市場の前を通る。喫茶店ダックの中を覗いて、手を振る。「○○くん、今日も一人?」私は小さくうなずく。小学生ながらに、「独り」の方が都合がよいことを知っていた。それは独占欲に近い感覚。
そんな、30年前の話。
私の生まれは、市場から北東に300mくらい行ったところ。
現在、この地区で「市場」と言うと水道筋(全般)をさすが、当時のこの地区の一部の人には和田市場(現・JR灘駅北側)が馴染み深くて、記憶と思い入れが深い。もうないけど。
まず、笑顔が「すぎる」おばちゃん、Tさん(うどん屋)にあいさつをする。
そして、独占欲を満たすための冒険が始まる。市場を西側(現在のミュージアムロード)から入って、東端まで行って、もう一度西側出口から出る、往復150mくらいのコース。常に「左側(北側)」を意識して通り抜けることが、とても大切だった。
記憶の中の「市場」。
それは、私の中ではいつまでも和田市場であって、その中の人たちとの関わりが、自分の中の深い記憶となっている。
こどもを持つようになった今。市場を特別というより普通の日常の記憶として、こどもたちにも味わって欲しくて、水道筋の中、主に灘中央市場と灘中央筋商店街に良く通う。
でも、ちょっとだけ私の場合は特殊。なぜなら、私たちがコーヒーを焼きはじめた創業の地、そして、おとんの代までが生まれ育った場所。それが、冒頭の喫茶店ダックの場所なのだから。
灘の下町ブレンド。
それは、色んな香りが混ざり合った、記憶の中の「市場」の香り。どっしりと濃厚で、香ばしい苦味は、どこかしら喫茶店ダック味に似ている。
B面につづく。
※このコーヒーの売上の一部を、摩耶山再生の会を通じて、摩耶でのイベントや坂バスなどに寄付致します。