大きな樹の話6

巨木と言ったら縄文杉!?

さて引き続き、私の写真を見てくれた方や一緒に撮影に行った人がよく口にするキーワードについて。前回のトトロに次いでよく出てくるのが 「縄文杉」や「屋久島」。          具体的には、「これは屋久杉?」とか、「屋久島へは行かないの?やっぱ行かなきゃ!」と言った感じ。このやりとりをするたびに、やはり"日本人にとって巨木と言ったら縄文杉"の構図はほぼ揺るぎないものとしていいんだな、と思う。    まずは、屋久杉及び縄文杉とは何かをある程度まとめたい。そして私の中にある縄文杉への考えについてを後半つらつらと。

そもそも屋久杉とは、その名の通り屋久島に自生するスギであるが、もう少し細かく言うと以下の通りとなる。

屋久島の標高500m以上に自生するスギのうち、樹齢が1000年を超えるものを「屋久杉」  1000年に満たないものは「若杉」と呼ぶ。

つまり屋久杉は激レアなご老人というわけだ。 本州のスギとの間には遺伝子的に差異があることが判明しているが、基本的に種類は同じとされる。二つが大きく異なるのはその生長速度。  雨に恵まれる一方で、花崗岩に覆われた栄養の乏しい土壌に育つ屋久杉は極めて遅いスピードで生長してゆく。500年を経た個体ですら直径はわずか40cmほど。                これに対して私たちがよく知る一般的な杉は目を見張るような速度で大きくなってゆく。あまり極端な例を出すのもアレかもしれないが、関東最大と言われる清澄の大スギを紹介する。     地元では千年杉と呼ばれる清澄の大スギ。やや根元で膨らむ傾向は強いものの、完全な一本杉としては(後述)日本最大とも言われている。しかし、昭和29年にほぼ同じ大きさで並んでいた別の杉が台風で倒壊。その際に年輪を数えたところわずか380年ほどだったという。確証は無いものの、このことから清澄の大スギも500年未満である可能性が出てきた。千葉県沿岸部の温暖な気候に育まれたこの大スギの直径はおよそ5m。      同じスギでも片方は500年で40cm、もう片方は500年で5m。                どちらも凄いことだと思いませんか?!    「樹齢が長い=凄い!」みたいな風潮は忘れ去りましょう。みんなちがってみんないいです。        

話を戻そう。                そして、それだけ生長が遅い屋久杉の中でも、途方もない年月をかけ大きく育ったものには固有の名称が付けられている。著名なものでは弥生杉、大王杉、仏陀杉などがある。そして現在、島内において最も巨大な屋久杉として知られるのが縄文杉だ。縄文時代から生きているから、そのゴツゴツとした姿が縄文土器に似ているからとも言われる。これだけ有名な縄文杉だが、発見されたのはわずか50年ほど前。それだけ屋久島が緑に包まれ、未開の地が広がっていることを示している。

さて、ここでなぜ縄文杉がたった50年で日本を代表する巨木になり得たのかを考える。     まず第一にその樹齢について。発見当初、縄文杉は推定樹齢が7200年と言われた。これが本当ならとんでもないことだ。私たちの先祖がクリを栽培し始めてた頃には下手したら1000歳とかだ。尋常ではない。しかし、現在この説はあまり有力でないとされていて、おおよそ2500年程度とされることが多いようだ。これでも十分とんでもないが。とにかく、当時の世間を騒がせたのは間違いないだろう。それだけ7200年という数字は圧倒的だった。樹齢だけで言ったら日本で1番だ。ちなみにこの樹齢考察については二つ目の理由にも関係してくる。                   二つ目にはそのサイズ。現段階で縄文杉は日本で最も大きなスギだ。(調査の数値上ではもっと大きなスギが確認されているが、根本から分岐したりしているので、ここで言うのは真っ直ぐ単独の幹が立ち上がっているものとする)                           先に述べた生長速度で日本一の座を持っているのは凄いことだ。が、実は近年の調査で縄文杉は数本の合体した樹ではないかとの意見が出ている。仕組みはこうだ。              縄文杉よりずっと昔に生きていた巨大な屋久杉が枯れて根元部分だけが残る。その残された巨大な切り株の上に新たに数本のスギが芽生える。長い年月をかけて、切り株を覆うように根を伸ばし生長してゆく。やがてそれぞれの幹は大きくなる途中で互いに合体し、まるで巨大な一本のスギのように見える。というわけだ。実はこれ、自然界でたびたび見られる現象で「古株更新」という。 こうした研究からも(本当はもっと色々あるけど)、思っていたよりも若くてだいたい2500歳くらいなんじゃない!?ってなっているわけ。だから、先に紹介した清澄の大スギは紛うことなく一本の樹として育っている中で日本一のスギということ。

縄文杉が有名になりそうな理由を二つ挙げてみたけれど、正直なところ二つ目はパンチにかける。最大なのに?!と思うかもしれないが、実は日本巨樹ランキングにおいて縄文杉はベストテン圏外。データにばらつきがあるものの、だいたい15〜20位くらいのあたりにいる。そもそも何位だろうと縄文杉がここまで有名な理由の決定打にはならないと思っている。           例えば                                                           ①日本一立派な杉                                             ②日本一立派な桜              ③日本一立派なモミジ            を比べたらだいたい②か③に票が集まりそうな気がする。                  その一方で、日本一有名な桜は?日本一有名なモミジは?と聞かれて"固有の名称を持つ個体"を挙げられる人はなかなかいないのではなかろうか。 私自身も制作を始めて、こうして樹木についての勉強をするまでは名前がある樹なんて縄文杉と神代桜くらいしか知らなかった。        そこで新たな理由として考えられるのが、縄文杉が育つ屋久島という環境と到達までの難易度だ。

縄文杉への平均的な到達時間は片道5時間前後。 もののけ姫の舞台とも言われる古代の森の中をひたすら突き進む。(ここでもパヤオ出現)               私たちの脳裏に描かれるコダマの住む森がそこに存在しているのだ。都会の喧騒に悩まされ、自然を求める私たちにとってこの上ない環境だろう。そして美しくも長い長い過酷な道のりを乗り越えた先に現れる縄文杉、その姿に感動を覚えるのはもちろんだろうが、なによりもここまで辿り着いたという達成感が大きいのではなかろうか。  容易ではない訪問だが、縄文杉以外にも見所にあふれ、ツアーなども組まれる屋久島は観光地としても非常に人気なのだろう。

とまあだいぶ話がごちゃごちゃになってしまったが、これほど有名な存在を撮らなくていいの??というのが良くある質問。

答えは明白。いつかは行きたい。

でもこれ、休みが取れたら、とか飛行機が安くなったら、とかそういうことではない。     前に何かで(これが全く思い出せない、何で見たんだっけなぁ)屋久島で昔から山に入って生活をしている男性の言葉が紹介されていて、それが深く刺さって屋久島への訪問を躊躇い続けている。

自分たちは確かに縄文杉より大きな屋久杉を知っている。でも今の縄文杉のように、観光地化され人々の見世物にされるのが分かっているから公開しないのだ。

かなり曖昧な記憶なので正確な文章ではないことをご承知いただきたい。 

縄文杉が発見されたとき、その知らせはなんと元旦の南日本新聞の一面を飾った。日本最古の巨樹として取り上げられ、瞬く間に全国紙へと広がっていった。国民に樹齢7200年説が定着するのは時間の問題だった。              そして、その存在を一目見ようと押し寄せる観光客によって縄文杉は危機に晒されることとなる。写真を撮るのに邪魔だからと周囲の樹々は刈り払われた。その結果、土壌が緩み、縄文杉周辺は1mもの深さの土が流れ出た。毎年やってくる5000人を超す人々に根元は踏み荒らされ傷んだ。中にはナイフで幹に傷をつけたり樹皮を剥ぐ者もいたそうだ。その結果、発見から20年も経たないうちに大きく伸びていた枝が片方枯れ落ちてしまった。その後も縄文杉へのロープウェイ建設案が上がるなど幾度も窮地に立たされた。                           (ここからすんごい端折るけど、東京大学名誉教授の高橋延清氏の必死の訴えなどにより工事は中止となり、その後だんだんと縄文杉への保護策が取られるようになっていった)     

私の制作の軸には           

巨樹と共に暮らす人々の巨樹に対する祈りや想い

がある。                  宗教や信仰などに向かって「そんなの迷信だ」とか「考えられない」とか否定的な見方をするのではなく、「それが当然の人もいる」と理解を示し、受け止める事が大事なのだ。       そこを揺るがぬ信念として追い続けているから先に紹介した方の言葉に胸が痛む。       少なくともちょろっと長期休暇が取れたから行ってくる!みたいなことはしたくない。     現地の人とたくさん話をして色んな意見を聞きたい。もちろん島民だって生活があるから観光に来てくれないと困る!って人もいるだろうし。 

人生まだまだ長いので屋久島に関しては本当にゆっくり焦らず向かい合いたいと思っている。  正直に言えばやっぱり見てみたいな。     きっと私が死ぬまで縄文杉も死なないから大丈夫かな。  

最後まで読んでくださってありがとうございます。超絶ダラダラしましたが、作品の中でとても大事にしてる事が書けたかな〜と思います。

おしまい  

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清澄の大スギ(千葉県 鴨川市)                                   国指定天然記念物


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