


写真じゃ分かりにくいんだけど
スゴイデカイのよこれ

こんな機会じゃないと手に取らない買おう。


店を出る。

買ってから思う。

脳内で会話が始まる

「うん。しばらくはお腹いっぱいだったわ」

「なんで買っちゃった?」

「見つけた時が食べたい時」

「アリクイみたいなこと言わないでください」


夜が終わらない。




つづく




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