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On the border〜知らない世界に会いに行く〜原啓太・渡邉とかげ篇(後編)

作中に登場する職業の方に実際に会いに行き、お仕事の実態をお伺いする「On the border~知らない世界に会いに行く〜」、今回は、作中で、N P O法人日留教育協会職員、森雄太を演じる原啓太と、萩島コミュニティセンター勤務、渡邉タルファンを演じる渡邉とかげが、在留外国人の子どもたちに日本語を教える「N P O法人多文化共生センター東京」にお邪魔してお話を伺ってきました。
実際に授業を見学させていただき、在留外国人の子どもたちをめぐる環境をお聞かせいただいた、前編。
今回は、その後編をお届けします!

↓↓前編はこちらです↓↓



日本語を「学ぶ」ということのあれこれ

ハマカワ(以下、ハ) あの、ここのO BやO Gの方で、日本に永住してお仕事されてる方が来られたり、その後をどう過ごされてるといったことを知る機会はあるんでしょうか?
枦木さん 一斉にまとまってというのはなかなかないんですけど、つながっている卒業生が就職や在留資格の相談だったり、来日したばかりの知り合いをここに紹介して、日本語の学習に繋げてくれたり、というようなことはありますね。
渡邉(以下、渡) みなさん卒業される頃には、日本語が喋れるようになってるんですか?
枦木さん ここは、入室した次の年度の高校受験に向けての学習がメインなんですよね、1月からの外国人特別枠入試、あるいは2月の一般入試を受験をすることになるので、すごく短期間の学習になるんです。
 次年度の受験に向けた塾、みたいな性格があるということですね。
枦木さん そうですね。日本語が上手に話せる人になる、日本語力を十分につけるところに到達するまでに、いったい「どのくらい勉強したらいいんだ」ということはありますが、その中でまず高校入学を目標にしている、できるだけ早く高校に行く、というのを目標としているわけです。ただ、入った高校で十分な日本語の支援、学習の支援を受けられないと、中退、ということも起こってきます。
 心折れちゃう、みたいなことなんでしょうね・・・
枦木さん そうですね。文科省でも、日本語支援が必要な生徒等の中退率の具体的な調査を進めていますけども、外国籍の人の中退率というのは日本人に比べて、とても高いことがわかっています。
 心折れちゃうポイントは、マジョリティである日本人よりも単純に多いでしょうし・・・
枦木さん そうなんです。ここでもね、一回辞めた生徒が、やっぱりもう一回、勉強し直したいと相談に来て、再入室した生徒がいます。
 でもなんか、このお教室の中は割と明るくというか、楽しそうに勉強していらっしゃるなと感じました。
枦木さん そうですそうです。みんなそれぞれ、ね。
 ゆるキャラとか授業で扱っていらっしゃると思わなくて!
原啓太(以下、原) くまモン出てきたね。
 会話の中でゆるキャラって出てくるよなぁ、って、必要な知識かも、って。
 「くまモンは何のためにいるんですか?」って私も考えたことなくて笑
 熊本県の話出てましたね笑
 そこからね、「県」の勉強とかもできる。
 ちょっとかなり、意外な授業でした。
 あの、先生方は前職とか、兼業してらっしゃるお仕事とかが、やっぱり教育系のお仕事でいらっしゃったりするんでしょうか?
枦木さん そうですね。あと、日本語の先生っていうのは民間資格なんです。教員資格の中に日本語、というのはないんですね。文科省で日本語教員の資格を、大学とかで取得できる国家資格にしていく、という流れはあります。
 今ある民間資格を国家資格にする、ということですね。え、絶対国家資格になった方がいい気がするんですが。
枦木さん ええ。今とても人材が足りていない状況です。
 うーん、なんか俳優としては早口言葉とか紹介したくなっちゃいますが笑
枦木さん 笑。そういう練習とか、本当は、たくさんした方がいいんです。日本語の音と、母国語の音は当たり前ですけど、ずいぶん違います。なので日本語の音が、耳からもわかるようにしないといけない、発音も難しいので、ゼロから学ぶ人には、俳優の皆さんが声出しをするように、大きな声で、発声することもします。
 読む書く聞く話す、までありますものね。
枦木さん 最初、「聞く」「話す」ですね、赤ちゃんが言葉を習得していく過程と一緒ですが、その後に文字がきますね。読んだり書いたり。よく言われているのが、「生活言語」と「学習言語」の習得という考え方があります。
 生活言語と学習言語?
枦木さん 生活するための言葉、耳で聞いて、コミュニケーションが取れていると語彙は増えていくわけですね。書いたり読んだり出来なくてもコミュニケーションは取れるようになる。それが生活言語です。ただ子どもたちは、学校で勉強するときには教科書の言葉や、抽象的な概念にも触れなくてはいけませんから、それが学習言語として、勉強して習得しなくてはいけない言葉になってくるわけです。
 これはもう、机に座って、勉強しないと身につけられないタイプの言語、ということですね。
枦木さん そうです。それが、生活言語とは全然違って、習得にかかる時間が5年から7年くらい、と言われています。
 やっぱり長くかかりますね・・・
枦木さん 日本に来た時の年齢にもよるんですね、例えばここに通う人たちは、個人差はありますけれども、自分の国の言葉で、自分の国の義務教育を終えているので、母国語で学習言語を獲得して来ているんです。大変なのは、小学校の高学年や中学校に入るタイミングで日本に来た人たちです。この人たちは自分の国の言葉ではない言葉、わからない日本語で、全く新しい内容の授業を受けないといけないんです。中学校の、あの、数学なら三平方の定理、二次方程式の解の公式、とかを・・・
 あぁー・・・もう、日本人でも聞きたくないんですが・・・数学・・・
枦木さん そうでしょう笑。二次関数とかね。そういうのを、わからない日本語で、勉強するので、ほぼわからない。わかりたい、できるようになりたくても、難しい。とても深刻です。
 それは自己肯定感も下がっちゃいそうですね。
枦木さん 前、教えた子で、フィリピンから来た子でしたけども、日本語がずいぶんできるようになってから話したら、来日当時のことを「日本に来た時、僕はゼロになった」と語ってました。すごく明るくて、元気な生徒でしたけれど、日本に来て、自分自身が何もない、無力に感じる時間。つらいですね。
 ゼロなんかではないんだと思うんですけれど、何もわからない、ということがどれだけ辛いか、ということなんですよね、きっと。
枦木さん はい、全然ゼロなんかじゃないんです。でもね、自分自身がその自分を好きになれない、ということだと思うんですね、その環境の中で本来の自分でいられないということ。
 本当にしんどい、精神的に辛い状況だと思います。
枦木さん でももちろん、みんなそれで諦めちゃうわけじゃないですよ。日本だったら中学出てすぐ高校、というのが当たり前のコースですが、2年3年とか、そういう勉強の時間を経て、諦めないで頑張っている姿に、私たちが励まされたり教えられたりしているなと感じます。
 彼女(渡邉とかげ)の役なんですが、日本にやって来てそのあと日本語を習得してペラペラになって、町役場のコミュニティセンターで、多文化共生担当、みたいなところで働いてるという設定なんです。だとすると、結構な、ど根性だった、という感じになりますでしょうか。
枦木さん ああ、だとすると、それはそうだと思います。
 結構陽気なキャラなので、性格もあるのかなぁ、とは思うんですが。ポジティブ思考な。
枦木さん 仕事に就いていく、というのが本当に大変で。役場に勤める公務員になる、というのはとても努力のいることではあると、思います。
 タルファン、努力家だった説だ。

ありがとうございました

 本当にいろんなお話を聞けて、本当にすごくいろんな・・・考えるきっかけをいただけて、本当に良かったです。ありがとうございます。
 今日お話聞けた中で、学校に行けるとしても枠がすごく少ない、日本人と選択肢の数が違いすぎるというのが驚きでした、もっと広がればいいのに、と思って。
枦木さん それは本当にそうですね。
 教育の主導をしているのが国ではない、というのも本当に驚きで。
枦木さん 働く、労働力としてだけで、外国人受け入れをするのではなく、当たり前に安心して家族で生活できる制度を整備することは、行政の役割と思います。
 労働力の駒としてだけでなく、ということですね。
枦木さん そういうことです。例えば家族滞在という在留資格があるんですが、保護者が家族を伴って来日して家族を扶養している、という形ですね、この形だと、他の家族は、原則働いてはいけないんです。
 バイトとかでもダメなんですか?
枦木さん 入管に申請を出して通れば、週に28時間までは認められます。子どものうちは、まだそれでも大丈夫な面はあるんですが、ずっと家族滞在のままで成人すると、社会人として自立した仕事につくことは、難しくなります。扶養されていると親と一緒に住んでいなければいけないんです。また、保護者が帰国した場合、日本の教育の中で育ち、日本で社会人として自活したいと考えていても、帰らなければならない状況があります。
 国の制度に剥がされてしまっているんですね。
枦木さん そうです。例えば成人したら、資格を親の扶養から切り替えることができるとか、切り替えやすい仕組みにしていくことは、必要で、少しずつ、改善はされつつあります。また、子どもたちも、16歳以上であれば、在留カードを携帯することが義務付けられていたりもします。
 なるほど・・・。
 最後に伺いたいんですが、この二人がそれぞれ外国人相手に教える講師、在留外国人、という役どころなわけですけれども、なんとなくイメージで、先入観でこんなふうに演じてほしくない、ということがあれば教えていただきたいんですが。ステレオタイプ、と言いますか。
枦木さん うーん、そうですね・・・例えば18歳以上の大人の人に向けての日本語の指導と、ここでの子どもたちへの指導は、だいぶ違うんですね。留学生以上になると自分の意思で来ていますが、子どもたちは、家族の事情で、自分の意思とは別に来日していることもあります。日本での生活や環境に納得できていない気持ちを抱えてもいます。どんな生徒を教える役ですか?
 あ、でも僕はまさにここの、こういった10代の子達であったり、現状中学、高校にいくのが難しい子達を受け入れて学校と同等というか、近いような教育をしている、教えている、という設定だと思っていたので、ここの実態にかなり近いと思いました、今日。
枦木さん であれば、一つあるのがですね、言葉ができないと、幼く扱うということがあります。でも自分の国で、もう10代半ば、いろんなことを考えている多感な年代なわけですから、そこの接し方は、大切ですね、なんでもやってあげるとかやりすぎ、教え込むというのでなく、考える時間を大切にと思います。対等にというのはあると思います。あとはそんなに変わらないんじゃないでしょうか。
 外国人役については、いかがでしょうか。
枦木さん そうですね・・・いろんなタイプの人がいますけれど。
 私も、役を作っていく事自体が場合によっては偏見、決めつけになって差別の助長になってしまうと思うので、演出家と相談中ですが、架空の国という設定なこともあるんですが、国籍のイメージを限定すること自体違うんじゃないかと思って、いろんな国のイメージを混ぜたりもしていこうかと思っているんです。さっきのお話にもありましたけれど、こういう状況が「かわいそうだ」と決めつけること自体が差別の一環でもあるかとは思うんです。そういうのはやっぱりリアルに日本に住んでいる外国人の方でしかわからないかとは思ったりもするんですが・・・でも演じる中で、自分がやっぱりわからない、知らないことなので、何が不快にさせてしまうか、は、わからないというか。ごめんなさい、うまく訊けているか自信がないんですが・・・
枦木さん そうですね、・・・日本人と外国人との違い、という点で生活習慣の違いであったりとか、そういうところについては、自分が今まで知っていた価値観と違うことがあった時、受け入れられるか、というのがすごく大きいかなと思います。ゴミの出し方とか、問題になったりすることもあるんですけれど。
 改訂前の脚本の中には「ちゃんと教えてないと、どうしてそんなアクロバティックなゴミの出し方できるの、ってなったりするんだよね」みたいなセリフ、ありました。
枦木さん でも、日本の昔の、例えば私が小学校の頃とか思い出してみると、道端に唾を吐くとか、煙草をポイ捨てする姿とか、あったと思うんですよね。そういうマナー的なところは時代によって洗練されていったというか、生活が変わって来たりもしたと思うんです。だから、観光でカメラを持って、自撮り棒を伸ばしてという外国から来た人たちのことをマナーが悪くて云々、という話があるけれども、50年くらい前は、日本人もそういう印象を持たれていたことがあったと思います。ご一行様の旗とカメラを肩にかけたり、インスタントカメラを持ったりした一団は、日本人の一行として、パリなどでニュース報道されていたことがあります。外国の方だからこうなんだ、あの国は、こう振舞っているんだ、ということではなく、個人として出会うこと、わかり合うことが大切と思います。ちょっとお答えになっているかわかりませんが・・・
 いえ、ありがとうございます。
 今日は本当に、お忙しい中お時間を作っていただきましてありがとうございました。資料も・・・このまま頂戴して、読ませていただきます。
 本当にありがとうございました。
 ありがとうございました。



「日本に来て良かった」と思ってもらえる国であるのかが問われている、という枦木さんの言葉が、真夏の真っ盛り、高校をめざして日本語を学ぶ外国籍の子どもたちの机に向かう後ろ姿と共に、とても、とても、心に残りました。私たちに出来ることの第一歩は、きっと「知る」ということなのでしょう。知ろうとすることを放棄せず、同じ社会で、隣で、生きていきたい。そんなふうに思いました。


教室の壁に貼られた手書きの文字は、こう語りかけています。

「Never Quit!」(決して、諦めるな!)


取材先情報

認定NPO法人多文化共生センター東京
事務局/たぶんかフリースクール荒川校

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時間 :火~金曜日 9:00~18:00, 土曜日 10:00~19:00
電話&FAX : 03-6807-7937
Email :info@tabunka.or.jp メール送信の際は@を半角にしてください。


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